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『作品名《ファルス・ティレイラ》』
ファルス・ティレイラ3733

 好奇心に満ちた丸い瞳が、きょろきょろと忙しなく辺りを見回す。
 少女が足を踏み入れた館の中には、見た事もない美術品がいくつも並べられていた。
「すごーい! これ全部、今日の依頼主さんのコレクションなのかな?」
 少女、ファルス・ティレイラ(3733)は興味深そうに一番近くにあった美術品へと視線をやる。
 しかし不意に名を呼ばれ、ティレイラはハッと我に返るとかぶりを振った。
「はーい! 今行きまーす! ……じっくり見てまわりたいけど、今は我慢我慢。今日は、お仕事できたんだもんね」
 じっくりと美術品を観察したい気持ちをおさえ、ティレイラは元気な返事をし先程自分を呼んだ依頼主の元へと向かう。
 この依頼が終わった後に、少し館内を見て回っても良いか尋ねてみようと考えながら。
 ――ここは、魔法の美術館。ティレイラがここを訪れたのは、館長である魔女からとある依頼をもらったからだ。
 なんでも、『竜姿のティレイラをモデルにした展示品を作りたい』のだという。
(私を……しかも竜の姿をモデルに選んでくれるなんて、照れちゃうけど嬉しいなぁ! どんな展示品になるんだろう?)
 威厳溢れる竜の展示品を見た者達は、美術品に目を輝かせた先程の自分のように心を躍らせるのかもしれない。想像するだけでも、ドキドキしてしてくる。
(ふふ、楽しみだなぁ)
 魔女に案内され、ティレイラはとある部屋へと辿り着いた。
 あらかじめ準備しておいてくれたのだろう。竜の姿になったティレイラでも乗る事が出来そうな程大きな台座が、彼女の事を出迎えてくれた。
 早速竜になったティレイラは、魔女の指示に従い意気揚々と台座の上へと乗る。
(これでいいのかな? モデルなんだし、あんまり動いちゃダメだよね。思った以上に難しそうな依頼だけど、頑張ろう……!)
 ティレイラは胸中で気合を入れ直し、ポーズを取った。

 ◆

 ティレイラの頑張りもあって、モデルの依頼は順調に進んでいた。
 ――はずだった。少なくとも、ティレイラはそう思っていた。
 だから、その異変は、本当に突然だったのだ。
「えっ?」
 竜の肌を、大きな魔力がなぞるのを感じる。誰かが、魔法を使用したのだろう。
 いったい誰なのか、考えるまでもない。今この場には、ティレイラと依頼主である魔女しかいないのだ。
「わっ! な、何これ!? 冷たっ! み、水?」
 未だ事態を把握出来ていないティレイラは、身体に何かがかかった感覚に悲鳴をあげた。
 魔女が魔法で発現させた透明な液体が、未だポーズを取ったままの竜へと降り注いだのだ。
 降り掛かった魔法の液体は、またたく間にティレイラの全身へと染み込んでいく。
 魔女が魔法で出した液体だ。むろん、ただの液体ではない。
 液体だけではなく違和感もまた、ティレイラの全身を覆う。
 慌ててその場から逃げ出そうとしたティレイラだが、あげた片方の前肢が何故か中途半端なところで動かなくなってしまった。
「やだ! 何これ、動かないっ!」
 反射的に視線をやった先、自分の右手があるはずの場所には代わりに奇妙な透き通った何かが存在していた。
「嘘!? ちょっと待って待って!」
 それが、ガラスのように変化し固まってしまった自分の手だと理解した瞬間、ティレイラは再び悲鳴をあげる。その間にも、魔法の液体は彼女の身体を変化させていった。
 先程ティレイラの全身を覆った液体は、触れたものをガラスに変える魔法の液体だったのだ。
「な、なんでこんな事を……!? や、やだ! 助けて!」
 大きく口を開け、必死に訴えるマズルも徐々にガラスのように透き通っていってしまう。
 彼女の愛らしく元気な声も、ガラスの向こうに閉じ込められてしまった。ティレイラに、もはや抵抗する術はない。
 台座の上。前肢をあげた姿のまま、竜は佇んでいる。
 まるでもがくような、何かを訴えるような姿のまま、ティレイラは完全に固まってしまっていた。
 ガラス細工になってしまった美しい竜の無機質な瞳が、満足げな笑みを浮かべている魔女の姿を映す。
 魔女は、嬉しそうな声音で彼女の名を呼んだ。しかし、それはティレイラ自身の名を呼ぶというより、このガラス細工の竜の作品の展示名をなぞっただけに過ぎないのであった。

 ◆

 後日、魔女の美術館は大層盛況する事となる。
 目玉である展示品は、他でもない。ガラスで出来た竜の像――作品名《ファルス・ティレイラ》なのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
美術品のモデルを引き受けたティレイラさんのお話、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけましたら幸いです。何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はご依頼誠にありがとうございました。またお気が向いた際は、何卒よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年07月14日

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