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『アイムアルーザー どうせだったら』
LUCKla3613


 雨の日はけだるさが取れない。
 何をする気にもなれず、LUCK(la3613)はぼんやりと窓の外を見る。
 大阪の街は雨だというのに大勢の人で賑わっているようだ。
 眼下の交差点では傘を差して行き交う人々がひしめき合い、パズルゲームのように上から下へ、下から上へと流れていく。
 昨日は一日ついていない日だった。
 さほど大物でもないナイトメア相手に不覚を取り、死に物狂いの体当たりをもろに喰らってしまい道頓堀へ転落。その際不当投棄されていた自転車のハンドル部分によりによって後頚部を強打し、失神。
 無事討伐後、仲間が引き上げてくれたのだが、脊椎に損傷を疑われSALFお抱えの救急病院へ搬送されてしまった。
 様々検査をされた結果異常なしのお墨付きは貰えたのだが、代わりに新幹線の最終を逃してこのまま大阪に一泊することになったのだった。
 そして起きてみればこの雨空。
 一応天気予報的には正午以降で止むとのことだったので、レイトチェックアウトを申請し14時まではのんびりと室内で過ごすことにしたのだ。
 誰かが教えてくれたのだったか、本で読んだのだったか忘れてしまったが、猫も雨の日は気怠そうにしていることが多いらしい。
 自分が猫と同類とは思えないが、何となく親近感を抱く程度には“自分だけではない”ことに安心を覚えたのを記憶している。
 朝食を摂る気にもなれず、ぐだぐだとしていると、珍しく天気予報通り雨が止みはじめ、13時には傘を差す人はいなくなっていた。
 チェックアウトし、外へ出る。
 空調の効いた室内と違い、外は雨上がりのむわっとした湿度に初夏の日差しはアスファルトや周囲のビル群からの照り返しで真夏の如き凶暴性を露わにしていた。
 それでも雨さえ降っていなければけだるさはましになる。
 LUCKは直ぐ様地下鉄へは降りず、アーケード街へと足を延ばした。
 折角のオフだし、そういえば大阪の街をぶらついた事も無かった。
 ――訂正。興味を抱いたこともなかった。
 だが、あの色とりどりの傘がアーケードの屋根の下に消えて行く様を見ていて何があるのか気になったのだ。

 様々な店が様々な音を出して客引きをしている。
 耳の良いLUCKとしてはそれは騒音の如き煩さだったが、人々は意に介することなく、その騒音に惑わされることなく歩き過ぎ去っていく。
「お兄さん、ラム肉の焼肉はどうや!? 良いラム入ってるで〜ラムラムしてるで〜!」
(ラムラムしてるラム肉とは……?)
 少しだけ気にかかったが、大阪の商人は商魂たくましく、うっかり話しかけると何か買うまで決して離さないとも聞いたので、問いかけたい気持ちを抑えてラム肉専門焼き肉店の前を通り過ぎた。
「あぁ!? お前何ふざけたこというてんねん!!」
 突然背後から怒声が聞こえた為、すわケンカかと思い振り返れば、中年の男が電話越しに怒鳴っていた。
「今!? お前と電話しとんのや。あぁ!? 息しとんねん。なんや、わしを殺す気か? あぁん!?」
(酷い言いがかりだ……!)
 呆気にとられて立ち止まり、その男性が通り過ぎるのを見送る。
 何より驚くところは散々ケンカ腰で怒鳴り散らしているのに、その顔は楽しそうに笑っているという点だ。
(想像より凄い街だな……)
 ファッションなども独特のセンスが蔓延しているように思う。
 具体的には柄物&柄物とかパッションピンク+蛍光イエローなどの組み合わせとか。
 眺めているだけでも飽きない。
 ピエロのような縦縞のつなぎ服に小太鼓を抱えた人形を見つけ、確かこれが名物だった気がすると一枚写真に収めた。
 動く大きなかにの看板を見て、ナンパ橋と呼ばれる橋で逆ナンされて丁重にお断りしたり。
 いい加減歩き疲れた頃にお笑い芸人達の劇場横にあるたこ焼き屋を見つけ、一舟食べることにした。
 どろソースは初めての体験だったが、なるほど味が濃い。
 だが、嫌な濃さではなく、これはこれで美味しいが、たこ焼きの味が全てどろソースの味になっている気がしなくもなくもない。
 そんな感想を抱きつつ一休憩して、再び歩き出す。
 名物という豚まんの店を見つけ、土産にでも買ってみようかとのぞき込み、10個セットを注文する。
「彼は食べたことがあるだろうか」
 この世界のことを色々と教えてくれる友人の顔を思い出し、僅かに頬を緩ませる。
「お兄さん、お好み焼きは食べた!? 折角大阪来たんにお好み焼き食べへんでいんだら、何しに来たのか分からへんで!」
 うっかり豚まん店の紙袋を下げていたLUCKは、見事観光客だと認定され威勢の良いオバチャンにターゲットオンされてしまった。
 一方で先ほどたこ焼きを食べたお陰か、まだお好み焼き一枚ぐらいだったら入りそうな気がしてしまったLUCKはそのオバチャンの特攻を避ける事が出来ない!
 明確に断ることが出来ないまま、ずるずると店内に案内され、鉄板の前に座らされてしまった。
「何にするー? 豚玉Mix、シーフードMix、モダン焼き色々あるんやけど、オススメはDxMixやね! 男の子やったらこれは挑まなあかんやろ! これでえぇか?! えぇんやね!? オーダー! DxMix一枚!!」
 何がどうそうなったのか。
 オバチャンの猛攻の前にLUCKは呆気にとられている間にオーダーが決まってしまったらしい。
 オバチャンの早口はナイトメアの攻撃より躱しづらいということをLUCKは今日初めて学んだ。
 どうやらお好み焼きは自分で作るのではなく、店員が目の前で焼いてくれるサービスらしい。
 手際良く焼かれていく様を見てるのはそれはそれで楽しかった。
 一度も焼き面を見なかったのに、ひっくり返したときには綺麗にきつね色になっていた時には思わず拍手をしてしまった程だ。
 分厚いモダン焼きが「出来上がりー!」と目の前に寄せられた時には興奮の余り「有り難う」と礼をしていたりもした。
 まずはひとくち食べてみる。
 ふわっと柔らかな生地にはいっぱいのキャベツの甘みが溶けている。もやし、チーズ、モチ、海老と豚肉の旨味。そしてその下には焼きそばという贅沢な内容をヘラで切り取りつつ選んで口に運べる。
 ソースも甘みがあるが決して素材を邪魔しない、むしろ引き立てており、鉄板の上で焦げたソースの香りがさらに食欲をそそる。
 ただ、量は多い。流石はDx。関東なら普通に2〜3人前ぐらいありそうな気がする。
 しかし、口当たりの軽さから余裕で平らげることが出来そうだと、一心不乱にLUCKはお好み焼きをかっ込む。
 ……そして、ラスト1/3を残した所でLUCKは自分の胃からのアラーム音を聞くことになる。
 ――水分だ。
 水を飲みながら食べていたため、胃の中で生地が膨張してしまったようだ。
 そしてここでたこ焼きのボディブローが地味に効いてきたような気もする。
 ここで残すのは男が廃る……という気がしたLUCKは急速消化と胃拡張のコードを入力すると、その全てを平らげ、「ごちそうさまでした」と手を合わせたのだった。

「なるほど、食い倒れの街……」
 新幹線に乗り込んだLUCKは、車窓から見える大阪の灯りを見てぼそりと呟いた。
 雨のけだるさは嘘のように晴れたものの、代わりに初の胃もたれを経験したLUCKは何だかんだと帰りが遅くなってしまったが、どうせ終着駅だしと省エネモードでうつらうつらと船をこぎ始めたのだった。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la3613/LUCK/食い倒れ初体験】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。大阪が好き過ぎる葉槻です。
 大変遅くなってしまって申し訳ありません。

 LUCKさんvs大阪のオバチャンでした。
 大阪っていうか難波ですね。アメリカ村の甲賀流たこ焼きも美味しいので、ご縁がありましたら是非お試しください。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。

おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年07月27日

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