▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『可能性の種』
アルマ・A・エインズワースka4901

「センセイ、風呂入ってきたよ。これでいい?」
「うん。ばっちりです。……って、頭びしょびしょのままですよ。拭いてあげるですからこっち向いてください」
 タオルを手にして手招きをするアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
 素直に頭を差し出す青年の燃えるような赤毛をタオルで包み、わしゃわしゃと拭いてやる。
 この青年、一緒に暮らすようになってから結構経つが、まだこういう人間としての生活の細かい部分を覚えられないでいるようで……まあ、彼は元々『人間』ではないから仕方がないか。

 この赤毛の青年は、そもそも生まれた意味すら知らない歪虚だった。
 ただの実験体。『生み出せる事実』が判明した段階で、彼は既に役割を終えていた。
 だが、創造主は何を思ったのか、彼に名を与え、黙示騎士という立場を与えた。
 同時に世界を観測する力と空間をつなぐ力を与えられていた青年は、先の邪神戦争で己が務めを果たし、消えていった筈だったのだが……。
 アルマがリアルブルーに行った先で、何の前触れもなくひょっこり現れたのだ。

 どうして戻って来られたのか。今まで一体どこにいたのか。何故黙って消えたのか。
 聞きたいことは色々あったけれど、戻って来てくれたのならそれでよかったし、また消えられたらたまらない、と青年を連れて帰って来て……そのまま家に住まわせてしまった。
 元々アルマは孤児院を経営を始めたばかりで、部屋にも空きがあった為、青年が1人増えたところでどうということはなかったのだ。
 行先も別段決まっていた訳でもなく、泊まる場所すら考えてなかった青年はなし崩しでここに居着き、アルマの孤児院や、近隣に住む人たちの手伝いをして暮らしている。

 アルマは青年の髪を拭き終わると、彼の顔を覗き込む。
「今日は何をしてきたですか?」
「近所のおじいちゃんの畑仕事の手伝いをしてきたんだ。最近腰が痛いんだって。小さいカエルがいっぱいいて面白かった!」
「ああ、それで泥だらけだったんですね……。今はオタマジャクシ……カエルの子供が大人になる時期ですから、沢山いたですね。オタマジャクシは知ってるですか? 音符みたいな形してて、水の中で暮らしてるです」
「えっ。カエルって最初からあの形じゃないの?」
「違うですよ。今度オタマジャクシさんも見に行きましょうかね」
 アルマの言葉に嬉しそうに頷く青年。
 もう黙示騎士ではなくなったのだから、『世界を見る』必要はないのだけれど……。
 彼が新しいことを覚えていくのは大事だし、楽しく生きていくのに必要だとアルマは思う。
 アルマはタオルを片付けると、ふと思い出したように窓辺に目をやった。
「そうだ。ほら、君が植えた花。また花が咲きそうですよ」
 これは可能性の花。ヒトと歪虚とが共に何かを成せるという可能性の形だ。
 敵対していても、いずれは手を取り合えるようになればいいと……そういう願いを込めて、仲間達と共に植えた花だった。
 そもそもはハンターズソサエティに置かれていたのだが、ソサエティの職員や、ハンター達がせっせと世話をしていた為か、すくすくと成長。
 大分大きくなったので、枝分けしてもらったのだ。
 植木鉢に挿し木をし、丁寧に世話をしたらきちんと根付き、アルマの家でも綺麗な花を見せてくれるようになった。
「ふふ。ちゃんと根付いてくれてよかったです」
「センセイ、嬉しそうだね」
「そりゃそうですよー。これは、君と一緒に植えた花ですから。この子が増えたら増えた分だけ、可能性が広がるような気がするんです」
 青年の髪の色と同じ赤いつぼみに目を細めるアルマ。

 そう。可能性は無限大だ。
 見たり触れたり、様々な形で知らない世界に出会う。
 ――何事も一つには括れない。
 その出来事を憂いた者がいて。それを喜ぶ者がいて。
 すれ違ったり、思い違いもしたり。
 そうやって、人は生きていく。

 ――終ぞ分かり合えなかったあのひととも、今なら分かり変えたかもしれない。
 こうやってアルマが、この青年と笑い合う今を手に入れたように。
 あのひととも違う形の未来があったのかもしれないけれど――。
 これだけは言える。
 あの選択があったからこそ、今があるのだ。
 そしてアルマの手には、沢山の可能性の種がある。
 この種を、出来れば沢山芽吹かせて、そして花が咲くようにしたい……。

 そんなアルマの思考は、ぐーーーーーっという大きな音で中断された。
「……センセイ、俺、お腹空いた」
「あははは。そうみたいですね。労働の後は食事です! ご飯にしましょうか」
「やったーーー!! センセイ、今日のご飯なにー!?」
「奥さんが作ったパエリアです」
「あ! 俺大好きなやつだ!!」
「僕も大好きです」
 うふふと笑い合う2人。
 仲良く食堂へと向かっていく。

 ――ねえ。……さん。僕は今、とても幸せです。
 愛する奥さんもいます。守ってあげたい子供達も沢山できましたし、消えたと思った弟子も戻ってきてくれましたし。
 とても幸せなんだと、改めて思います。
 ――だからこそ、あなたのことを思い出して、切なくなる時があるんです。
 ……あなたは今、幸せですか?
 愛するひとに会えましたか?
 あなたは『大きなお世話だ』と苦笑するんでしょうけれど。
 遠い未来の先で、あなたに逢うことがあったなら――今度はお茶をご馳走させてください。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間を頂戴し、申し訳ありませんでした。
アルマちゃんのおまかせノベル、いかがでしたでしょうか。
今回は某黙示騎士の青年とのお話にしてみました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
おまかせノベル -
猫又ものと クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年07月21日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.