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『異界と隣人との境界線』
海原・みなも1252

●洋館
 海原・みなも(1252)に二人の吸血姫とそれぞれに関わるみなもの記憶が染みこんできた。
 それらの記憶は【深遠図書海】に集まる、平行世界のみなもの記憶。
 流れてくる記憶は楽しいものだけでなく、辛いものとてある。
 それが今ここにいるみなもに影響するかは別の話。
 夢かうつつか、みなもはふと、思った。
 異界の住民とはどういうつきあいがあるのだろうか、と。
 【深遠図書海】に集まる記憶の中には、あるところでは花魁の狐がいて、そこの庇護下のみなももいた。紛れ込み、必死に逃げた事もあった。
 だからこそ、今回流れてきた吸血姫と出会ったみなもに別の未来もあるのではないかと想像した。
 異界の存在と共存、それも隣人としてつきあえる、そんな未来。
 世の中には多くの可能性があるはずだ。
「耽美な吸血姫とほのぼの人魚が隣人でもいいですよね」
 みなもの前にある水が揺れる。【水面に映る影】が発動した。

 サァアアと言う音がするかのように、景色が広がる。
 そこにはバラの園を備えた、洋館が現れる。
 現世ではなく、異界であるらしいと分かる部分を備えた洋館を中心とした世界ができあがった。

●主と
 屋敷の小屋に吸血鬼になっているみなもがいた。
 みなもは記憶をたどりながら、外に出る。
 庭にはくつろぐ吸血姫がいる。
「どうかしたか?」
「えっと……すみません、記憶が曖昧で……」
 記憶をたどる中、喉の渇きが顕著になる。
 目の前のヒトに血を吸われた。そして、吸血鬼で下僕にされたのだと思い出す。
 喉の渇きが強くなると、思考が停止しそうだった。自我があるうちに、どうにかしたい。
 自分が持つ能力は分かる。そのため、水からそれらしい成分を生成し、補ってみる。
 それと同時に一つの考えが浮かぶ。
「水の浄化作用で、元に戻るということはあるんでしょうか?」
「……は?」
 高貴な姫な雰囲気の女性から、困惑の声が漏れた。
 みなもは簡単に説明をした。
「いやいや、肉体的に作り替えられているから無理だろう?」
 姫は苦笑しながら言葉を返した。
 みなもは水を操り、渇きは補う。浄化するような働きを意識する。
 自浄作用は長い時間が掛かるだろうが、使ってみる価値はあると思う。
 結局、何か変わったか分からない。
「そういえば、この世界はどういうものか、説明をせよ」
 吸血姫の言葉は命令だとは理解したが、彼女自身の親切心から答えるつもりはある。
 そのため、どこから話すか少し考えていた。
「ぬし……器用なことをしおって。吸血鬼からは戻れなかったが、我の下僕からは脱したのか」
 吸血姫は怒りと興味を含む声で言う。
 みなもは「そういうことなんですか?」と驚いた。本当は吸血姫の言葉に
「見て居れば分かる。我がぬしを吸血鬼かつ下僕にして、命令を聞くようにしたのだ。それなのに、その反応だぞ? 我からの影響から脱していると想像つくだろう。まあ、ぬしが邪魔をするようなら殺せば済むこと」
 吸血姫は説明をしてくれた。恐ろしいことはついてくるけれども。
 みなもは相手が怖いということは思うが、話せば分かるヒトだという気もしていた。
 だからこそ、誠心誠意、話すことを選ぶ。
 世界のことをみなもが知っている限り話す。とはいえ、吸血姫が気になることは絞って行う。
「不夜城という地域もあります。そういうところでは……」
 みなもの説明が続くと吸血姫の目は輝いている。
「我らには住みやすい世の中のようだ」
「そうですか?」
「人の目があると面白いが、面倒も多い」
「今も人の目はありますよ? むしろ、機械の目もたくさんあります」
 みなもはまじめに答えると、姫は首を横に振る。
「大したことではない。合法的に狩るなら問題ないだろう?」
 どういうことか吸血姫が説明した。
 その内容を聞き、みなもは驚く。あいてが、的確に理解してくれている。
 その上、中学生のみなもには刺激的な内容でもあった。耳まで真っ赤になっている。
「そ、それは……そうですね」
 そう答えるのがやっとだ。
「では、行ってくる」
 吸血姫は早速外出するらしい。
「……あっ! あたしはどうしましょう?」
 みなもはここにいていいのだろうかという疑問がある。
 そもそも、吸血姫によって下僕にされたのに、自力でその束縛から脱してしまった。
 そうなると、居る理由もない。一方で、吸血鬼にされてしまったため、行く当てもない。
「好きにすれば良かろう」
「すごく、困る言葉なんですが」
 それなら、ここにいていいのだ。
「勝手にぬしが、自立したのだろう」
「……勝手に自立……」
 不思議な響きのする言葉が飛び出した。
(現代社会の自立とまた違うのです。だから、おかしくないけど……)
 みなもは納得した。吸血姫はみなもを保護するつもりも、追い出すつもりも何もないということだ。
 吸血姫は出かけようとして、一旦足を止める。
「きちんと我に説明をしてくれたから、こちらも説明はしておこう……」
 吸血鬼の掟というか注意事項を話してくれた。
(結構面倒見がいいかたですね)
 上に立つ者であることと、ヒトがいいのかもしれないと感じる。
 みなもは吸血姫が居なくなった後の屋敷を探索することにした。
 広い広い屋敷。ここで暮らしていいなら、知っておきたかった。
 一人になると、考えることができる。そのため、吸血鬼の注意事項について反芻していた。
「吸血鬼、最強のような、最弱のような気がするのは……あの数々の注意事項によるものですね」
 流れる水はわたれないが、みなもみたいに水に親和性がある者がその能力を持ったまま吸血鬼になったらどうなるのか、疑問が生じる。
「怖くて試せませんけどね……」
 みなもは溜息をついた。

●仲は縮まるか、変わるか
 みなもは洋館の一室を借り、生活を開始した。
 洋館の構造は分かったし、特に禁忌の部屋もない。
 洋館がわかるとその周囲に興味が出る。
 一応出ても問題はないということなので、まずは周囲という感じで徐々に出かける。
 外出したからといって何かと出会うこともない。
 この異界は洋館しかないのかもしれない。
 この異界からどうやって人間の世界にいくのかは謎だ。
 教えてくれるか分からないが聞いてみた。あっさりと、接点を教えてくれる。
「ただ、どこに出るかがずれる」
 固定がゆるいらしかった。
 みなもは出てみようかと考える。
 吸血鬼となって見る世界はどう違うのか、気にはなると同時に怖さもあった。
「でも、買い物はしていいはずですよね」
 とはいっても、しいて買いたい物はない。
 みなもは家主である吸血姫が時々、人間を連れてきているのを見ている。
 どうやって連れてくるのだろうと思う。
「人間のおもてなしのモノが居るでしょうか?」
「いらぬいらぬ! 我の一夜の愛人にそんなもの」
 姫が手をぱたぱたさせて言う。
「なるほど……愛人!?」
「恋ではない、愛だから」
 みなもは言葉を考える。確かに恋と愛では違う。だから、姫の言っていることは正しい。
 みなもは外出する姫を見送る。
「そうはいっても……時間はありますし、様々な茶の淹れ方を学んでみるのも面白いでしょうか?」
 みなもは自分の目標を作る。
 みなもと吸血姫の穏やかな日常となる。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 こんにちは。
 隣人としてのやりとり、吸血鬼みなもさんということでこうなりました。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月03日

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