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『辿った道はかき消えて』
桃李la3954


「あ、そうだ、グスターヴァスくん」
 和風居酒屋の個室で飲んでいる時だった。雰囲気のある店で、LED蝋燭も飾られている。内緒話をするのに、ぴったりの空気。
 そんな薄暗い個室で、桃李(la3954)はグスターヴァス(lz0124)へ、まるで醤油でも取ってくれないかと言うような気楽な調子で声を掛けた。
「はいはい、なんでござんしょ」
「ちょっと俺の話聞いてくれないかな。悪い夢を見た時は、人に話すといいって言うだろ? 聞いてくれるかい?」
「良いですよ。どんな夢をご覧になったのですか?」
「ふふっ、たいして珍しくもない、浮世をさ迷う幽霊の話さ」
 そう言って、彼は金を散りばめたような瑠璃色の瞳をすがめた。


 暖かな家庭に双子の子供が生まれたんだ。女の子と男の子の双子でね。お姉さんと弟だったんだけど。お父さんはちょっと不思議な目をした放浪者。お母さんはライセンサーとしてかなりの実力者として有名だった。美しい着物を好む人だったみたいだね。
 そんな二人の間に生まれた子供の、お姉さんの方は争いを好まない穏やかな性格だったそうだよ。
 でも、幸せな生活っていうものは長くは続かないって言うからね。双子が幼い内に、両親は他界。ナイトメアに殺されたみたい。お父さんの目を狙ったエルゴマンサーに。双子には両親以外に身寄りがなかったから、施設に引き取られた。しばらくそこで生活している内に、二人揃って引き取りたいと申し出た男がいたんだ。気の弱そうな男でね。問題もなさそうだったので、二人は彼の元へ引き取られたんだ。
 でも、問題がないっていうのは隠していただけだったみたい。お姉さんは男に殺された。なんでかって? なんでだろうね。ああ、でも、お姉さんは、金を散りばめたような、それは美しい紫紺色の瞳をしていたそうだよ。

 ……グスターヴァスくん、何か言いたそうだね。どうしたんだい?
 なんでもない? じゃあ続けるね。

 弟も殺されそうになったけど、命からがら逃げ出したみたい。でも、行方はわかっていない。警察も保護しないといけないから捜索したけど……現場に残された血の量からしても、もう生きてはいないだろうという結論に達したみたいだね。どのみち、彼の帰りを待つ者はもう誰もいない。両親はとっくに亡くなってるし、唯一の家族も……二卵性で異性だったけど瓜二つのお姉さんも死んでしまったから。
 そうして双子の弟は「死んだ」ことになった。一家全員、「死んで」しまったんだね。

 ちなみに、お姉さんの方を殺した男は、無事逮捕されたよ。数年後、獄中で不審死を遂げたから、「無事」と言って良いかはわからないけどね!


「でも」
 桃李が殺人者の末路を楽しげに告げて、言葉を切ったところで、グスターヴァスが口を挟んだ。
「生きてたんじゃないですか、その男の子」
「どうしてそう思うの?」
「当てましょうか?」
「続きを? どうぞ」
「男の子にそっくりな……まるで彼が成長したかのような男がその後ライセンサーになったりしてませんか?」
「お、よくわかったねぇ。じゃあ、彼が名乗ってる名前も当然わかってるよね?」
 桃李は頬杖を突いて首を傾げた。グスターヴァスは臆さず、
「『桃李』」
 目の前の男が名乗る名前を告げる。

 金を散りばめたような瑠璃色の瞳。美しい女物の着物。そして「優男」と評される、中性的な美しい顔立ち。瓜二つの姉がいる、と言われても顔が想像できるだろう。

 桃李を構成する一つ一つの要素には、全てルーツがあったのだと、その時グスターヴァスは思い知った。
「どうしてか聞いても良い?」
 緩やかに首を傾げる。グスターヴァスは少し息を吐くと、顔を上げて、
「桃李さんって、結構敬称を使いますよね。年上でも『くん』ですけど」
 一矢報いたい着ぐるみのエルゴマンサーにすら敬称をつける。
「そうかな? 嫌だった?」
「別に嫌ではないです」
「それがどうかした?」
「双子のことを話すときに」
 グスターヴァスは静かに告げる。
「姉の方は『お姉さん』と言いましたが、弟の方は『弟くん』ではなくて『弟』と言ってましたね、一貫して」
 長い前髪の向こうから、あの深い青色をした瞳がこちらを見ているのを、グスターヴァスはわかっている。
「だから何ってことはありませんけど、私はそう言う前提でお話を聞きました、とだけ」
「そっかぁ」
 桃李は細長い指先で口元に蓋をした。中空をしばらく見つめてから、もう一度グスターヴァスを見て、にっこり笑う。
「うん。そう。正解。数年後、その男の子にそっくりな『桃李』と名乗る男がSALFに所属した、というのがこの話のオチだよ」
 グスターヴァスくんにオチを予想されるなんてなぁ、と、桃李は、それが自分とは何も関係のない、過去の事件でも話すみたいに手を叩いた。また頬杖を突いて、耳の房飾りを揺らし、
「男は家族を愛していた」
 歌うように続ける。
「優しい父を、愛情深い母を、穏やかな双子の姉を。父譲りの眼も、母の好んだ美しい着物も、鏡写しの様だと笑った瓜二つのこの顔も、全て」


「桃李さん」
「何かな?」
「男が獄中死したのも数年後、少年そっくりの男がSALFに所属したのも数年後」
 グスターヴァスは極めて静謐に言葉を紡いだ。その様子を、桃李は緩やかな微笑みを湛えて見守る。気に入りの男が、自分の話から導き出す答えを楽しむかのように。
「同じ言葉を使ったのは偶然ですか? ただの手癖? それは同じ年数と言う事?」
「ああ、そうだねぇ……同じ年数かもしれないし、そうじゃないかもしれない。数年、だからね」
「そうですか」
 グスターヴァスもにっこりと笑う。
「私に話してくださったことを感謝いたします」
「大袈裟だなぁ」
 桃李もにっこりと笑った。
「ただの怖いお話だよ」
 それと同時に、電池が切れでもしたのか、LED蝋燭がふっとかき消えた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
私が書いてしまって良かったのだろうかとちょっと悩んだのですが、折角のご指名でしたので書かせていただきました。ありがとうございます。
途中から怪談蒐集家みたいになってる……という感じですが、ご容赦頂ければ幸甚に存じます。桃李さんの今後に幸いありますように。
敬称についてはちょっと捏造です。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月04日

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