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『瑠璃の夜空を隠したままで』
桃李la3954


 桃李(la3954)は依頼の窓口を離れると、近くをうろうろしていたグスターヴァス(lz0124)の前にふらりと姿を見せた。
「やあ、グスターヴァスくん。相変わらずだね」
「こんにちは桃李さん。お元気そうで何より」
「今話せる?」
「大丈夫ですよ。どうしました?」
「お願いがあって……俺の『ご主人様』になってくれないかなぁ」
「は?」

 レヴェルの密会情報がSALFにもたらされた。その会場は……上流階級、要するにお金持ちが主催し、招待されたパーティである。
「そこに、主従として潜り込むっていう依頼だったんだけど、どうかな? グスターヴァスくんがご主人様で、俺は執事」
「ははぁ。そう言うことですか。良いですよ。かっこいい執事さんを自慢しますね」
「酔狂な主ってところかな?」
 くすりと笑う。
「気に入らないと取って変えてるとかどうです?」
「ふふっ、面白いねぇ。良いよ、衣装は合わせた方が良いかな?」
「そうですね。私の趣味ってことで」


 そして、当日。
「あらやだ眼鏡男子じゃないですか……ってあれ?」
 桃李は長い前髪をオールバックにして、ウィングカラーに蝶ネクタイ、地味な洋装という格好。当然、上に羽織る着物はない。
 グスターヴァスの目を引いたのは眼鏡だった。変装の小道具として特段珍しくはない。眼鏡そのものは。問題は、眼鏡越しに見える瞳だった。
 金を散りばめたような瑠璃色の瞳。深い海の色とも、明るい夜空の色とも言える青い瞳が、今はどちらかと言うと原色の青色に見える。静かに散る火花のような金は鳴りを潜めていた。
「ああ、これ? IMDで認識阻害の加工をした特殊な眼鏡だよ」
 グスターヴァスのネクタイを直すフリをして、囁く。
 桃李は顔立ちも整っているが、今は髪型も服装も違うので大分印象は変わる。だが、目は別だ。彼の目は一風変わっているから、もし以前彼に会ったことがある人間が万が一パーティに混ざっていた場合、一目で気付かれてしまうだろう。
 だから、目の色を違って見せるような準備をしてきた、という事らしい。
「なるほどね?」
「では参りましょうか──ご主人様」
「そうですね、行きましょう……桃李」
 SALF側で用意された招待状を見せて、二人は会場に入った。


「桃李、あなたも何か食べてきなさい。夜は長いですよ」
「いえ、ご主人様。私は軽く済ませてきましたので。ああ、何か召し上がりますか? 取って参りましょう」
 立食の席で、背の高い「主従」は人目を引いた。だからこそ、自然な振る舞いが求められる。とは言え、一風変わった主従を敢えて演じることによって、多少の不自然さも仕様と言う事にしている。
 グスターヴァスが適当に指示したものを皿に取りながら、桃李は周囲の言葉に聞き耳を立てていた。
(いくらこう言う場で人間が周囲の話なんか聞いてないとは言え、流石にこの会場で堂々とやりとりはしないよね)
 この場でさも「一般人」を装うとしても、レヴェル同士の密会としては場所を変えるだろう。会話の中に何かそう言うものの兆候がないかどうか。仮に隠語や符丁などでやりとりををしていたとしても……あらかじめ決まった文言は、その場で偶発的に生じる会話では極めて不釣り合いになる。
 そう言う違和感を、桃李の耳は探した。グスターヴァスが頼んだ料理はあちこちにあって、奔放な主人に忠実に従う執事を演じながら。けれど、それは広範囲を違和感なく歩き回る口実にもなる。ちらりと振り返ると、彼は声を掛けられたらしい相手と談笑していた。多少会話の内容はぶっ飛んでいるかもしれないが、人当たりの良いグスターヴァスは雑談くらいそつなくこなすだろう。様子を見ていると、大分会話は弾んでいるらしかった。
(グスターヴァスくんと話が弾むってことは、あの人も結構な変人だなぁ)
 桃李も世間一般で言うと「変わり者」に入るのだが、本人は自らを「正常で善良な一般人」だと思っている。割と本気で。
 頼まれた物をいくつか持って戻ると、グスターヴァスの話し相手は桃李を見てきょとんとした。
「うちの従者ですよ」
「こんばんは」
 するとどうだろう。相手は目を瞬かせてゆっくりとグスターヴァスを見る。それじゃあ、白い薔薇に興味はないのですか? そんなことを尋ねた。
「白い薔薇、興味なくもないですけど……?」
「ご主人様、どうやら人違いのご様子」
 桃李が口を挟む。眼鏡越しに視線を投げかけると、グスターヴァスの目のピントが動くのが見えた。
「ああ、そう言うことでしたか。私に似た方と薔薇のお話しをしたかったのですね。残念ですが人違いでしょう」
 朗らかに告げると、相手はそそくさと去って行った。酷く狼狽えたように、会場を見回している。その様子を、背の高い、金髪でオールバック、四十代くらいの男が凝視しているのが、桃李たちの位置から見えた。
「ははーん、ほんとに人違いだったわけですね」
「そうみたい」
 人違い男と金髪の男が、別々に、けれど続いて会場を出る。
「ちょっと酔いを覚ましましょうか」
「お供いたします」
 二人も会場を出た。先ほど「人違い」をした男が、グスターヴァスに似た男に何やら叱責されているようだった。バレたらどうする、だのSALFに知らされたら、だの聞こえてくる。
「ビンゴ」
 桃李は呟いた。また更に移動する二人を追い、情報の受け渡しをしようとしたところで、
「白い薔薇というのはそれのことかい? 薔薇と言うには、美しさに欠けないかい?」
 桃李が姿を現した。からかう様に告げる。グスターヴァスが後ろから姿を現すと、金髪の男が人違い男の胸倉を掴んだ。ほら見ろ、お前が間違えるから!
「その情報、押収させてもらいますよ。あなたたちもSALFでお話しお聞きします」
 にっこり笑い、
「良いでしょ? あのまま誤解が解けなかったら私に話してたかもしれないんですから」
「そうだよ。ちょっと遠回りしただけで、結局同じ事になるってだけだね」
 桃李も面白そうに笑った。


「いやぁ、面白かったな。思わぬハプニングもあったしね」
 諸々の後始末を済んでから、桃李はネクタイを緩めて眼鏡を外した。原色に近い明るめの青い瞳が、やや深みを増して、星のような金色が虹彩に散る。
「桃李さん、ノリノリでしたね」
「普段にない面白いことだったからね。グスターヴァスくんも様になってたよ。『ご主人様』?」
「よしてください。ちょっと恥ずかしかったんですから」
「そうなの?」
「そうですよ」
「じゃあ、次回は俺がご主人様になろうかなぁ。執事さんやってくれる?」
「よろこんで。身の回りをお世話させて頂きますよ」
 グスターヴァスはにこりと笑う。桃李は眼鏡を窓口に返すと、引き取った着物を開いて肩に羽織った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
眼鏡でごまかせる瞳の色ですが、外した時に元の色がスッと出てきたら良いな〜と思って原色に近い青とさせて頂いております。
眼鏡執事の桃李さんに「ご主人様」って呼ばれるのってちょっとどきどきしそうな感じですね!
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月14日

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