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『つよきもの 1』
白鳥・瑞科8402

 どう近付いて来たのか、それすら謎のまま。
 ただ、気が付いた時に目の前に居たのは――修道女とは名ばかりの、化物。
 いや、修道女ですら有り得ない。
 よくよく見ればキリスト教の修道女の着る修道服――をベースにした様な服装ではあるのだろうが、こんな服を着た修道女など居て堪るか。
 寧ろ殆ど、裸体だ。
 良くてレオタードか水着か何か。
 その位に薄手の、体にぴったりと張り付く様な布地の、形ばかりの修道服をこの化物は纏っている。

 ……化物だ。

 化物でしか有り得ない。
 とは言え、特別化物染みた体格と言う訳でも無い。そういう意味では充分過ぎる程に普通の人間の範疇。
 見た目だけを言うならぞっとする程に見目麗しい女。整った顔立ちに、出る所はこれでもかとばかりに出たグラマラスな女らしい肢体。腰は――コルセットででも締めているのかもしれない。それにしても細過ぎる。豊かな部分がより強調される様なその風体。それでいて、手はロンググローブ、脚はロングブーツで固められており、ヴェールの下から豊かな茶の髪がゆらりと靡いてもいる。そして、微笑みを湛えたままこちらを冷たく見据えて来る青の瞳。
 何処かその筋の水商売の店から派遣されて来たボンデージの女王様と思っても、然程間違いとは感じない。

 ただ。

 その化物の手には、模造品でも何でもない、本物の刃を備えた凶器たる剣が握られている。
 その刃からは既に血が滴っている。
 部下は既に殲滅された。
 瞬く間の事だった。
 ……妙に色っぺぇシスターが一人来た。
 そう報せを受けたのは――つい今し方だった筈だ。
 なのに、その報せを呑み込んだか呑み込まないか――の段階で、気が付けばこの有様だ。
 もうここには俺しか居ない。
 もう声も碌に出ない。
 動けない。
 気が遠くなりかかっている。
 ……失血で。

「今更かもしれませんが。一応確認致しますわ。本当に貴方で間違いはありませんのよね?」

 ……我らが「教会」の協力組織を数多潰し、「教会」の武装審問官を何人も帰らぬ人とした、“強者である筈の”敵対者。
 そんな風に俺が行って来た所業を一つ一つ論いつつ、化物はこちらの反応を見ている様だった。
 何処か、期待外れだったとでも言いたげな気配。
 剣先で俺の顎が無理矢理上向かせられる。
 反撃の一つすら碌に出来はしなかった。
 こんな真似をして来たのが見た目通りのただの女――いや、ただのとまでは行かずともこの化物以外の「教会」の女だったなら、弄ぶだけ弄ぶのも容易かったと確信出来る。
 なのに、今。
 この規格外の化物は、何なんだ。
 ……他の奴らは殺し尽くされたのに何故、俺だけまだ生きているのだろう。

「間違いは無さそうですわね。にしてもまぁ、骨のありませんこと。どれだけお強いのかと期待して参りましたのに」
「…っう」

 呻いた途端、顎を持ち上げていた当の剣が閃き、横っ面を叩かれる様に――削り斬られる。
 これだけの技量があれば一撃で斬り裂き絶命させる事も容易いだろうに、この化物はそうしない。
 こんな削られ方が何度か続き、何処かの時点で既に生死不可逆の境は越えているのもわかっている。もう肉体再生も追い付かない――出血で何処か頭が朦朧としている。腕も取れていたかもしれない。……最早それだけの事すらまともに認識出来ない。

「そろそろ犠牲になった皆さんへの仕返し位には痛め付けられましたかしら。では――覚悟は宜しくて?」

 向けられたのは、女の艶やかな笑顔と剣先。
 その時点で、今置かれている状況も忘れて息を呑む。

 まるで夢を見ているかの様な。
 こんな女に殺される夢を見るなら、それもまた幸せかもしれないと、つい、理性の外で認識する。

 が。
 途端。

 全ての意識が断絶した。

 斬り裂かれた訳でもない。
 視界もまた唐突に消えた。
 頭上から押し潰される様な凄まじい圧力が掛かった様な気が、した。

 多分それが最後で。
 夢も幸せも何も感じる余裕は無く。

 最期に浮かんだのは、ただ、疑問。
 ……今自分に何が起きたのだろう。



 白鳥瑞科(8402)は息を吐く。

 最期の瞬間。何やらわたくしに“女”を感じていた気配がありましたので、斬るのを止めて重力弾で押し潰す事に致しましたけれど――もし少しでも喜ばせてしまっていたならそれは不覚ですわ。愚か者さんは愚か者さんらしく完膚無きまでに蹂躙して差し上げなければなりませんのに。

 クスリと小さく笑いつつ、瑞科は剣の血振りをする。それだけで剣の光は元の通りに戻る。
 では、次に参りましょう。

 今宵の任務は――少々、盛り沢山と言えますものね。



 受領した任務の細かい内容は――特に述べるまでも無い。
 ただ人類に仇為す“悪”を殲滅する。個人であろうと組織であろうと、魑魅魍魎であろうと変わらずに。そんな「教会」の教義のままに、白鳥瑞科はただ動く。
「教会」が何なのかとか、そんな些細な事は余人は気にする必要も無い。
 太古の昔より密かに人類の安寧の為だけに動く世界的な秘密組織、ただそれだけなのだから。

 白鳥瑞科は任務を受けると準備に入る。専用の部屋に向かいつつ、口ずさむ様に唱えるのは聖句。戦闘の為の修道服に着替えて、武装を整え、それから動く。いつものルーティーン。それで戦意を上げて行く。いや、それが無くとも瑞科にしてみれば「教会」の任務を受けて“悪”を倒すのは心が躍る事に変わりは無いが――まぁ、自分だけの様式に則った方が、ぴしっと気が入りはする。そうやって切り替えるのは気持ちがいいのだ。

 それまで纏っていた物を脱ぎ、まず身に纏うのは「教会」の技術者謹製の耐衝撃性ラバースーツ。薄くぴったりとした光沢のある伸縮性の黒い布地を、つ、と静かに滑らせ起伏に富んだ魅惑的なそのボディラインに伸ばして行く――首から下はそれで覆い尽くす。足先を通し脛から膝、腿へとするすると引き上げて、豊かなヒップ、細く引き締まったウエスト――上半身へと持っていき、両袖を通して、勿論豊かなバストも確りとホールド。……豊か過ぎてホールドし切れる物でもないが、するだけはする。そんな風に瑞科は己が身を少しずつきゅっと締めて行く。
 ラバースーツの次は、コルセット。必然的に胸を強調する形に絞り上げる事になってはしまうが、本来の用途は勿論激しい立ち回りを行う際の、腰回りを守る為の物。戦闘用に軽量の薄いながらも強い特殊な鉄が仕込まれている仕様で、「教会」の技術者謹製の頼れる品である。
 その上に、修道服。
 これまた「教会」の技術者謹製の品で、ボディラインがくっきりと浮き出る程に、薄手で体にぴったりと張り付く色っぽい作りになっている。足捌きの為に腰下まで深いスリットが両脇に入っており、ちょっと歩くだけでも美脚を大きく晒す事にもなる。ああ、はしたない。……とまぁそうは言っても、これもこれでお気に入りではある。何を今更、と言う面もある。
 今更。そう、更に足には太腿に食い込むニーソックスを穿いて締め付けもする。その上には膝まであるロングブーツを重ねて、やっと足許は仕上がる。
 いや、太腿にベルトを括り付け、ナイフを装備もするのだったか。足許の仕上げは、そこまでして漸くだった。
 更に手にはロンググローブをはめて、肩には純白のケープを羽織り、頭にはヴェール。

 最後に剣を装備して。敵対者に化物と言わしめる程の、強者の姿が完成する。


東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月18日

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