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『──』
鞍馬 真ka5819

 朽ち捨てられた地、というのは、風がもうその空気を孕んでいるのだな、と感じた。
 かつて人が住み、そして永く人の手の入らなくなった場所。敷き詰められた石を苔が縁取り、折れた木材がそこから傷む。それらの中を唯一風だけが通り抜けて、その気配を運んでくる。
 この村が歪虚に襲撃されて廃村になったのはもう随分も昔の事だ。広がる光景は確かにそのようなものだった。どこもかしこも朽ちて古びて……それでも、情報を元にそこを歩けば、求めている痕跡を見つけることが出来た。戦闘の痕。複数の敵によって蹂躙されたものではなく、一体の強力な存在による。その戦いからももはやそれなりの年数がたっているはずだが、それでも分かった上で注意深く見れば、この地においては比較的新しいものだと分かる気がした。
 ──この地に生まれ、そして歪虚となってここに戻ってきた少女と君が、最後の決戦を果たした跡地。
 報告書の記録と合わせてそれらを辿り、想起する。衝撃に抉れ、斬撃に割れた戦いの跡。少女が落ちた奈落。見上げていた裂け目。君は如何にして戦い、何を感じていたのかを、胸に──そこにある、きっと一生消えないだろう喪失の空虚に──手を当てて。

 いつかこの時が来ると、ずっと分かってはいたはずだった。
 それでも、伊佐美 透(kz0243)は鞍馬 真(ka5819)の死を知らされたその時、一人になるや否や崩れ落ちて動けなくなった。
 覚悟のつもりでしていた予想では。もっと、思い出とか己を責める言葉とかで心がぐちゃぐちゃになるのかと思ったけど。その時頭を支配していたのはただただ「哀しい」、その感情一つだった。それだけがあまりにも重く圧し掛かって。そしてそれを味わう以外に全身の何も使うなと命ぜられているかのように、へたり込んだ姿勢から指一本動かせなかった。涙だけがいつまでも溢れて。詰まるような呼吸をして。胸に開いた穴の痛みだけを感じる。そんな時間を。
 どれくらい過ごしていたのだろう。後から思うに、脱水症状で死んで無いのだから二日は経ってないんだろうが。それを終わらせたのは、近くに落ちたスマホが着信を告げたからだった。奇跡的に、動けないその姿勢のままで発信者が見える。事務所のマネージャーから。それは唯一、今の自分を辛うじてでも動かせ得るものだった。ああ、このまま駄目になるとしても、これに関してだけは最低限、筋は通さなければ。震える腕を伸ばしてスマホを取る。はい、と答えたその一言がもう地獄に居るようなそれだったんだろう、相手は自分の要件より先に何事かと聞いてきた。口にすれば余計に認めることになる、大事な、親友が、亡くなった、とその事を、血を吐くような心地で告げる。すると、相手はまずお悔やみと労わりの言葉を告げて、そうして、暫く間を置いてから、気遣いつつも、
 ──それだと、先々週のオーディションの件受けて大丈夫?
 と確認をしてきた。
 …………。
   先々週のオー
  ディションってなん
     のこと
   だっけ?
 ……………………。
「──受かったんですか!?」
 ざざざ、と、脳細胞が全部書き換わっていくんじゃないかという感覚と共に思い出した。自分もマネージャーもチャレンジと思って受けてみたオーディション、端役とは言え全国区で放送されるテレビドラマの出演!
 官僚をテーマにしたドラマで、主人公と同じ島のデスクで働く同僚の役だ。主人公が行動を起こす度にリアクションをする、その為に写される役だが、初めは胡乱な目を向けていたのが、次第に気になるように、やがて期待へと変わっていくその変化を、僅かな台詞と短い時間で表現する。パントマイム的な感情表現と一言の声にどれだけ想いを滲ませられるか工夫のしどころのある役割だと思った。
 どうやって役を作り込んでいこうか。いや、一人で勝手に作りすぎるのも早い。台本が届いて監督と話をしてみないと。いったん落ち着いて、そうだ、とりあえずは彼に報告……──
 ……………………だから。
 亡くなったんだよ。彼は。
 また崩れ落ちた。スマホが手から滑り落ちてゴトッと床で派手な音を立てる。マネージャーの心配する声が数度繰り返してそこから発せられた。
 半ば呆然と、再びスマホを拾い上げる。大丈夫か? 大丈夫かと聞かれると。
「……いや、駄目ですよね。今のは我ながらかなり、人としてどうかと思います……」
 ぼんやりと。思い知りながら答えた。ああ、そうだ。自分はこういう奴なんだと。
 再び胸に開いた穴を意識して。滲む空虚が染みるようでこんなに痛くて苦しいのに。
「……いえ、受けます──やれます」
 その穴は、己の最も核たる部分は壊さない場所に開いているのだ。

 ──まあそんなわけで、俺は、君が亡くなった後も、それまでとさほど変わらない人生をのうのうと生きている。
 舞台に立つこと、そのために少しでも役を磨き上げること、そこに全霊を注ぐ姿勢は、君を喪ってからも少しも曇りは無い。充実している……と、言えると思う。
 ……ただ、幕が上がる前、降りた後。その期間に、ふとした幸せがもう真とは分かち合えないという事実が、どうしても辛くなるだけ。
 自分が役者であるときには影響することは無い、けど伊佐美 透という一人の人間であるときには胸に抱える空虚もまた、ずっとそのままで、……だから俺は、纏まった時間が取れたときに、クリムゾンウェストに君が残した足跡をいくつか辿ってみることにした。
「……いやまあ知ってた。知ってたけどな」
 ハンターオフィスで君の情報を照会してみたときは、その膨大さに、分かっていても苦笑が漏れたけど。
 自分の忙しさも考えるといつ終わるだろう。そのことはある意味救いとも思えて、とりあえずは直近のものから幾つか辿ってみる。
 それらから、俺の知る君を思い浮かべてみる……──多分、君は最後まで変わらぬままだったのだろう。
 記憶は戻らず、空虚と罪悪感を消せないまま、いくら果たしても赦しなど無いことを分かりながら償いの為に人の役に立とうと戦い続けた。
 ──俺は、見殺しにしたんだろうか。君が死んだのは俺のせいだろうか。
 その考えは何度も頭を過ったし、今でも拭い去り切ることが出来たわけじゃない。
 どうしてもっと親身に、真摯に彼を救おうとしなかった。言い訳めいた理由ならある。俺の生き方を考えれば、辛いことがあれば何でも言ってくれ、何時でも頼りにしてくれ、なんていうのは無責任に思えて……実際、彼の死を知った時の様を見ればやはり間違ってなかっただろうという気持ちの方が大きい。
 なら……俺じゃなければ良かったんじゃないか。君をそっちのけにする夢など持たずに、余計なことなど考えずに、全力で、体当たりで君を救おうとする人間。君の傍にいるべきなのはそうした人だった、のに、俺が居たせいで君からそうした存在を奪ってしまったんじゃないか。
 ……でも。君の生き方を考えると。その身と心を削って君を救おうとする人は、結局君自身が遠ざけてしまっただろうか。
 だとしたら。俺と君が最後まで友人として共に在れたのは。お互いに欠けたものを抱えた者同士、歪なその形が奇跡的にカチリと嵌まり合っていたのかもしれない。そんな風にも思えて。
 君の在り方を。結末を。全て否定したい、やっぱりこんなのは間違いだったんだ、という気持ちだけでもないことも、確かだった。

 風がはらりと、手にした資料を捲っていく。
 君はずっと、自分を空っぽで何もない人間だと言っていたけど。本当にそうなら、俺が俺の為に君に生きて欲しい、と望んだことに何も考えず応えてくれたって良かったじゃないか。
 その願いを断ってでも君は、常に死の手が纏わりつくその生き方を選ぶことにしたんだろう。
 それならそれこそが、君が他でもない君というものを持つが故の選択だと思ったから、俺の勝手な願いで奪い取ってはいけない、と思ったんだ。
 もし君が、君自身で道半ばで己の在り方を省みたり、辛くて耐えられないと自分から言い出すのであればその時は、俺が、俺の出来得る限りだけど手を差し伸べようと待ってはいたけど。君はその、決して平坦でただの繰り返しでは無かったその日々を、最後まで貫き通せたんだ。
 苦しい上に、決して正しいとは自分でも思っていない。そんな道のりだからこそ、その道を歩き続けるというのは、人の言葉ではなく自分自身の確かな芯が無ければ出来ないだろう。今の俺だってそう言えると思う、だから。
 ──君の中には確かに在ったんだ。鞍馬 真という唯一人にしかない魂の在り方が。
 俺は。
 そういう風にも、受け止めておきたい。
 誰もが納得する結末ではなくても、俺たちは俺たちとして精一杯その瞬間を生きて、選んで。そうして辿り着いた結果であることは、間違いないだろう?
 もっとも、正直に言えば俺の選択には甘い目論見もあった。君は最後まで変わらなかった──つまり、君は積極的に死のうとしていたわけじゃない。
 なんとなくで、このままずっと一緒に居られる可能性もあるんじゃないかと密かに願っていた。自分と過ごす安らぎの時間が、死を招く不運へと抗う力の助けになってくれれば、という自惚れもあった。だから……結局、この結末を迎えて。これで良かった、とも決して言わない。
 もっと正しい道はあったのだろう。
 もっと優しい物語にも出来たのだろう。
 だけど──だけど。
 資料に目を落して、回想する。もう少し前の君の足跡。その中で地方領主の館やエルフの森都を訪れたこともあった。
 鞍馬 真の話をしに来た、と言えば……もっといろいろ話を聞くことが出来ただろうか。
 だけどそうすると彼女らに君の行く末を悟らせてしまう気がして、訪ねた理由は「役者をしていて、役作りの為に丁度こうした場所を探していた」とした。まるきり嘘でもないが我ながら胡散臭くはあっただろう。それでもある程度彼女らは受け入れてくれた──前にとてもお世話になったリアルブルーの人が居る、髪と肌の雰囲気が似ているから、もしかして同郷じゃないか、と言って。
 そんな方が居たんですねと知らないふりを演じながら、さわりだけを聞いた彼女らの話は、その雰囲気で、彼女らにとってはもう解決済みの話であることは察せられて。
 しっかりと、君は君が彼女らの為に果たすべきことは果たしてから彼女らの元を去っていったのだろうと確信した。
 ……もう君は居ないけど。でも君が為してきたこと、世界はきちんと、その先に続いていると、この旅の中で感じることが出来た。

 そしてそれは勿論、俺自身にも。いや、俺について言うなら、何よりもとてもとても大きなものとして。

「……やあ、また、来れたよ」
 今日は、クリムゾンウェストにひっそりと造られた真の墓前、そこにいる。回想ではなく、彼に直接話したいことがあったから。
「今日は報告が二つ。まず、前に決まったCDの話だけど、無事にリリースされたよ」
 クリムゾンウェストに長く転移していたという俺の役者としてのキャリアの評価は、正直、分かれている。知名度、そして技術についても、後れを取ったとの指摘は否定しきれるものではない。
 けど……幾つかのミュージカルに出演して、歌唱力は上がった……というか、歌い方が変わって歌声に籠る感情が豊かになった、という声が増えた。そうして、アーティストとして純粋に音楽CDを出してみないか、という話が持ち上がったのだ。
 予告時点でのアルバムタイトルは『Our Songs』。歌い手が透一人であるのにこのタイトルはどういう意味かと、ファンの間で暫く推測を飛び交わせた。常々、裏方の方への感謝を述べて、スタッフさんたちあっての役者だってことは自認してたから、今回もその事だろう、と最初は思われてたけど。
 発売日が告知されて、プロモーションムービーがネットに流されるようになって……どうやら、ちゃんと伝えることが出来た。
 そこに映るのは俺だけだけど……立ち位置、視線、歌い方で──これは、『そこにもう一人いる』『誰かと一緒に歌っている』歌だということが。
 胸元には今日も君からもらったペンダントが輝いている。いつかファンミーティングで質問されて、親友からもらった大切な物だと答えたことがあるから、その事を察してくれた人もいた。……が、『あくまで役者であることを売りにするために高度な一人芝居を行って見せた』という見方もある。
「……で、俺と組んで一人芝居をやらせてみたい、って話が新たに決まったわけだ。これが今日の報告その2」
 ほら、こうやって繋がっていく。
 俺が歩いていく道、それは紛れもなく、いつか君とともに歩いた道と繋がっているものだ。
 周りに誰も居ないことを確認して、そっと歌声を風に乗せた。
 ──ああ、君の痕跡を探して色んな場所を見てみたけど、やっぱり俺は、こうしているのが一番君を感じられるなあ。
 耳の奥に、君の歌声が重なる。
 なあ。
 君の傍にいるのが俺でさえなければ、なんて考えたけど。やっぱり、それだけは、いくら考えても無駄でしかない事みたいだ。
 他にどんな選択があって、結末があって、やり直せるとしたって……君と心交わさない人生だけは、有り得そうにないよ。
 君と、君に幸せになってほしかった人たちには本当に申し訳なく思うけど。
 ……さて、そんなわけで、幸福にもまだ多忙な身だ。あまりここでのんびりもしていられない。最後の一言は……──。
 こうやって君の元を直接訪れるのは、約束をこれからも続けるためだ。新しい仕事が決まったら、君に知らせる。手紙はもう届かないから、こうやって。
 だから。
「──……またな」
 別れの挨拶はこれからも、この言葉で。
 またこうやって報告に来れることを。願いと決意を込めて。
 君と一緒に歩いた道。その先に続く道を。最後まで、歩いていけますように。














━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
凪池です。この度はご発注有難うございました。

……その。
駄目ですね。どうやっても上手く言葉にならないですこんなの。
タイトルも、幾つか候補はあったんですがどうしても付けられませんでした。
ここまで想いを込めて作品に向かえることは、マスターとしてとても幸せなことで、出会えなければ成し得なかったことです。改めて、心から感謝いたします。

良く見返したら、「『鞍馬 真』というPCの物語を終わらせて」というご希望には添えていないかもしれません……が、その。
私としても、透としても、忘れるとは、思えないのです。

改めまして、この度はご発注有難うございました。
そして、ここまでも。
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2020年07月13日

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