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『太陽が見せたもの』
柞原 典la3876


「ん?」
 その日、何気なくヴァージル(lz0103)が街をうろうろしていると、ナンパの現場に出くわした。複数の男で一人の女を囲んでいる。長い銀髪が、柞原 典(la3876)を連想させた。別に、彼に対して思うことは「顔が良い」くらいしかない。典に似た女が絡まれているからといって、ヴァージルが何か思うことはない筈である。
「おい、何してんだ。眉間撃ち抜かれたくねぇなら失せろ」
 腰のホルスターをちらつかせながら脅しを掛けると、男どもは息巻いたが、ヴァージルが目にも止まらない素早さで銃を抜くと、恐れをなしたのか逃げて行った。これで良し。女には目もくれずに立ち去ろうとしたその時、
「一人でも捌けたんやけど、おおきに」
 その関西弁に、首の筋を違える勢いで振り返る。
「あれ、兄さんやん。どうしたん?」
 本人だった。
「は?」
 身長は普段より四インチほど低いように見えた。髪の毛は言うまでもなく伸びており、体の線は丸みを帯びている。
 そして何より胸である。このエルゴマンサーに、もう少し首から下へのすけべ心があれば凝視しただろうが、それよりも典が女体化しているという事実の方が彼にとっては重要だった。突然飛んで来た砲弾くらいのインパクトがある。
「どうしたはお前だよ」
「ナイトメア攻撃の後遺症やねん。数日で戻るっちゅう話や」
 だから心配していないと言う。典はそこで何か閃いたように、
「せや、兄さん暇やろ? 折角会うたしデートしよ。リードは任せたで」
「は?」
 ヴァージルはしばらく考えたが、
「えーと、どこに行きたい? 車なら出してやるよ。俺は関わらないが戦闘の助太刀に行きたいなら送ってやる」
 仲間の人魚にしてやったことしか思いつかない貧困な発想力であった。


「デートならまず着飾れ。てか、その恰好暑くないのか?」
 ヴァージルの言う「その格好」とは、白シャツに紺カーディガン、黒ズボンを、適当に袖裾折った無頓着な恰好のことである。典は全身真っ黒のヴァージルを面白そうに見て、
「兄さんがそれ言う? ノーブラやからシャツだけやとなぁ」
「貝殻で良いだろ。海行くか?」
「貝殻て。人魚さんやったらええかも知れへんけど、俺人間やからなぁ」
「服屋に送れば良いのか」
「置いて行かんといてな」
 手近なブティックに二人して入る。店員は典の顔を見てぽーっとなりかかったが、すぐに取り繕って、本日はいかがなさいましたか? と尋ねる。
「一式揃えてやってくれ」
 ヴァージルはそれだけ言った。
「兄さんの好みで選んでくれへんの?」
「俺が選んでやるのは一着だけだ」
 そんなことを豪語しながらもヴァージルはそれとなく口を挟んだ。彼が良いと言った服は、
「これめっちゃ体の線出るやん。兄さんそういうの好きなん?」
「俺の周りの女、皆、体の線出してるから……」
 人魚にしろインソムニアの主にしろ、体の線どころか肌を露出している。女の服はそう言うものだと思っているようだった。
「ああ……せやな……」
 という事でぴったり目、とまではいかないものの、腰の辺りを少し絞った紺色の袖無しワンピース、足元は同系統のサンダル。もともと典が着ていたカーディガンを羽織る。ついでに日傘とサングラスも。下着類は近くの百貨店で買い求めた。ちゃんと測ったところ、Eカップだったそうである。
「ふーん」
「反応薄ぅ」
 くすりと笑う。典は相手の腕を抱いて、
「ほんだらデートしよ? 海でもええで」
「ここから海ってどれくらいで行けるんだ?」
 車に乗ればすぐと言う事。幸いにもヴァージルが車を近くに置いていたので(入手経路は典も問い質さなかった)、それに乗っていくと言う。左側に乗ろうとした典に、
「そっちは俺の席だ」
「ああ、左ハンドルやんな……」
 前の持ち主の趣味らしいロックを掛けながら、ヴァージルは車を海まで走らせた。海の見えるカフェがあるらしい。
「そう言えば、女の名前で呼んだ方が良いのか?」
「典でええよ。『つかさ』って男にも女にもおるさかい」
「便利な名前だな」
「そうやろ」
 他人事の様に言う。
 駐車場に車を置く。典は日傘を差して海を眩しげに眺めた。夏の強い日差しで、細波が鏡の様に鋭い光を放っている。
 すれ違う人は皆こちらをちらちら見ていた。腕を組んで歩く美男美女。なお二人とも美形の自覚があるので、見られていることはわかっているし、見られるのも致し方なしと思っている。
「ぬくいわ。兄さん、店入ろ」
 典がヴァージルの腕を引っ張った。


「なんやろ。こう言うデートの時って何食べるもんなんやろか」
 メニューを開きながら唸る典。ヴァージルは早々にコーヒーを注文して、
「知るかよ。楽しそうだな」
「そぉ? どっちかっちゅうとこれで『知らん』言うてる兄さん見てるのがおもろい」
「ぶっ飛ばすぞ」
 典はその後も「プリンとパフェどっちがええと思う?」「コーヒーはキリマンジャロとモカどっちがええと思う?」などと尋ねてヴァージルをからかった。ヴァージルの答えは当然と言うかなんというか、
「知らん」
 である。やがて、典の注文したプリンアラモードが運ばれてきた。典はスプーンで一口すくい、
「一口いる? あーん、したろか?」
「いらねぇよ」
「なんやノリ悪いわぁ」
 そう言いながら、典はすくったプリンを口に運んだ。


 カフェを出て、二人で波打ち際を少し歩いた。日が傾き掛けているが、依然暑い。
「次会うとき戻ってなかったらどうすんだよ」
「それはそれでおもろいかもなぁ。兄さんの反応見るのが」
「おい」
「おもろかった。ほな、またね」
 典はそう言うと、少し背伸びしてヴァージルの頬に口づけた。


「──!!!」
 ヴァージルは頬を押さえながら、車の運転席で飛び起きた。駐車スペースに駐めて、次どこに行こうか考えていたところでうたた寝をしてしまったらしい。人間なら死んでいたかもしれない。
「くそう……なんであいつの夢なんか……」
 ていうかよく夢で会うなあいつ。
 頭を抱え、溜息を吐いて、
 頬に残る、ありもしない感触に掌で触れる。

 一方、典。
「ぬくい……」
 冷房をつけてはいたが、外の気温が上がりすぎて室温も上がっていたらしい。それで、あんな奇妙な夢を見たのかもしれない。
「おもろい夢やったなぁ」
 温度を下げながらくすりと笑って、
 唇に残る、まぼろしの体温を指先でなぞる。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
CLと見比べると本編ヴァージルがすごい塩対応に感じますね……。気が利かない。
典さん甘い物食べるイメージあんまりないんですけどヴァージルを困らせるためだけに頼むとかは普通にやってくれそうって思いながら書きました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月07日

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