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『手紙〜拝啓 馬鹿の君へ〜』
美玖・ルフla3520

 美玖・ルフ(la3520)は椅子に腰掛けていた。
 目の前には机。そして、一枚の紙。
 美玖はこれから思いの丈を文字に書き起こそうとしている。

 事の発端は、先日のある軍事作戦である。
 カリブ海に突如出現したオマリー島。その正体は、ナイトメアの拠点であった。
 SALF版海兵隊を自称する『海猫隊』は、ナイトメアから名指しで挑戦状を叩き付けられた事からオマリー島の上陸を画策する。相手は海猫隊を一方的に恨むエルゴマンサー。面倒だとは思いながらもナイトメアである以上、見逃す訳にはいかない。
 予定通り小型ボートに分乗して上陸を果たす事に成功したのだが、そこで待ち受けていた物は海猫隊にとって想定外の状況であった。

 ――『サンチェスランド』。
 オマリー島に建設された遊園地である。隊員達の眼前に飛び込んできたのは観覧車やメーリーゴーランド。園内には一際大きなメルヘンチックな城も存在している。ここがナイトメアの拠点と知らなければ、普通にデートコースと言われて信じてしまうかもしれない。
 敵拠点で何故、遊園地が建設されているのか。
 それは誰にも分からない。
 ただ、一つだけ明確になっている事がある。
「いやー、失敗したでし」
 思い返すも、美玖は自分の行いを反省する他無かった。
 サンチェスランドを建設したエルゴマンサーと美玖は、何度も戦闘中に遭遇していた。相手は一方的に海猫隊を恨んでいるようだが、美玖にとっては自称天才の残念な敵。知識はあるのかもしれないが、その知識を使いこなすだけの頭脳がない。そのせいで毎回下らないドジで相手が自爆している。
 美玖からすればそのエルゴマンサーは愉快な敵。敵同士なれど、憎しみ以外の感情も美玖は併せ持っていた。
 今回の作戦は因縁の敵が待ち受ける拠点。何故、遊園地を建設したのかはさっぱり不明だ。だが、『あの馬鹿』が今度は何をやらかしてくるのか。それは美玖にとって一つの楽しみとなっていた。
「まさか、そのまま寝坊してしまうとは思わなかったでし」
 腕を組んで反省する美玖。
 エルゴマンサーとの戦いが本当に楽しみだったが、翌日作戦開始であるにも関わらず夜明けまで眠る事ができなかった。その結果、作戦開始時間に間に合う事ができず、美玖は出遅れてしまったのだ。
「みんなに迷惑をかけたのは反省でし。でも、それとは別に伝えておかなければならない事があるでし」
 その決意が、美玖を机に向かわせたのだ。
 読まれるかどうかは分からないが、因縁のあるエルゴマンサーに対して伝えるべき事を伝えなければならない。
 戦いの中で、何度も馬鹿に馬鹿と伝えてきたのだが、今まで一度も理解していた気配もない。今回、奇しくも戦いの参加する事はできなかったものの、手紙という形でエルゴマンサーに考えを使える事にしたのだ。
「えーと……」
 そう言いながら、美玖は筆を執った。

『拝啓

 目もくらむような真夏の日差しのパワーが、頭が良いと信じている可哀想なエルゴマンサーの頭を直撃している今日この頃。如何お過ごしでしょうか。
 この度、建設に携わった遊園地が開演したと伺いました。
 改めておめでとうございます。
 遊園地なのに島に建設したセンスは、まさに常識を打ち砕く策だと思います。まさか来場者数を一切無視したアプローチは、真似をしたいと欠片も思わない程です。きっと薄利多売で園内の食事が高額なのではないかと愚行しております。
 また噂を小耳に挟んだのですが、園内にはマスコットキャラクターも多数存在していると伺っております。どのようなキャラクターなのかは存じ上げませんが、何処かで見覚えるあるキャラクターではないかと危惧しております。あまり他所のキャラクターに似すぎていれば、先方より訴えられる可能性もあります。できる事であれば海猫隊に無残に敗れ去るその日まで、訴えられないように世界の隅っこで体育座りして負け犬人生を生きていって欲しいです。
 今回、都合によりお目にかかる事が叶いませんでしたが、お目にかかる機会がございましたら是非とも思いの丈をぶつけさせていただければと思います。
 
 今は敗北の連続で寂しくなった頭髪が、ますます退去している最中かと思われます。
 再会の際には、完全に髪が消失させられるように邁進して参ります。叶う事のない海猫隊勝利を夢見ながら、ご指導ご鞭撻の程を宜しくお願い致します。

 敬具』

「うーん、こんなところでしかねぇ〜」
 美玖はここでそっと筆を置いた。
 手紙である事を意識して、それらしい挨拶を交えて書いてみた。だが、漏れ出る本音を抑える事もできず、チラホラと猛毒が溢れ出ている。
 それでもあのエルゴマンサーだ。
 きっと何となくの雰囲気で流してくれるだろう。
「さて、これで封をするでし」
 手紙を封筒に入れて封をする美玖。
 あとはこれをどう届けるかだが――。
「遊園地に放置しても良いでしが……直接渡しても平気そうな気がするでし」
 そう呟いた美玖は、来るべき因縁の相手との再会を楽しみにしていた。



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近藤豊 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月11日

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