『映画「アイス・コップ」』

桃簾（la0911）

●登場人物
桃簾(la0911)
警察官。階級は巡査部長。類い希なる閃きと行動力で次々と事件を解決している。アイスが大好きで署内でアイスを布教するアイス教を立ち上げており、部署の冷凍庫ではアイスを切らしてはいけないという不文律がある。

グスターヴァス(lz0124)
桃簾の仕事上の相方。階級は警部。建前は桃簾のお目付役だが、本人も相当な変人。
好きなアイスはコーヒー味だが、検診結果を気にして控えている。

●あらすじ
警察署管内で爆発事件が発生。犯人グループが犯行声明を出し、次のターゲットはアイスフェスティバルの会場だと言う。客を逃がそうとしたらその時点でドカンだ、とも。そんな宣戦布告を受けて黙っている桃簾ではなく、捜査本部にグスターヴァスを連れて乱入。わたくしも捜査に混ぜなさいと要求して捜査員入りを果たす。困り果てた部長は、とりあえず客のフリをしてフェスティバルに行ってくれと二人に言い渡す。

●潜入捜査
「これは……林檎の果肉がほどよい塩梅で残っていますね。凍ることによって、クリームとはまた別の食感を生み出しています。蜂蜜の柔らかさも良いですね」
　桃簾は食レポをしながら満足そうに蜂蜜林檎アイスを堪能していた。グスターヴァスを見上げ、
「それにしても、何故アイスフェスティバルを狙うのでしょうか？　確かに、アイス教は徐々に勢力を拡大しているとは言え、爆弾を仕掛けられるような悪行などは……」
「いや、アイス教を向こうは知らないと思いますね」
「何故そう思うのです？」
　だって警察署内だけじゃん。言うほど町中に浸透してませんよ。そう言ってしまうわけにもいかず、グスターヴァスは目を逸らした。桃簾は目を細め、
「そう言えば、お前最近アイスを食べていないようですね……？　まさかドーナツ教に鞍替え……」
「ドーナツ教からも足を洗っております」
「そうですか。しかし、お前の意見は役に立つこともあります。向こうはアイス教を知らない者だと言う事にしましょうか。だとすると、このフェスはカモフラージュという事になりますね」
「ああ、なるほどね……？」
　無差別爆弾事件なのかと思っていたが、その線もなくはないだろう。桃簾は、「アイスは閃きを助けます」と言いながらぱくぱく食べている。やがて、彼女ははっと何かに気付いたように顔を上げた。
「ここに人を留めておく、あるいは集めることに意味があるとしたら？」
「どう言うことですか？」
「最初の爆破は、どうやっても人が怪我しようのないところでの爆破でした。それが、次はアイスフェスだなんて。突然人の多いところへ……いえ、あり得るのでしょうけど、何か引っかかります」
　鴇色の髪を夏の熱風になびかせながら、桃簾は思案した。夏の日差しの下でも、その姿は涼やかだ。アイスなくても涼しいような気がする。やがて、彼女は何か閃いたらしい。
「グスターヴァス、本部に電話なさい」
　桃簾は電化製品に触るとぶっ壊す。グスターヴァスは本部と繋いだ端末をスピーカーモードにすると、桃簾に差し出した。
「部長、わたくしです。調べてほしいことがあります」
　言ってみろ、と諦めた様子の部長が言った。
「今日、この管内で他にお祭があるはずです。どこですか？」

●真の狙いは
　もう一つはホットドッグフェスだと言う。地図を端末にもらって、二人は出発した。
「なんで同日に食べ物フェスやってんですか？　喧嘩するじゃないですか」
「わたくしに聞かれても……アイス教の信仰心を試すためでしょうか」
「それはどうでしょう」
　グスターヴァスの運転で会場に到着する。
「おそらく、警察や警備の目を向こうの会場に向けたいはずです。それでも、武力行使すればすぐに飛んで来ますから、やることとしたら何らかの取引でしょうか」
「桃簾さん！」
　グスターヴァスが声を上げた。桃簾が呼ばれてそちらを見ると、建物の影で、アタッシェケースの中身に入ったドルの札束を見せている男、それを見て頷き、何やら袋に入った白い粉を──。
「まさか……薬物密輸!?」
「見逃せませんね。取り押さえましょう！」
　二人が猛ダッシュで迫る。気付いた男たちは、大慌てでとめてあった車に向かって走る。
「グスターヴァス！　追いますよ！　車を出しなさい！」
「了解しました！」
　二人もすぐに車に乗り込んだ。パトランプを出して、追い掛ける。最終的にカーチェイスで勝利を収めたのは警察側だった。グスターヴァスが車を寄せ、身軽で格闘に長けた桃簾が相手の車に乗り移り、投降を促したのである。二人は爆発事件と犯行声明、薬物密輸への関与を認めてお縄になった。

●アイスの女神
「ていうか、爆破予告なんかするから目に付くんじゃないですか。その辺で普通にやりとりしたら気付かれなかったのかもしれないのに」
　二人の犯罪者を連行してから、グスターヴァスはぼやいた。取り調べは他に任せる。
「アイスを食べないから頭の回転が悪いのです」
「全く、肝が冷えましたよ」
　グスターヴァスがぼやいた。桃簾はそんな彼を見上げ、
「何を言うのです。冷やすにはまだ早いですよ。これから勝利のアイスを食べるのです」
　桃簾はそう言って、スーパーの袋を出した。中身はどうやらアイスらしい。
「お前の分もありますよ」
「姫、私、実は検診の結果、基準値内ですが数値が微妙で……」
「そうだろうと思いました。糖分控え目のアイスを用意しましたよ」
　グスターヴァスは目を瞬かせた。桃簾が下賜するように差し出した袋を受け取り、中身を見ると、それは確かに健康に配慮されたアイスだった。しかもグスターヴァスの好きなコーヒー味。
「桃簾さぁん……！」
「お前はわたくしの信条を理解する数少ない人間です。だから健康でいなさい。そして、アイスで健康を損なうことがあってはいけません。糖分控え目ですが、食べる量には重々気を付けるように」
「ははーっ！」
　ジャパンの時代劇で見たような平服をしてしまった。
「よろしい。この管内をアイスで染め上げるまで、殉職してはいけませんよ」
「我々はアイス警察なんでしょうか？」
　今日も真夏のアイス日和。桃簾はアルミスプーンを取り出しながら、アイスが美味しくなる日差しを見て、愛おしそうに目を細めるのだった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注＆企画ご参加ありがとうございました。
閃く桃簾さんとか絶対かっこいいじゃん、と思いながら書かせていただきました。それにしても、アイスフェスの日に非番じゃないんだ……管内でやってるのに……って書いてから自分で思っちゃいました。邪智暴虐に憤慨してお仕事したということで。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。

シングルノベル

三田村　薫

グロリアスドライヴ

2020年07月27日