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『シスター・イン・ザ・ナイトメア(4)』
白鳥・瑞科8402

 悪魔の断末魔を耳にした聖女は、満足げな笑みを浮かべた。世界的組織である「教会」に所属している戦闘シスター、白鳥・瑞科(8402)の今回の任務はこれで完了だ。
「今回も、難なく勝利いたしましたわね」
 たった一人で悪夢を操る上位悪魔と戦ったというのに、瑞科はその肌に傷を負うどころか疲れた様子もない。彼女にとっては、今回の相手もさして大した敵ではなかったのだろう。
 通信機で上司である神父に簡単な連絡をした後、彼女は拠点へと向かう。
 神父には戦った後なのだから休んでも良いと気遣われたが、今回の相手はむしろ瑞科にとっては物足りない相手であった。だから、拠点にあるトレーニングルームで少し体を動かしたい気分なのだ。
「それに、やはり任務達成のご報告は直接わたくしの口からしたいですもの」
 歩く瑞科の足取りは軽い。その魅惑的な胸の奥で、心臓がいつもよりも高鳴っているのを彼女は感じた。任務を達成した後の高揚感は今まで数え切れない程感じてきたが、未だに飽きる事はない。
 瑞科は、今日も悪を打ち倒せた事に、満足げに微笑むのであった。

 ◆

 ふと気付いた時、瑞科はまた闇の中にいた。いつもなら、さして動揺する事もないのに、何故か嫌な予感が彼女の背をそっと撫でる。
 眼前には、ただそこに存在するだけで周囲の空気を震わせる程の殺気を放つ悪魔の姿があった。気味が悪く耳障りな悪魔の笑声が、辺りへと響き渡っている。
 瑞科の愛用の剣は、何故か彼女から遠く離れた場所に転がっていた。手を伸ばしても届きそうもない。敵の攻撃により、少し前に弾き飛ばされてしまった事を彼女は思い出す。
 今まで、数え切れぬ程の悪魔を瑞科は倒してきた。いくつもの任務を成功に導き、勝利を手にしてきた。
 けれど、今の彼女の元にはその『いつも通り』が存在しない。あるのは、信じたくもない非情な現実。自分とは縁のないものだと思っていたはずの、敗北。
 誰よりも聡明なはずの頭は、想定していなかった事態に混乱し上手く働かない。美しい瞳は絶望に染まり、年相応の少女らしく震える身体は痛々しく無様で、哀れだった。
 こんな瑞科の姿など、誰も想像すらした事がないであろう。
 瑞科自身だってそうだ。彼女は自分の聡明さを、美貌を、強さをしっかりと理解している。そしてその実力に裏打ちされた自信が、彼女を一層魅力的にしていたのだ。
 だから、こんな名も知れぬ悪魔に敗北する事などは、決してありえない。
「教会」に所属している戦闘シスターの中でも随一の実力を誇る白鳥・瑞科が、今までに彼女が倒してきた数多の悪魔達よりも、ひどい末路を追うだなんて――。

 ――そこで、瑞科は目を覚ます。すぐに状況を把握した彼女は、呆れたように笑みを浮かべた。
 夢だ。先日悪夢を操る悪魔を倒した影響か、どうやらくだらない悪夢を見たらしい。
 自分が敗北するだなんて、決してありえない事だ。だからこそ、瑞科はすぐにあれが夢だったのだと気付く事が出来た。
「センスの悪い夢でしたわね。絶対にありえない光景を見れた点は、貴重かもしれませんけど」
 あんな風に無様に負けるどころか、この人々を魅了してやまない美しく艷やかな体に触れる事を許す気も彼女にはなかった。
 誰もに羨まれる美しさと強さを持つ瑞科は、誰の手も届かぬ高みにいるのだから。

 ◆

 趣味の悪い悪夢の事など忘れ、瑞科は教会へと向かう支度を始める。
 そんな彼女ですら気付く事が出来ない程、巧妙に姿を隠し気配を消した何者かは笑みを浮かべた。
 先程瑞科が見た悪夢は、この悪魔が見せたものであった。瑞科は、その事にも気付く事はない。あれが悪夢ではなく、『予知夢』だったという可能性にも。
 先日倒した悪魔よりも強大な悪魔は、何も知らず微笑む瑞科をじっと見つめている。
「次の任務は、いったいどんな任務でしょうか? ふふ、楽しみですわ」
 まだ見ぬ任務へと思いを馳せ上機嫌な様子で歩き始めた瑞科は、先程見た悪夢の事などすぐに忘れてしまうのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
今回は悪夢をテーマにした瑞科さんのご活躍を書かせていただきました。お楽しみいただけましたら幸いです。
何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼誠にありがとうございました! またお気が向いた際は、いつでもお声がけくださいね。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年07月22日

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