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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン3 第5話「健やかなる時」』
柞原 典la3876


 屋外の駐車場で、機関銃の銃口が軽快な銃声と共に閃光を放つ。ヴァージル(lz0103)の牽制が効いている間に、柞原 典(la3876)が夜叉の蔦でまとめて刺し貫いた。範囲から漏れてこちらに向かってくる敵はヴァージルのアリーガードで対応。典の無事を確認しようとして振り返ったヴァージルは、その肩越しに見えるナイトメアに向かって銃を向けた。そうすると今度は今しがた攻撃を防いだ相手に背中を向けることになるが、そこは典が銀色の拳銃を構える。同時に発砲。
 息が合うな、と同行者が言う。
「まぁクラスの相性はええかもな?」
 リロードしながら典が肩を竦めた。セイント×ネメシスフォースで知覚の攻守に長けた典と、ゼルクナイト×スナイパーで物理の攻守に得手なヴァージル。互いの死角や弱みはカバーできるのかもしれない。
「兄さん」
「おう!」
 車の向こうに飛び込んでいった一体を見つけて典が声を掛けた。回り込むのでは遅い。ヴァージルは掌を上にして両手を組んだ。典の靴が躊躇なくそこを踏む。同時にヴァージルの腕が彼を押し上げた。車の上に飛び乗り、向こうを覗く典。
「やられる覚悟はできとんのやろ?」
 酷薄な笑みを浮かべて、傘を振るう。典の頭の高さまで、赤い蓮の花弁が飛び散った。

 クラスの相性だけか……? 同行ライセンサーたちは首を傾げた。


「兄さん、この後飯どう? 俺が奢ったるわ」
 本部に報告を済ませると、珍しいことに典の方から食事に誘った。しかも、奢ると言う。ヴァージルはスマートフォンの天気予報アプリをわざとらしく起動して、
「明日は大雪か?」
「なんや人聞きの悪い」
 典も大袈裟に睨んでみせる。
「こないだ看病してくれ分のお返しや。兄さんに借り作ったままにしとうない」
「あんなの借りに入らねぇだろ」
「ほんまお人好しやなぁ」
 くすくすと笑う。ヴァージルは肩を竦めた。
 普段のわがままとか振り回しは借りに入らないんだ……と、通りすがりのライセンサーは思ったと言う。典に言ったならば、
「兄さんは俺に振り回されるのがむしろご褒美やからええねん」
 と返ってくることだろう。


 イタリアンバルに入ると、ワインとつまみ、ピザとパスタを適当に注文した。ヴァージルは車なのでソフトドリンクだ。
「送ってってやろうか?」
「そうしてもらおかなぁ」
 運ばれてきた飲み物で乾杯。一緒に来たプロシュートを食べながら、他愛のない雑談をする。笑っていると、ピザとパスタも運ばれてきた。シェア用の取り皿に取り分ける。ピザの一片を取り上げると、焼けたチーズが長く伸びた。
「美味そうだな。どうぞ」
「おおきに」
 食事と酒が進むと、典は段々気分が良くなって来た様で、
「兄さんが風邪ひいたら、次は見舞い行ったるよ」
 そんなことを言う。
「まぁ何とかは風邪ひかんらしいけど」
 そう付け足すのが彼らしいと言うべきか。無自覚の照れ隠し。
「夏風邪は何とかがひくんだぜ」
「いやいや、俺のは因果関係はっきりしとるもん。不可抗力や。ああ、でもそしたら兄さんもじきに風邪ひくかもな」
「人聞きが悪い」
「だって、兄さんがあんな俺にべたべた触るから悪い。俺悪ないもん」
「子供か? 悪かったよ……って、ほら」
 ヴァージルは新しい紙ナプキンを一枚抜いて手を伸ばしかけて……思いとどまってそれを典に差し出した。
「口元にソース付いてるぞ」
「取って」
「馬鹿」
 触るから悪い、と言った舌の根も乾かぬうちに。ヴァージルはそう罵りながらも笑って口元を拭ってやった。大人しくされるがままにしていた典は、ナプキンが離れると、何かを思いついた様に目を瞬かせた。
「やっぱ割り勘にしよ。風邪の責任とってや。あ、せやったら奢ってくれてもええで」
「何言ってんだ割り勘だよ。アメリカは風邪引くだけでも大出費だ。うつされるの覚悟で行ったんだからお前も金出せ」
「いけずやなぁ。ほな七対三でもええよ。俺が三な」
「しょうがねぇ野郎だな」
「兄さんお人好しが過ぎるわぁ……お、このボロネーゼ美味いな。ワインによう合うわ」
「酒もほどほどにしとけよ。二日酔いは流石に看病してやらねぇぞ」
「なんでや。二日酔いはうつらんからええやろ」
「逆になんでだよ。風邪と違って自業自得だろ」


 食事を終えて、ほんのり頬が赤くなっている典を助手席に乗せて家まで送る。先日SALFから看病に行ったから、道はわかっている。赤信号にブレーキを掛けながら、うたた寝をする典を横目で見た。
(初めて会った時はこんなことになるなんて思わなかったけどな)
 あの時はヴァージルもまだ保安官代理で、典は胡散臭いライセンサーの一人でしかなかった。まさ自分が彼と同じ立場になると思わず、またここまで親しくなるなんて欠片も思っていなくって。
 前は居眠りどころか、同じ車に乗ることもなかった。仕事が終われば「ほな、また」と言って典はさっさと去って行く。ヴァージルの傍にこんなに長く、また近くいるようになるなんてことは、想像も付かなかった。ましてや旅行に行くことも、偽装夫婦として同室に泊まることも、一緒に食事して車で送っていくことも。そしてそれを嬉しいと思うことも。次の機会を設けたいと思うことも。
 典の穏やかな寝息に安堵している自分に気付いたのはいつだっただろう。随分前のような気もするし、最近のような気もする。
 やがて、先日訪ねたアパートが見えた。路肩に車を停めて、助手席の典を揺さぶる。
「おい、着いたぞ」
「んー……」
 むにゃむにゃ言いながら、典は助手席で伸びをする。その様子を見て、ヴァージルは思わず笑った。
「何笑うてんねん」
「何でもないよ」
 取り繕う言葉がそれ以上見当たらず、黙るヴァージルに典は眉を寄せる。
「なんや、笑うたと思たら黙りこくって。気色悪い兄さんやな」
「うるせぇな。明日二日酔いだったら承知しねぇぞ」
「そんなに飲んでへんて」
 典はシートベルトを外した。おやすみを言い合って、典の方はアパートへ戻っていく。部屋に入るのを見届けて、ヴァージルは車を出した。

 病める時も、健やかなる時も。

 将来を誓わなくても、届く範囲にいる間は。

 いつか来る「その時」が二人を分かつまで、ヴァージルは典の相方を名乗り続けることにした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
前回が「病める時」で今回が「健やかなる時」と対だったので、ある種二人の関係が一段落した印象で書かせていただきました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月12日

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