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『次の同人誌はこれだ!?』
ケヴィンla0192)&アルバ・フィオーレla0549

 いつまでたっても、カーテンの隙間から陽射しが差し込んでくる気がしない。
「……?」
 遮光性能はそう高くないカーテンだけれど、窓の外は植物園も同じで、茂り重なる緑のおかげで直射日光も柔らかな光に変わっているのが常だ。
 もしも天候が悪くても、新たな一日の始まりを告げる陽射しはどんなに微弱なものでさえ変わらずアルバ・フィオーレ(la0549)の枕元に届けられるはずなのだ。
 そうして目覚める時間が、簡単な朝の支度を整えてからの時間が、アルバにとって大切な子達、共に生活している花達の世話をしやすい時間なのだから。
(いつもなら、とうに)
 起きている時間ではないだろうかと思考は本能に従って働くけれど、瞼は簡単に開いてくれない。陽射しをうけて覚醒する癖が深く染みついているせいか、それとも花の精を親に持つからか、明度の低い場所に行くとアルバの言動は、思考は鈍くなりやすい。けれどこうして違和感に気付くことで、少しずつではあるが覚醒に向かっているらしい。
 音がしない。
 世界が完全なる無風になることはなくて、草木の揺れる音が僅かでも届くはずなのに、そうあるように住処を整えているはずなのに、それがない。
 香らない。
 ポプリやサシェの絶えることがない生活だ、寝室だって例外ではないのに、甘い香りが見つからない。
 真っ暗。
 どうにか開くことのできた視界にはやはりおひさまの気配がなくて、慣れるのに時間がかかる。
 重い。
 手触りがないのは今更の筈が覚えのない感覚を伴っている。
(どうして)
 感覚が有るという恐怖に身が竦み、思わず震えた身体に合わせてタオルケットが落ちる気配がした。
 見えないのに、香らないのに確信をもってそれと言える事実が恐ろしい。
「待ってる、のに」
 あの子達の世話に行きたいのに、その気力で絞り出した言葉に息を飲むしかなくなった。
「……どうして」
 確認の為にもう一度、恐る恐るあげた声は記憶とは違う。
 紡がれる言葉は間違いなく、アルバの意図と同じものだ。
 なのに、この少し擦れた、低い声は。

 鳥のさえずりが聞こえる。
(なんだこれ意味が解らない)
 部屋が明るい時点で冗談じゃないと思った。目を開ける前から脳内では警報が鳴り響いていて、現状確認をする気になるまでしばし時間を要する。
 寝入る時に戸締りは完璧にしているはずだ。どれだけ眠気があっても徹底してきている筈の前提が崩れている時点で不安しかない。
「起きたくねぇ」
 どう考えてもいつもの匂いがしない、むしろ爽やかな植物の香り、何か別の生物が知らずに存在している事実に現実感がない。
 溜息をつきたいのを抑え込んでどうにかケヴィン(la0192)が溢した言葉がこれだ。
「うっわ」
 すぐに寒気が体中を襲った。自分の声として認識している響きとは全く違う。可能性としては浮かべていたが、そうであってほしくないからと頭の隅に追いやっていた予測が現実のものになったことに頭痛が起きたっておかしくない。鳥肌でもたっているのではないだろうかと現在の身体を抱きしめようとして腕を動かすが、いつも以上に感覚が鈍い。
 むしろ無い。
(まあ夢だからな。こんなもんだろう)
 中途半端な設定もあるものだとどこか他人のように考える。なにせこの体は本来の自分のものではない。
 夢だと断じてしまえば思考がクリアになるのも道理で、さっさと体を起こし目を開けた。一度落ち着いてしまえば声の持ち主が誰かなんてすぐに思い浮かぶし、部屋に置かれた小物や窓の外を見れば確信だってすぐだ。鏡を探す前に髪色が目に入ったのだから疑問なんて霧散する。
 訪れたことのある場所でもあった。流石にこの部屋に入ったことはなかったが。
 仕方なく開けたカーテンの向こうから差し込む陽射しは晴天を示している。
「ここはさあ、都合よく雨降ったりしないわけ?」
 夢なんだからさあ、と見上げてみるも雨雲が流れてくる気配はない。そうでなくとも温室があるのだから、手入れの必要はゼロにはならないのだけれど。
(気になっちゃったらもう仕方ないんだよね)
 世話をしなくても夢の中なら問題はない筈だ。どうせ忘れるのだろうし痛む胸があるわけでもない。
「さっさと覚めるならいいけど?」
 それが期待できないのを薄々感じとっている。
「面倒……」
 言いながらも、上着を羽織って外に出る足取りは鈍い。
 けれど、この身体の本来の持ち主を思えばこんなものだろうし、夢なのだからと気にしなかった。


「とても貴重な機会なのだわ!」
 微笑んで向かうのは、貸衣装の種類も豊富な撮影スタジオだ。
 当日キャンセル枠に滑り込んだおかげで、アルバは無意識に鼻歌を歌っている。選曲はアルバ好みの女性歌手のものだというのに、実際はケヴィンの低い男声なものだからギャップが大きい。それで周囲の人目を引いているのだけれど気にしない。
 なにせ着てみたい、正しくは着せてみたい衣装の数が多すぎる。
 格式ばった正装に、普段なら選ばないようなカラフルであったりカジュアルな服は中々絞り込めない。しかしジャンルの違う衣装の中でもこれぞと思うものがあり、全てを時間内にお撮影まで終わらせることを考えるとあまり数はこなせない。
(それでも時間としては短いのだわ)
 これが本来のアルバ自身で挑むものだったなら、衣装に合わせて髪型からアクセサリから、全てを一から整えるのだけれど。着替えの手間等も含めて男性の行程の少なさに少しの羨ましさを感じる。今この状況においては手早く進むことは幸運以外の何物でもないけれど。
「絶対に存在しない表情も見放題なのだわ」
 普段のアルバが無意識に浮かべる笑みさえも、別人の身体でやると印象が全く違う。それに気づいてつい鏡の前で百面相に挑戦をしてしまうのだ。
 左右反対だ、なんて細かい所は気にしない。鏡の前で練習しておいて、スタッフに保存版を撮って貰えば後からいくらだって見返せると思えば意味もある。
「仕上げはこれね?」
 小道具や背景も駆使して花を背負った王子服の撮影も終えた後、アルバが手にしたのは化粧道具達だ。
 男性の体格に合わせて作られた女性服も何種類かあって、締めにはこれしかないと手に取った一着。
「綺麗な服を着るなら、相応のお手入れも必要なのだわ♪」
 残り時間も少ない中、最高の一枚を仕上げて見せる。
 気合を込めて頷いたアルバは、化粧台へと改めて向き直った。

「へぇ、こんな風になってんだ?」
 時間の潰し方に悩んだ結果、ケヴィンが選んだのはいつもとそう変わらなかった。そう、筋トレである。
 同じセイントとしての素養を持っていても、人が違えば戦闘方針も変わる。そして鍛え方も違う。
 手持無沙汰に感じたことと、いつも違う状況に落ち着かないこともあって、精神統一を兼ねたトレーニングが最適との判断になったのだ。脳筋思考なのは、落ち着いているようでいて実際は慌てていたせいなのかもしれない。
 試しにと日課のメニューを一通りこなしてみた。
(予想もあったが、滞る場所はそう無いな)
 強いて言えば同じ姿勢を長く保つのに、常よりも集中が必要だったくらいだろうか。
 アルバは前衛寄り、ケヴィンは後衛寄りだ。しかしケヴィン自身がこの趣味を理由にまんべんなく鍛えているため大きな差を感じることはなかった。
「むしろ想像より鍛えてる結果に驚きだよね」
 その理由はどこだろうと軽く首を傾げるが、すぐに花達の存在を思い出す。植物の世話はその成果ばかり、つまり華やかさばかりに目が行きがちだけれど、重労働なのだ。
(つまり動き回れるってことだよねえ)
 結局は好奇心が増して、そのまま興味が勝った。
「慣れない動きの筈なのに、自然ってのが興味深いよねえ」
 幾度か同じ戦場に立ったことがある、まじまじと見る機会というのは多くないが、知っている動きと普段の癖を考えれば、身体は当人のものなのだから再現は可能だった。
(現場のアクシデントだったら絶対やらないが)
 非日常感を意識することで、楽しむ余裕が生まれていた。


「……で、なんなのこれ」
「今日の記念品なのだわ!」
 えへん、と胸を張る仕草は本来であれば可愛らしいお嬢さんに見える筈なのだけれど。
 それを実際にやっている身体は本来ケヴィンのものなのである。しかも手には渡された冊子。表紙を飾っているケヴィンがカメラ目線を通り越してやばい電波に攻撃しているかのようにこちらを見てくるのである。
「俺の表情筋……」
「会心の出来なのだわ」
 内容も含めて完成度を見てくれ、とばかりに期待の眼差しを向けてくるアルバに急かされて頁を捲る。特別料金の超お急ぎ仕上げで製本された写真集は、印刷技術も申し分なく、ケヴィンの新境地開拓の様子を曝け出している。
「全体的に、俺の知らない動きをしているんだけど」
 なぜ化粧の過程とかメイキング画像まで収録しているのか。
(察してはいたけど?)
 何せけしからんタイトルなのである。
「これでいつ目覚めてもいいわね」
「……ナニソレ」
 不穏な台詞に視線を向ければ、悪戯めいた輝きを秘めた自分の顔を見てしまった。

 自分がこんな顔も出来るのだ、という新発見にくすりと笑う。
「聞いたことはないかしら、夢は記憶を整理するために見るものなのだわ?」
 今現在過ごしているのが夢なのは間違いがなくて、覚えていないのが普通だけれど。
「もし、整理された記憶の中に、強烈な情報を紛れ込ませたら……目覚めても、覚えていられるかもしれない、という話なの」
 実験を兼ねたようなものだけれど、うまくいけば覚えていられるし、失敗したって、夢なのだから忘れてしまっても問題はない。
 ただ面白そうで、気が向いて、手を出したら再現がなくなっただけで。
「イヤイヤイヤ、そんな都合よく行く筈が……」
「より強固にするために、袋綴じで隠しページも作ったのだけれど。もう見たかしら?」
「それ隠さなきゃいけない以前に事故画像じゃない?」
 敢えて話を逸らせば、慌ててビリビリとキリトリセンを破るケヴィン。
(この夢はお互いに見ているのかしら? だとしたら、ケヴィンさんの記憶にも残って……目覚めた後が、とっても楽しみなのだわ!)
 反応を楽しみに見つめれば、ケヴィンの目がどんどん据わりはじめる。
「容赦ねぇ……」
 肩が下がっているようにも見えるので、効果は抜群だったらしい。
「大丈夫なのだわ。私の記憶に残るだけ……」

「どこだ」
「どうしたのだわ?」
「スタジオの場所と連絡先を教え……ああ、これか」
 パラパラとめくり奥付を確認して、ケヴィンはさっさと踵を返す。なお冊子はさりげなく処分しようと考えているのでアルバには返していない。
「あ、予約入れたいんだけど、なるべく早く」
 距離を取りながら連絡を入れれば、今日はまだやっているようで。
「運がいい」
 まだ目が覚める予感もないし、充分な時間はとれそうだ。空きもあるからと当日の飛び入りを伝えてしまう。
「ケヴィンさん?」
 離れた位置からの声にはあえて答えないふりでそのまま歩いていく。所在地も書いてあるので、このまま行けばいいだろう。
(しっかし男女で不公平だよね。どうやってやり返すかって考えると)
 アルバが全て楽しんでやったことは明白だ。それと逆のことをケヴィンが楽しんで行えるのか、と少しだけ疑問に思う。やり返す、というだけでもそれなりに楽しめそうだけれど。
(普通に楽しんで受け入れそうだ)
 それでもまあ、いいか?


『ケヴィンの秘めごと』
 様々なシチュエーションで女性をエスコートする、そんなコンセプトで撮影されたケヴィンの写真集。
 女性誌にあるような“こんなデートをしてみたい!”というアンケート結果を参考にしている。
 表紙は“人気のカフェでケーキを一口あーんしてくれるやさしい微笑みケヴィン”となっている。
 おまけの袋綴じは“ご奉仕メイドさん”……家事全般をやってくれるメイキングつき。

『アルバの黒歴史』
 ぐれてみた、悪戯してみた……等の、大人になって後悔するような行動を参考に撮影されたアルバの写真集。
 写真ひとつひとつに、読むのも照れてしまうような独特の言い回しのフレーズが添えられている。
 表紙は“リーゼントを決めてお菓子のシガレット片手に窓辺で黄昏れるアルバ”となっている。
 おまけの袋綴じは“砂場の園児ちゃん”……砂遊び過程全てのメイキングつき。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ケヴィン/男/37歳/放浪者/羽翼狙手/……なんで顔面だけ筋肉痛なわけ?】
【アルバ・フィオーレ/女/24歳/羽翼騎士/とっても勿体ない夢を見ていた気がするのだわ】
おまかせノベル -
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2020年07月10日

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