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『当たり前の明日の為に』
アルト・ヴァレンティーニka3109

 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)という人物を知らない人間は、恐らくクリムゾンウェスト、リアルブルー、エヴァーグリーンの三界においてほぼいないであろう。
 世界の守護者として名を連ね、邪神との戦いに身を投じた英雄。
 王国騎士団、黒の隊の隊員を経て赤の隊の隊長に就任。
 果てには、東方最強と呼ばれた某侍との戦いも制している。
 ――アルトは東方の危機を身を挺して止め、怪我を負う前の彼と戦って勝ちたかったと思っているだろうが。

 そして、邪神戦争締結後は、王国騎士団として働きながら精力的に世界の復興に携わった。
 強化人間支援財団設立の為に莫大な寄付をし、代表となったのもその一つ。
 ――強化人間計画。
 志願した者達を、『強化人間』という対歪虚の戦力とする計画。
 ……その実情は、邪神と契約状態にし、歪虚化するというおぞましいものだった。
 その計画に利用されたのは、年端も行かぬ少年少女達ばかり。
 彼らは暴走し、自我を失い、大半が戦いの中でその命を散らし――。
 そして、生き残った彼らに突きつけられたのは、『生きられる時間はごく僅か』という事実だった。
 一度歪虚化したものは元に戻ることはない。
 それは分かっている。
 それでも……彼らは時世の犠牲者であるのに、ただただ儚く命を散らしていくことがどうしても許せなかった。
 何よりアルトには、弟のように可愛がっている強化人間の少年がいる。
 彼に、どうしても長生きして貰いたくて……強化人間の支援には、彼らの延命という命題が課せられていた。

「今日は3回目の実験だったね。どう? 調子は」
「悪くないですけど、検査と言って大量に血液抜くの何とかなりませんかね」
「仕方ないだろ。必要なことなんだから。血が足りないなら肉食え、肉」
「イエスマム!」
 ビシッと敬礼を返してきた銀髪の少年に笑みを返すアルト。
 このアルトの弟子である強化人間の少年は、彼女が支援団体を作るきっかけとなった存在であり……そんなアルトの気持ちを知ってか知らずか、延命の実験に積極的に協力している。
 イタリア生まれの彼は気障で、隙あらばアルトを口説こうとする性分であったが、最近あまりその台詞を言わなくなったことに、アルトは妙な違和を感じていた。

 ――他の女性に興味が移ったというのであれば、それはそれで構わない。
 ……アルトが感じていることが当たっているのであれば、ちょっと話をしないと。

 アルトは、じっと銀髪の少年を見つめる。
「……そういえばさ。最近君、求婚してこなくなったね?」
「あれ。アルトさん、僕に求婚されたいんですか?」
「いや、全然。そういう訳じゃないけど。ただ、君、毎日それこそ挨拶代わりみたいに言ってたから。何かあったのかと思って」
 即答で否定したアルトに苦笑を返す少年。
 暫し逡巡したあと、口を開く。
「……女性の口説くのは僕の国の流儀ですけど、良くないなと思って」
「何がだい?」
「アルトさんのことは好きですよ。でも僕、いつまで生きられるか分からないんで……貴女にはちゃんと末永く幸せにしてくれる人を探して欲しいんですよ」
 何でもないことのように、淡々という少年。
 ――これまでの間に、アルトも彼も、何人もの強化人間たちを見送って来た。
 徐々に衰弱して亡くなる事例もあれば、昨日までは元気だったのに、朝起こしに行ったら冷たくなっていた……なんていう事例もあった。
 強化人間である以上、『当たり前に来る明日』など約束されていないのだ。
 分かっている。
 分かっているけれど。それでも……。
 アルトはギュッと眉根に皺を寄せて続ける。
「……邪神の意志にも勝った君が諦めるのか? そんな軟弱な弟子を持った覚えはないんだけどな」
「……アルトさんは僕に求婚されたいんですか?」
「いや、全然。今はそういう話をしてるんじゃないよ。生きることを諦めるなって言ってるの」
 燃えるような赤い瞳に強い意志を乗せるアルト。
 そう。その『強化人間達の明日』の為に、アルトも少年も、強化人間支援財団の職員達も努力してきたのだ。
「生きることは諦めてません。別な人と幸せになって欲しいって言ってるんです」
「私の幸せを君に決めて貰うつもりはないし、君にも幸せになって欲しいという姉心は理解して貰えないのかな?」
「姉心ですか……アルトさんは手厳しいですねえ」
「これも愛の鞭だよ」
「愛なら甘くて優しいのがいいです」
「残念だったね。ボクは君の姉であり教師だからね」
「えー。僕が頑張って生き延びたら、ちょっとは甘くしてくれます? 弟や弟子としてじゃなく、1人の男として」
「……随分大きく出たね。まあ、一考の余地はあると答えておくよ」
「言質取りましたからね」
「ああ。まあ、その前に、君には王国騎士団と渡り合うどころかぶちのめせるくらい強くなってもらうし。そうだ。東方に腕の立つ剣士の知り合いがいるんだ。彼に稽古をつけて貰うのもいいかもしれないな」
「……ちょっと待ってください。その人、前にアルトさんが話してた東方最強の人ですよね!? 俺勝ち目あるんですか?」
「うん。今はないかな」
「ですよね!? っていうか俺の獲物は銃ですよ!!」
「この機会に剣の練習もしよう」
「はぁ!!?」
「ボクに一人前の男と認められたいんだろう? だったら強くなろう。ね? よし。そうと決まれば肉だ! 肉を食おう!! 前から君は細すぎると思ってたんだ。血液も減ったみたいだし、今日は沢山食べて貰うからね。遠慮しないでいい。ボクが驕るから」
 一方的に話を進めつつ、少年の腕を引っ張って連行するアルト。

 ――この楽しくて、少し切ない毎日が、いつまで続くかは分からない。
 それでも。当たり前の明日の為に。
 アルトはこれからも尽力し続ける。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

アルトちゃんのおまかせノベル、いかがでしたでしょうか。
今回は某銀髪の強化人間の少年とのお話にしてみました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2020年07月20日

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