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『酒と普通と魔女と探偵』
松本・太一8504

●夜会
 松本・太一(8504)は魔女夜会に出向いていた。
 太一の持つ職業の一つである魔女。その魔女の集まりに出かけなくてもいいかもしれないが、闇営業みたいなことになり、風当たりはよろしくない。
 つながりというのは必要だった。
 いくら、魔女という不本意な仕事でも。いや、魔女自体はいいかもしれないが、太一の場合、憑いている女悪魔の影響で本当に女になってしまうのが問題点だった。
 結果、魔女夜会にいくときは、女の姿・夜宵として出向く。彼女が彼だとは、その界隈のヒトならば知っている。
 魔女夜会は情報交換もあるけれども、交流会でもある。交流会はいわゆる飲み会だ。
 結果、今回、夜会において、太一は先輩魔女の戯れで魔法をかけられた。何かの姿化に変身させられてしまった。
 太一は立ち方が変わっていないため、何が変わったのかと一瞬悩んだ。
 ご丁寧に提示された全身鏡を見た瞬間、太一は「ヒッ」と退いた。
 顔は狼、出る所は出る、引っ込むところは引っ込む、人間の女体系。
 人狼というか、魔狼というか、獣でありながら二足歩行する形。
 太一は言いたいこともあるが、反論したところで口では負ける。曖昧な表情で、先輩魔女に無言で訴えるしかなかった。
 先輩魔女が言うには、太一に対して付与した姿は気合を入れて想像し、作り上げたものらしい。
 掛けられた本人は望んでいないため、力が入ったものだろうが、迷惑この上なかった。
 夜会はただの飲み会になってきていたため、太一は離脱した。
「普通に呑みたい」
 太一はふと考えた。
 今の姿を考えると場所を選ぶ。朝日が昇るころには元に戻るらしい。
 考えると浮かぶのはこちら側を理解している人物かつ酒を飲める人物だ。
 付き合ってくれそうな人を考える。
「あの人はどうだろう」
 再度考えると、今の格好では一般的な飲み屋に行くのはあり得ない。
 絡まれる以前に、入れない可能性もある。
「普通に呑むにはやはり……あの人に付き合ってもらうのが一番いい」
 けれども、彼の宗旨もあり、追い返される危険性も高かった。
「とりあえず、酒と肴」
 酒の量販店に寄る。
 ぎょっとされたけれども「特殊メイク」と言ってごまかし、きちんと買い物をして逃げ出すように立ち去った。

●事務所前
 太一は草間興信所の扉をたたく。
「はい?」
 時間のせいかやる気のない草間・武彦(NPCA001)の返答がある。
「こんばんは、松本です」
「あー……あっ!」
 扉が開いたが、即刻閉められた。
「ちょ、草間さん!」
「見ない、聞こえない、答えない!」
「いや、答えているじゃないですか!」
 鍵がかかっているわけではないため、太一は必死に扉を開けようとする。
 武彦も必死に扉を抑えている。
「草間さん! お願いです、開けてください!」
「いや、お前なんて知らない」
「松本・太一です!」
「知らねー」
「いや、そんなわけないですよ! さっき、普通に反応して開けて、この格好見て閉めたじゃないですか」
 太一は的確に武彦の行動を指摘した。武彦はそれに対してかたくなに「知らない」と繰り返す。
「お願いです。普通に酒を呑みたいんです」
「そんな、日常の会社の人間と飲め」
「会社の人以外とですよ」
「なら同業者とやれ」
「それはもう、普通じゃないです!」
「そのままどこか店に行けばいい」
「どう考えても、店に入れないか、変なのが寄ってくる状況ですよね」
「理解してるのか!」
「だから、草間さんのところで……」
「緊急避難場所じゃないし、怪奇はお断りだ。いや、そんなもの存在しない!」
「特殊メイクです」
「あー……いやいやいやいや」
 納得しかかった武彦が慌てて首を横に振っている。
 太一は武彦が説得に応じてくれないため、次の作戦を考える。
 しかし、説得材料が少ないため、ストレートになった。
「……せっかくの土産が無駄になってしまいますね」
 肴セット、特売とはいえ、量だけでなく、お高そうなものを選んである。特売のマジック。
 武彦は沈黙を返してくる。
「結構買ったんですけどね……肴と焼酎。これ、一人でするのももったいないなー。いい商品もあって、ちょっとお高くておいしいというアレが何と賞味期限が迫るため半額……」
「アレ?」
「アレです」
「……アレとは何だ」
「……アレです」
 かたくなにアレで返す。
「特殊メイクをしているだけですよ」
「特殊メイクか……」
「はい」
 扉がしぶしぶ開いたのだった。
「入れ、特殊メイクをした野郎」
「ありがとうございます」
 太一は袋を抱えて事務所内に入った。

●飲み会?
 ローテーブルに太一は買ってきたものを並べる。その間、必要そうなカップと皿などを武彦が取ってくる。
 武彦は戻ってきて「アレはどれだ」と問う。
「これですよ」
「うーん、これかー」
 武彦の想像とあっていたのかはわからない。テンションは低めだ。
「おいしいじゃないですか、これ」
「まあ、うまいが」
 太一は酒の容器の口を開け、カップに注ぐ。
「草間さん、どうぞ」
「ああ……まー、うん」
「どうかしましたか」
「……特殊メイク……」
「……」
 太一はガラスに反射した自分たちの姿を見た。
 男に人狼な女が接待する図にも見える。
 特殊メイクと考えたとしても、異様な光景だ。
「普通に呑むんですよー。草間さんもグイッといってください」
「ああ」
 そして、二人呑みは始まった。
 まず一杯目、太一は本当にグイっといった。
「ああ、おいしい」
 太一は魔女夜会からここまで移動していることもあり、疲労や緊張から喉も乾いていた。二杯目を注いでから、肴を食べる。
 武彦は一杯目の途中からパクパク肴を摘み出した。
「で、なんで、そんな恰好しているんだ」
「聞いてくださいよ!」
 太一は夜会であったことなど語り始めた。
 武彦は黙って聞きながら、酒と肴を消費する。時々、太一のカップに注ぐ。
「草間さんくらいですよ、こんな親切な人」
「あー、そーか」
 武彦は感情がない返答をしつつ、たばこを一服している。武彦としては現状における葛藤の末の反応だ。
 酒が入ってきている太一は、細かいことを気にしていない。普通に呑んでいる貴重な体験なのだから。
「そんな、謙遜しないでくださいよ! さ、こっち、焼酎でも味が違います」
 カップに酒を注いだ。
 焼酎でも銘柄はいくつか選んではいた。楽しみは重要だし、普通に呑むなら、飲み比べだってする。
「大体、魔女って何ですか」
「いや、それを俺に言うなよ。日本だと、男も含むし、ちょうどいいだろう」
「いやいや、それって言葉の意味であり、本当に女になるという意味じゃないですよね」
「絡むなぁ」
 武彦は太一の目が据わっているのに気づいた。
「酔ってるな」
「草間さんも飲みましょう」
「あー」
 話の飛躍が多い。
 ただ、武彦は勧められると飲む。普段飲めていないからかここぞと飲んでいるのか?
 酒を呑む二人は、酒に呑まれ……部屋に入ってきた太陽の光で目覚めるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 草間さん、ハードボイルドはどこかに行きました。
 なんとなくコメディのような雰囲気になりました。
 太一さん、普通に飲めました? いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月12日

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