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『あと一歩、といったところだろうか?』
瀧澤・直生8946)&天霧・凛(8952)

●悩ましい現実
 瀧澤・直生(8946)は天霧・凛(8952)の料理するのを見ていた。
 見ている分には幸せを分けてもらえる状況である。
 今日は何を作るのか、作ろうとして何になるのかが心配だ。
 いや、何かになるならばいいのだけれども、謎の料理になるのだけは勘弁願いたいところだ。
 とはいえ、凛の料理に対する情熱と思考はバランス取れては来ているようだった。
 ただ、料理名通りの物ができるかが不明なだけである。
 そこが一番の問題だが。
(うまい! ことがいいに決まっているだろう、凛自身も。その前の、安心して口に入れていいのかがわからないのは脱してほしい……)
 直生自身料理を作る。そのため、料理については知識はある。
 素材の味と調味料を踏まえてレシピがあるのだ。それに対して手間暇がある。
 手間を掛ければおいしいとは限らないのは、素材と調味料の味があるからだ。
 凛が作るものは食べられるものにはなってきてはいるようだが、安心して食べられるかは別。
(結局、凛の料理は失敗をしているのだろうか? 失敗ではなく目指した結果……ではないよな。凛自身もおいしいと思うものを作りたがっているのだから)
 直生は内心首をひねる。
(失礼なこと考えているなぁ……)
 直生は台所の凜を見つめた。
 これまでの経緯もよぎる。凛の気持ちは確かなのだ。
 直生はできれば口出しをしたくはない。これまで言うことは言った。だから、また口を挟むと、喧嘩腰になる危険性がある。
(信じて見守ろう)
 決心はしたが、落ち着かないのも事実だった。

 凜はご飯を炊く。
 これはできた。これまでだってこれはできていた。
(サラダもちぎって終わり、だからできていたのです。余計なことをする余地がないからです?)
 料理でも初歩の初歩と言える。
(味見をしてみて……その結果、蛇行をしたんですよね……つまり、味付け、が加わるとできなくなる、んですよね)
 凜は直生とのこれまでの会話などから自分の行動を考えた。
 味見を余計にして失敗する。余計というのは、何度もするだけでなく味見するたびに思い出したコツなどをしてしまう。結局、しないときと同じような結果をもたらしてしまった。
(味を頭で考えて、適度に味見をしてみる……べき、でしょうか)
 料理を安心して食べたもらい、その上で、おいしいと感じるものを作りたい。
 それには何をすべきか、考えないといけない。
(ご飯を炊くのだってそうですね。余計なことをしようと思えば、古米は酒を入れるといいというのを、きちんと理解しないですれば……変な白飯になるのです。今までご飯を炊くのができていたのは、適宜水を入れて炊く必要があると理解しているからですよね)
 炊くとしても米に対して適量の水がある。釜に入れてから、水にしばらく浸す理由も実際ある。それを凜は無意識でしていた。考えていたわけではないけれども、身についていたものではあった。
 料理には理論もついて回っているといえる。
(……分量通り作る、その上で味見をする……ちょっとひと手間はしない……)
 凛は一文字に口を結んだ。
 直生は根気よくつきあってくれている、料理を作ることに。
 直生が作れるからといって、凛に料理をやめさせることもない。
(それをされていたら、別れていましたよね……)
 凛は直生をちらりと見て、決心した。
 今回は絶対成功させる。慎重に慎重を重ね料理をする。
 地獄のチャーハンを普通のチャーハンにするために。
 凛は根気よく計った。
 炒めて調味料を入れてから、しばらくして味見をした。
(塩分が足りない? 塩……違います……醤油を……)
 計量スプーンを見る。大さじはダメだ判断し、小さじよりも少なめに醤油を入れる。
 そして、もう一度口に含む。
「……!?」
 凛は確信した、これはおいしいはずだと。
 少し炒めたところで、火を止める。
 チャーハンとサラダが完成した。
 本当はスープも作りたかったが、欲張ってはいけない。
 凜は料理ができてほっとする。

●顔を見ればわかる
 テーブルの上にはチャーハンとサラダがある。
 直生は凛の最初の味の思い出がよぎり、表情が硬直する。
(匂いは普通、だ。チャーハンのにおいだ)
 テーブルの椅子に座り、じっと料理を見つめる。
「……直生さん……警戒しないでください」
「……すまない」
「……いえ、警戒する理由がわかるので……警戒するなというほうが難しいですよね」
「いや、うん、今日は……いや……」
 直生は慰めようとして、味をしらないので下手なことは言えないと気づいた。
 凛も理由がわかっているため、いろいろ言えない。
「きょ、今日は食べられる、はずです」
 おいしいかどうかはおいておく。
「では、いただきます」
 直生はフォークを取り、サラダを先に食べた。
(回避されたのでしょうか?)
 など思ったけれども、食べる順番というのはある程度ある。
 みそ汁をはじめに飲む方がいいとか、野菜からとるか、そのたぐいのはずだ。
 直生がチャーハンに移った。
 凜と直生に、緊張がみなぎっている。
 食事を始めてから、凛自身意識していないようだが、自分が作ったチャーハンを口に運んでいる。
 直生は凜が彼女の作ったチャーハンを食べていることに気づいていた。
(味覚障害、それとも? いや、凛は自分で作ったものが普通過ぎて気づかないで食べているだけ、だと信じたい)
 味見しろとかレシピ通りに作れと正論とはいえ、言ってきた手前、凛が極度のストレスを感じ、味覚障害でも起こしたかと最悪な事態を想定までしていた。
 直生は覚悟を決めて一口食べた。
 口の中に広がった味は、一般的にチャーハンと言われるものだった。
 口の中の物がなくなったところで、再び口に入れる。
 材料には適度な味がしみこみ、火の通ったチャーハンだった。
「……うまい……」
 直生は真っ直ぐ告げる。
「またまたー」
「いや、お前だって、さっきから自分でパクパク食べてるだろ」
「……」
「謎料理の時、凛自身、変な顔して食べたり、無理だったはずだ」
「あ」
「つまり、この料理、普通もしくはうまい」
 凜は驚いている。
「自分で驚くな!」
「だ、だって!」
 直生に言われて、凜はうれしいやら、あの葛藤から解放されたと安堵するたらで感情が沸き立っている。
「凛、うまいぞ、このチャーハン」
 直生は笑顔で言う。
「……直生さん! ありがとうございます」
 凜が感涙にむせぶ。
「凜が頑張ったんだろう」
「そ、そうですけど。直生さんがあきらめずあれこれ言ってくれたおかげです」
「凛、コツ、わかったか」
「はい! 手間暇かけたい気持ちはあります。やっていいか悪いかがあるわけですよね、手間に」
 よく煮込む、じわじわ火を通すといった手間はやってよい物。
 別の料理のコツを全く違う料理で試すのはやってはいけない手間。
 基本はレシピ通り。レシピとは料理の味を考えて作られたもの。
 だから、自分でアレンジするならば、そこは考えて足し算引き算していかないといけないのだ。
 応用は難しい。
 まずは、基本編だ。
 今回、基本料理はマスターできそうだという兆しが表れた。
「次はこれに中華風スープもつけますね」
「ああ」
 二人は笑顔で料理を食べ終えた。
 凜は料理が楽しいと本当に思えた。
 直生も料理を作ってもらえてうれしいと本当に思えた。

●まあ、一歩ずつ
 予告通り、凜は次に料理を作る際、チャーハンと中華風スープとサラダにした。
 前回の成功体験があるため、凛も直生も「うまくいく」と思っている。
 そこに落とし穴があったのか分からない。
 サラダはいつも通り。ちぎって切って、好きなドレッシングなどで食べるスタイル。
 中華風スープは春雨と卵、わかめといったシンプルなもの。味付けは最小限にとどめ、あっさり味。
 こちらはきちんとレシピで予習もしておいた。
 チャーハンは以前より、色は濃いかなと思いもした。
 醤油入れすぎとかだろうと深く追及はなかった。匂いも焦げたかなかという匂いが混じっている程度だった。
 直生も凛も笑顔で食べ進める。
 二人はタイミグ良く、同時にチャーハンを口に入れた。
 咀嚼が止まる。
 吐き出すかと一瞬考えるがぎりぎりで耐えて呑み込む。
「……なんで」
 凛が困惑をする。
「何を入れた」
 直生は思わず直球で言う。
「いえ、前の通り作ったはずですけど」
「味見は?」
「……中華スープは用心したんですが、前回通りだったので、チャーハンは」
「しなかった」
「はい……でも、なんでこの味になったんでしょうか」
 凛も釈然としていない。
「同じ、なんだよな?」
「その、はずなんですけど」
 直生の念押しに、凜は自信を無くす。
 凜は二口目を食べる。食べられなくはないけれども、チャーハンの見た目のどこか違う味。匂いも一応チャーハンだ。
「なんででしょう?」
「俺は、わからん」
 直生も二口目を食べた。
「何かが多くて少ないのかぁ」
「うーん」
 食べられなくはないのに、変な味。
 謎料理なのは事実。
 チャーハンなのに違う何か。
「とりあえず、ケッチャプでも足せば消えそうだな、この味」
「それ、ありですか?」
「試そう……いや、試してもいいか?」
「……試しましょう」
 凜は立ち上がり、皿を持ち上げる。
「待て、全部で試そうとするんだ」
 直生は冷蔵庫からケチャップの容器を持って戻ってくる。
 それをチャーハンの一口分くらいのところにかけた。それを混ぜてから、口に入れる。
「……あ、ごまかせた」
 チャーハン全体にかけ、混ぜる。
「火は通さないのですか?」
「ああ、これで十分だ」
「……なんか、料理……味見、成功したからっていらないわけではないですね」
 凜は複雑な思い。
「それが面倒なところだ。それに何度も作らないと身につかないかもな」
 凜はため息をついた。
「今日だって、成功はしてるじゃないか」
 直生は凜を見つめる。
「……でも、以前成功したのにケチャップ混ぜご飯になったチャーハンもどきは何ですか」
「そうだな、ケチャップ混ぜご飯になる予定だったチャーハンもどきだ」
 直生は笑う。
「……そ、そんなー」
「レシピ通りで、適宜の味見はできているんだぞ? 成功だってしている。なら、それを身につければいいだけだ。前に進んでいるだろう? 謎料理だって、食べられたんだから。ごまかさなくても一応は食べただろう?」
「それはそうですね。謎料理って言われるのは心外です」
 凜は力なく微笑んだ。
「ケッチャプ混ぜご飯の素のチャーハンです」
 凛はパッと笑う。
 開き直った。
 味の計算式は難しい。
 それなら、無理をせず楽しめる方がいい。
 失敗してもどこかで救済があるかもしれない。
「直生さん、マヨネーズでもいいのでしょうか?」
「これ、結構、油あるからなぁ……。でも、マヨネーズ掛けご飯がいけるなら? いや、待てよ、チャーハンでマヨネーズを使って作るレシピもあったなぁ」
「パラパラになるんでしたっけ」
 凛と直生は話が弾む。
 料理の話をするのは実に楽しいことだった。
 それに、成功するコツは二つ、レシピ通りかつ味見を適宜。
 まずは、おいしい、緊張しない料理を安定的に作ることだ。
 一歩、また一歩と凜は進む。
 料理上手になるのも、遠い未来ではないかもしれない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 凛さん、謎料理は徐々に脱してきた雰囲気なりました。
 直生さん、料理に対するおつきあいは根気ですね。
 これは互いに愛がないとできません。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2020年08月12日

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