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『たまには女の子らしく!』
クララ・グラディスla0188)&紅迅 斬華la2548

「ね、お姉さん。その、買い物に行きたいなーって思うんだけど、つきあってくれないかな?」
 そう、クララ・グラディス(la0188)は年上の友人――紅迅 斬華(la2548)に切り出した。いつも仲間たちで休息をとる喫茶店には、きょうはクララと斬華だけ。たいてい誰かが依頼に行っているのでいつもつるんでいる仲間たちが仲良く全員集合――と言うわけになかなかいかないのが現実で、きょうもクララと斬華のふたりだけ。冷たい飲み物をすすりながら、たわいない会話を繰り返すなかでふっとクララが言ったのだ。
「えっ、お買い物ですか? それは別に良いんですけれど、なにか欲しいものでもあるんですか、クララちゃん?」
 長い黒髪が印象的な斬華は自称「みんなのお姉さん」。それは二十歳すぎたほどの見た目と実年齢を考えれば間違いないことなのだけれど、その性格は無邪気……と言うか、年齢相応とはあまり呼べない。
 幼少時から遊ぶこともせずにひたすら部の修練に励んでいたこともあり、今ライセンサーとしての腕前はかなりのものだが、全体的に俗世に疎く少しばかり『残念』な女性なのである。だからこそ、クララも気兼ねすることなく話せる相手という印象を持っているのかもしれないが。
 そんな斬華の今日の服装は、いつもとさほど変わらない。長いつややかな黒髪をポニーテールにし、紅いちりめんの小袖と黄色い帯、それにあわせた帯締めや帯留め……といった、典型的な和装。彼女にとっては普段着だが、誰にでも簡単に着こなせるものでないことはクララも知っている。そんな斬華の姿をじっと見つめると、
「……中学にも入ったし、ちょっといつもと違う服も買ってみようかな、って思ったのよね……それこそ、スカートとかね」
 クララは少し照れくさそうにそう言って、それから小さく笑った。
 クララの服装と言えば、いつも動きやすさ重視のシャツと丈夫なカーゴパンツと言った、実用性の高いものだ。それ以外の服装は、他の親しいものも殆ど見たことがない。斬華もその言葉に一瞬目をぱちくりさせたが、たちまち嬉しそうに口元に弧を描いた。
「おお……もうクララちゃんも中学生なんですね! それはおめでとうございます!」
 月日の経過は早い。まだ子どもと思っていた相手も、はや中学生――いやまだまだ年齢的に子どもには違いなかろうが、言われてみれば少しずつ大人っぽく変化をしている。斬華はそんな相手を見て、少しだけむかしのことを思い出していた。厳しい家に育てられ、同年代の友達を作ることもなかった若き日。でもすぐそれも遠くに押しやり、にっこり笑いながら話を続ける。
「……でも、あれ? お姉さんがいっしょに行ってもいいんです?」
 ふと気になって尋ねると、クララは頷いてみせる。。
「私がお姉さんといっしょに行きたいのよ。それじゃあ、ダメ?」
「とんでもない! 喜んでご一緒させてもらいます、クララちゃん!」
 斬華の顔に浮かぶ喜色は、明らかにきらきらと輝いていた。
 
 
 ――それから数日後の、お昼前。
「待ちましたか? ごめんなさい、お洋服を選ぶのってあまり得意じゃなくて……みんなにもアドバイスしてもらったんですけど、やっぱり大変ですね!」
 慌ただしく駆け寄ってきた斬華は、額の汗をぬぐいながら申し訳なさそうにクララに頭を下げた。その言葉に、クララはくすりと笑いながら首を緩く横に振る。
「ううん、私もついさっき来たところだから」
 このあたりでもそれなりに有名な、とある駅前のファッションビルの入り口。ちらりと確認した時計は十一時すぎを指していて、買い物をしたりするにはちょうどいい時間のようだ。
 斬華はフレンチスリーブのゆったりしたカットソーにロング丈の青いフレアスカートと言う洋装だった。髪こそいつものように高いところで結んでいるが、淡い水色をしたシフォンのシュシュがワンポイントになっている。ふだんの和装と趣はもちろん異なるが、ちゃんと年齢相応に見られるおとなしめの服装だ。
 一方のクララはというと、黒いTシャツに迷彩風のハーフパンツ。そして少しごつめのスニーカーとキャップを合わせていて、ボーイッシュで活動的な雰囲気が感じられる。これはこれで可愛らしいが、確かにいつもと違う服装をしたくなる年頃でもあるだろう。
「きょうはね、スカートを買いたいの。それと、お姉さんに似合いそうなものを見てみたいし」
「おお、スカート! 私もいっしょに探しますよ!……って、私の服とかも見たりするんです?」
 クララの提案――の、主に後半部分に、斬華は驚きを隠せない。
「ええ。だって、私がお願いしてついてきてもらったんだもの」
 クララはとても嬉しそうに頷いて、そして足を建物に向けて一歩踏み出した。
 
 ファッションビルにはさまざまなショップが軒を連ねていた。
 可愛らしいロリータ系、時代がかったゴシック系、優しい雰囲気のナチュラル系にかつての若者が好んだようないわゆるギャル系――そういう系統をそろえたブランドショップと、アクセサリーや靴など、それぞれの小物の専門店。和装モチーフのブランドもあったりで、クララも斬華もあまりふだん飛び込まない場所だけに興味津々だ。
「あ、このお洋服……クララちゃんっぽいですね」
 スポーティ系ブランドショップ前に並ぶマネキンを見て、斬華がそう微笑んだ。
「うん。でもきょうは、ボーイッシュな感じよりも少しかわいい感じを試してみたいかな、って」
「ふむふむ、いわゆるイメチェンってやつですか!」
 クララの言葉に、斬華は楽しそうに頷く。そこまで大仰なつもりはないんだけれどね、とクララはキャップを深くかぶりなおして頬をほんのり赤く染めた。
「あ、でもそれならここなんてどうです?」
 斬華が示したのは、シンプルなデザインからちょっと凝ったデザインまで揃う、海外資本のファストファッションショップだ。他のお店と違って敷居も低そうだし、何よりクララもその店の名前を知っている。
「ふふ、まずはシンプルイズベストって言葉もありますからね! それに、ここのお洋服は私も着たことがありますけど、シンプルでもかわいいんですよ〜。それに何より、お洋服に疎い私でも知ってる名前です!」
 斬華はそう言いながら自慢げに小さく鼻を鳴らした。クララも、店先に並ぶ服をちらりと見ると、ふむ、と小さく呟いて同意する。
「なるほど……確かに、ふだん着るのにはぴったりかも。あんまり高いものだったりすると、着るのももったいなくなっちゃいそうだし」
 その言葉を聞くと、斬華もぱっと顔を明るくさせて、そしてクララの手を引いて店にずんずんと入っていった。
 
 クララは年齢相応ほどの身長と、少し細身な体格だ。だから洋服を選ぶとしても、子供服とレディースのどちらでも選ぶことができるくらいの体格なのだけれど、デザインを考えるとティーンズ向けのものがいいかもしれないだろう――と、ふたりは考えた。
 とはいえ、世間一般に疎い斬華とまだまだ子どもなクララである。マネキンを見比べたり、店員に話を聞いたりして出した結論だ。聞けば今日着ている斬華の服装も、いわゆるマネキン買いというやつだったらしい。以前友人にまるっとプレゼントされたものだと小さく笑ってみせた。
「何しろ私はそう言うことに疎いですから!」
 何故か自慢げに斬華はそう言うと、
「だから、初めから自分でいっぱい考えすぎなくてもいいんですよ? こう言うのって、見たり何なり、たくさん吸収するのが大事だって、えらい人も言ってましたから!」
 ふんす! と力強く頷いた。
 えらい人って誰だろうと一瞬しょうもない疑問がクララの頭をよぎったが、それはおそらく気にしてはいけないのだろう。あちこちに飾られているマネキンを見れば、確かにシンプルながらも十代の少女がターゲットらしい、かわいい服装がたくさん飾られている。
 その中でひときわ目についたのは。
「あ、あの白いワンピース……クララちゃんに似合いそうですね?」
 斬華が示した、白いハイウェストのフレアワンピース。胸の切り替え部分にはクララの瞳の色に似た色合いのリボンがあしらわれていて、それが綺麗なシルエットを作り出している。ワンピースの白い生地もワッフル地で、見た目にも涼やかだ。クララもどこかノスタルジックな雰囲気が漂うそれを見ると思わず立ち止まった。
 このワンピースのシリーズはどうやら今シーズンの新作らしく特設コーナーもあり、サイズやカラーの展開も豊富に揃っているようだ。斬華とクララもさっそくそこへ近づいて、まじまじと見つめた。
「……これ、試着してもいいかな」
「もちろん! これ、絶対クララちゃんに似合いますよ!」
 少し恥ずかしげにクララが問うと、斬華は嬉しそうに頷いて、背中を押すようにワンピースを持ったクララを試着室に押し込んだ。
 数分後、白いワンピースをまとったクララが出てくると、斬華は
「おおー……予想以上に似合ってますよ、クララちゃん!」
 おもいきりべた褒めした。
 膝丈のフレアワンピースは涼やかに翻り、半袖のパフスリーブから伸びる腕とすんなりした足はほんのりと日に焼けいかにも健康的で、しかし同時に未成熟ゆえの少し危うい美という雰囲気も感じられる。
 クララは少し照れくさそうに頬を紅くすると、小さな声でありがとう、と返事をする。
「それじゃあ、これを買いましょうか! せっかくですからね、お姉さんが支払っちゃいますよ〜!」
 そう斬華がお姉さん風を吹かそうとした――が、
「そんな、これを払うくらいのお金は持ってきているし、お姉さんに払ってもらうわけにはいかないよ。こんなにかわいいワンピース、みつけてくれたのに」
 クララはその申し出を丁寧に断る。
「それよりも、まだ時間あるし……いっしょにお昼とか、小物を見たりとか、そういう風にしたいなって思うんだけど?」
 なるほど、時計を確認すればちょうど昼ご飯にいい時間帯だ。斬華は少しだけ頬を膨らませたがすぐに機嫌を直し、
「それなら、期間限定のカフェがあるってこの間教えてもらったんですよ! そこ、行きませんか?」
 そう提案すると、レジに向かうクララを見送った。
 
 
 ――ふたりはそのあともファッションビルの中を少しきょろきょろとしてから、そこから歩いて五分ほどの場所にある、いわゆるコラボカフェと言うところに入った。
 ファンシーショップなどでも見かけるマスコットキャラクターとのコラボカフェと言うことで、メニューのあちこちにキャラクターが隠れている。どれも可愛らしく、二人は思わず頼んだ料理にカメラを何度も向けた。
「……そうだ」
 プレートをある程度平らげドリンクを傾けていると、クララがなにやら可愛らしい包みを取り出した。それを斬華に渡すと、
「開けて?」
 そう言って楽しそうに微笑む。言われるまま斬華がその包みを開けると、中に入っていたのはシェル調の可愛らしい……と言っても彼女の年齢相応な、櫛のついたコンパクト。
「クララちゃん、これは?」
「お姉さんに似合いそうだなって思ってさっき買ったの。今日、いっしょにつきあってくれたお礼」
 斬華は驚いてしまったが、クララは今日のお礼にともともとなにかをプレゼントしたかったらしい。照れ屋なクララが遊びに誘ったのだから、その礼をするのは当然なのだ、と。
「ありがとうクララちゃん! これ、一生の宝物にしますね!」
 斬華は顔を真っ赤にさせて、きらきらと嬉しそうに何度も頷いたのだった。
 
 
 たまには女の子らしく行こう。
 そしてまた、今度はいっしょにかわいい服を着て、出かけよう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせいたしました!
お届けが遅くなってしまい申し訳ございません!
ですが、素敵なエピソードを綴らせて戴き、当方も嬉しく思います。
白いワンピースの少女というのは、少女漫画の一コマにありそうな姿だと思っています。これにストローハットなどを合わせたらなお良いだろう……なんて思うくらいです。
どうか、このお出かけも含め、素敵な思い出をたくさん作ってください。
思い出はプライスレスですから。


では、このたびは本当にありがとうございました。
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2020年07月28日

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