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『二時間ドラマ「温室の四知」』
マーガレットla2896)&柞原 典la3876

●登場人物
マーガレット(la2896)
異世界から転移してしまった薬師の女性。前の世界のもの含めた知識は膨大であり、下地もあったためこちらの世界でも受験をし、特例で薬剤師の資格を得ている。
現在は警察コンサルタント。

柞原 典(la3876)
警察官。階級は巡査部長。割と非道な手段にも出る。体術、射撃術は一通り修めており、優男だと甘く見て怪我を負った犯罪者は枚挙に暇がない。

グスターヴァス(lz0124)
警察官。階級は警部。マーガレットの薬学知識を見込んで協力を仰いでいる。署内の誰もさじを投げた典のお目付役でもある。彼が犯人をぶん殴る度に何故か自分が始末書を書いている。

●あらすじ
白昼の植物園で傷害事件が発生。傍には枝の折れた毒性植物が。被害者の皮膚に異変はなく、どうやら犯人がぶつかるなりして折れていったものらしい。現場に呼ばれたグスターヴァスと典は、コンサルタントのマーガレットを伴って現場に赴く。

●事件発生
 関係者以外立ち入り不可の、硝子張りの温室の中でその男性は倒れていた。発見された時、まだ息があったので搬送されている。今は、血の跡と、被害者の倒れ方を象る線が残されている。血が苦手なマーガレットは、その血痕を見て顔を背けた。
「被害者は胸を鋭利な刃物で刺されていたそうです」
 グスターヴァスが説明すると、典は顎に手を当てながら、
「刃物は抜けてたん?」
「いえ、抜けてないですね。返り血は期待できないでしょう」
「防御創もあらへんの?」
「経験者は言う事が違いますね」
「なんでや、刑事の基本知識やろ」
 グスターヴァスが肩を竦めると、典は口元に笑みを浮かべたまま、じろりとその目を見上げた。マーガレットは、新芽と青空を混ぜたような不思議な色をした瞳を瞬かせながら、
「典さん、経験者というのは……」
「痴話喧嘩っちゅうやつやね」
「ええっと、刺した、という事でしょうか? この前の乱射未遂のナルシストさんの鼻を殴って折ってしまったみたいに?」
「着ぐるみ大鋏男も車道に放り出してあわや大事故でしたね」
「命に別状ないし、あれで解決したんやからええやろ。ナルシストの兄さん、あのままやったら二挺拳銃でトリガーハッピー、アドレナリンマシマシで血の花火上げとったで。着ぐるみ男も別の意味で大惨事や」
 グスターヴァスとマーガレットは顔を見合わせた。
「ああ、言うとくけど、俺は刺された側やからな。流石に心臓は無事やけど」
「典さんほどの方でも刺されてしまうんですか」
 怖いですね……とマーガレットは眉を八の字にする。今度はグスターヴァスと典が顔を見合わせた。
「まあ、典さんの刃物遍歴は置いておくとして、目撃者がいないのは痛いですね」
「なんや、刃物遍歴て。被害歴言うてや。せやな……本人、生きとってくれるとええんやけど」
「そうですね……心配です」
 なお、典は貴重な証人が無事ならもうけもの、くらいの感覚だが、マーガレットは心の底から被害者の無事を祈っている。
「それと、ここの枝が折れてるんですよ、ほら……」
 と、グスターヴァスが自分の頭の高さにある枝に触れようとすると、
「あっ、駄目です、触らないでください。毒があります」
 マーガレットが制した。グスターヴァスは慌てて手を引っ込める。
「あ、そうやったぐっさん。表のプレートに書いてあったで。触るとかぶれるんやと。その辺にあるの」
「先に言ってくださいよ……! それでここは関係者以外立ち入り不可なんですね。しかし、被害者は一般人です。何故こんなところで?」
「そら、一個しかないやろ」
 典は前髪を掻き上げる。
「やったのがスタッフちゅうことやろ。あ、ぐっさん。足元にあるのも、なんかあかんやつやで」
「ひえっ」
「ええと、それは棘が刺さると猛烈な痛みと腫れが……」
「スタッフオンリーってそう言うことですか……」
 グスターヴァスが体を竦めながら震えていると、マーガレットも周囲の植物をまじまじと見た。
「確かに、これだけ毒性植物がある温室ですから、簡単に一般人の方が入れてしまうのはおかしいですね。わたしも、危険な薬物は金庫に保管しています。ここには死亡するほどの毒がある子はいませんけど、アナフィラキシーというのもありますし、酷い痛みやかぶれになることは間違いありませんから」
「俺は薬やら植物やらは素人やけど、触ったらアウトな植物のあるところのセキュリティは万全にするっちゅうのは想像つくわ」
「あ、待ってください」
 マーガレットが目を瞬かせた。折れた枝を指差して、
「この枝の折れ方は、振り払って折ったものだと思います。被害者さんの手やお顔にかぶれはありましたか?」
「いえ、特に聞いていませんね。つまり……」
「手か顔かしらんけど、犯人にはかぶれやそれに準ずる症状が出てるっちゅうことやな。ぐっさん、スタッフの足止めどうなっとんの?」
「確認します」
 グスターヴァスはインカムで、スタッフ対応の警察官に連絡を入れた。その間に、典は折れた枝をしげしげと眺め、
「植物は、言葉は言わんな」
「そうですね」
「けど、何も言わんからと言って、されるがままっちゅうわけでも、ないんよなぁ……人間はそう言うこと忘れがちやね。文句言わんかったら合意やとか、よう言うわ。まあ、タダで済ませてやるつもりはないけど」
 最後は独り言のようになりながら、首を横に振る。その言葉を聞いて、マーガレットは、典にも毒や棘に相当するものがあるのだろうか……などと考えている。そんな、悪い人や怖い人には見えないのだけれど……。
「スタッフ、全員園内に留めています。話も聞けますよ。今のところ、目立って皮膚炎がある人はいないようです」
「ほぉ……すぐに薬でも塗ったんやろか」
「どう、なのでしょうか。薬を塗ったなら、その跡を警察の方が見つけてくれそうな気もしますし」
 首を傾げながら、三人は温室を出た。

●聴取
 スタッフへの聞き取りをしようと別室へ向かう道すがら、グスターヴァスに連絡が入った。「わかりました」と言って通信を終えると、振り返った二人に説明する。
「凶器に指紋はなかったのことです。最初から手袋をしていたようですね」
「ほぉ……ほんだら、手にかぶれがないのは納得や。多分、厚手の手袋やったんやろな」
「制服はつば付きのキャップでしたから、上から垂れ下がっている枝は当たりにくいでしょうし……」
「ですが、帽子や手袋から植物の一部が見つかる可能性も。提出をお願いしましょう」

 それから、スタッフへの聞き取りが始まった。一部のスタッフは清楚で可憐なマーガレットに鼻の下を伸ばしたりどぎまぎしたりしながら、別の一部は典の美貌に目をハートマークにしながら、それ以外は、明るい室内でも目に一切光が入らないグスターヴァスに恐怖を感じているように質問に答えた。
 客を入れたらまずいだけであって、あの温室にはスタッフなら誰でも入れるらしい。担当者はいるそうだが、別にその許可もいらないのだそうだ。また、被害者は見たことがないとのこと。有益な情報は得られそうになかった。
「なるほど。お話ありがとうございました。ところで、皆さんの制帽と手袋を提出していただきたいのですが……」

●マーガレットの気づき
 スタッフの制帽と手袋からは、いずれも件の植物は検出されなかったと報告があった。グスターヴァスたちは、提供された資料を持って一度警察署に戻る。
「マーガレットさん、ご覧になりますか?」
「あ、はい。じゃあちょっとこちらの資料を……」
 しばらく、マーガレットは不思議そうな顔で勤務表と担当区域の表を見ていた。その様子を見て、典が薄く笑みを浮かべる。
「マーガレット嬢さん、何か気になるん?」
「ええと、何か引っかかっているんですが……それがなんだかわからなくて」
「それは大変。一旦休憩にしましょう。適度な休憩は必要です」
「そうやな。ぐっさんの奢りで一つ頼むわ」
「仕方ないですねぇ」
 警察署の近くにある喫茶店に、三人で入る。それぞれが注文を済ませる。店員たちは皆、白っぽい色のエプロンをつけていた。
「喫茶店で白いエプロン……勇気あるわぁ……」
 典が小さな声で呟いた。
「勇気あると言えば、あの温室の担当者も結構勇気いりそうですよね。他にゴーグルかなんかの装備、あるんでしょうかね」
「どうやろ。それか、あの枝が届かん程度の身長の人しか担当になれんとか、そう言うことやろかね」
 やがて、頼んでいた飲み物が運ばれてきた。マーガレットは礼を述べながら、店員のエプロンを凝視してしまう。
「あの……その染みは……」
 指摘された店員は、恥ずかしそうに、今朝溢したコーヒーだと思う、不快にさせて申し訳ないと言う様なことを述べて去って行った。
「どうしはったん? 嬢さん?」
 典がゆっくりと聞いた。マーガレットは目を瞬かせる。
「グスターヴァスさん」
「何でしょうか?」
「スタッフさんの制服の鑑定結果、見せていただけませんか?」

●真相
「お呼び立てして申し訳ありません」
 グスターヴァスが詫びた。件の温室を担当しているスタッフは、人気のない熱帯植物コーナーに呼び出されて困惑しているようだった。制帽も手袋も提出したのに、まだ何か? と。何も出なかったのでは? と。
「はい。何も出ませんでした。それがおかしいのです」
 典が朗らかに言う。説明するときだけ標準語になる。マーガレットが鑑定結果を見せた。
「これは、この熱帯植物エリアのスタッフさんの鑑定結果です。土や、微量の植物組織が不着していました。こちらは別のお花畑エリア担当者さんの結果。こちらも、花粉や土などが付着しています。お手入れの時に付着したものと思われます。」
「そして、これがあなたの制帽と手袋の結果」
 典がもう一枚の紙を見せた。マーガレットが相手を見つめる。
「何も出ませんでした。何もです。花粉や土どころか、埃すら。これは新品ですね?」
 相手は目を逸らす。典がうっすらと笑い、
「何故新品を提出する必要があったのか。新品でないものには、あのかぶれる植物の枝、被害者の血が付着しているから。違いますか?」
 相手はわなわなと震え始めた。やがて、据わった目をマーガレットに向けて、床を蹴る。
「ワンパターンやわぁ」
 呆れたように典が前に出た。両手を前に出す相手の胸倉を掴んで、一本背負いを決める。マーガレットは両手を口元に当てて、驚いたように目を瞬かせた。警棒を振り上げていたグスターヴァスも。
「私の出番が……」
「警棒で蛸殴りする出番なんて、ない方がええで」
 手をはたきながら典が面白くもなさそうに肩を竦めた。待機していた警察官によって、そのスタッフは連行された。マーガレットへの暴行未遂もあるが、その場で犯行を認めたのだ。

●エピローグ
「いやぁ、今回も無事解決できましたね」
 その後の調べで証拠も出た。被害者も意識を取り戻し証言。共犯の影もなし。喫茶店にマーガレットを呼び出したグスターヴァスがその後の顛末を話して聞かせた。典も一緒だ。奢りと聞こえるところに来る男である。
「ほんま、悪いことはできひんなぁ……四知っちゅうやつや」
「何ですか、それ」
「ええと、中国の故事ですよね」
 首を傾げるグスターヴァスに、マーガレットが答え合わせするように言う。
「賄賂を渡されるとき、誰も見てないから、と言われても、天が知っていて、地が知っていて、自分が知っていて、人……あなたが知っている、という。誰も見てないことなどない、ということですね。悪事は露見すると」
「天が知っとる、地が知っとる、自分は勿論。せやけど、自分らのこと取り囲んどった草木っちゅうたくさんの目撃者がおったんよなぁ。その目撃者誤魔化そう思うてボロが出よった。人も目ぇ覚ましたし。詰みやな」
「マーガレットさん、詳しいですね」
「ええと、漢方について調べている内に、中国古典に触れる機会がありまして」
「ほほう」
「あ、そうだ。今度お二人のご都合がよろしければ、薬草園に行きませんか? 前から興味のあるところがあって……」
 楽しげに話すマーガレット、興味深げに聞くグスターヴァス、背もたれに寄りかかってコーヒーを飲む典。
 誰が見ても穏やかな席。午前の陽光がテーブルを照らした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
ほとんど趣味に走った様な内容でしたがいかがだったでしょうか(震え声)。
実はこれの前に一本書いたんですが、漢方ネタで正確なところがわからなくて泣く泣くボツにしたネタもあり、そちらはマーガレットさんが犯人でした(地味な怪盗さんみたいな感じでした)(植物園も完全に想像ではありますが)。
マーガレットさんは、知識と閃きの専門職が似合いそうだなって思いました。
典さんは捕まえるとなったら容赦しないと思っています。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月17日

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