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『つよきもの 2』
白鳥・瑞科8402

「教会」の修道女にして、修道女ならざる強き者。
 それが「教会」の武装審問官たる白鳥瑞科(8402)である。

 今宵の任務は、少々、盛り沢山。

 先程一人――とその部下は殲滅したが、今宵の相手はそれだけでは無く。
 実の所、「教会」にとって危険人物とされる――即ち、強者とされる敵対者数名のリストが今の瑞科には渡されていた。別に今夜中に全てをこなせとは言われていない。ただ、瑞科にしか任せられないレベルの相手だとの事で、一纏めに伝えられていた――だけの事である。

 だが。

 所属と所業、「教会」の専門班に調べて貰った想定される現在の所在地を考えると、今夜中に何とかなりそうだと判断。そう判断出来てしまえばもう、瑞科としては然るべく動くしかない訳である。

 amen――自然と“神”への感謝が浮かぶ。

 息をする様に剣を抜き放ち、“神の敵”を屠る事が出来る喜びに身を任せ。



 女性らしい均整の取れたまろやかな歩容が揺らめいている。柔らかく撓む豊かなバストとヒップの膨らみに、深いスリットの合間から覗く美脚が艶やかに歩を進めている。
 ……瑞科である。
 一歩も下がりはしない。その身を襲うべく撃ち放たれた電撃は電撃で誘導、対応した。次の敵は異能的な飛び道具が強力な相手である――それでも瑞科にとって大した問題は無い。
 また雷鳴が轟く。
 その中を、瑞科は恐れ気も無く歩み続ける。
 雷が落ちる。
 横合いから不自然にスパーク、そちらに誘導され、落ちる筈だった場所とは異なる場所を灼く。
 同様の雷撃――電撃の追走が、何度か続く。
 瑞科の歩む先、リストにあった姿が見えた――倒すべき次の敵。
 焦っていると見受けられた。
 その時点で。
 瑞科はその敵対者との間を一気に詰め、剣を大きく振り被る。
 そうされた敵対者の側は、全く反応出来ていない。……まぁ、確かに、この相手は異能特化で、身体能力的には大した事が無かったか。
 思いつつ、一拍置く。……わたくしがここに居ると、ほんの僅かな間だけ認識させる。敵対者の蒼褪める貌。それを認めてから――瑞科は敵対者の首を一気に薙ぎ払う。
 異能系の相手を下手に嬲っては予想もしないややこしい反撃が来る場合もある。だからこそ、“神の使い”が間近に居る事だけを認識させ、可能な限りの恐怖を与えてから一撃で。
 相手の遣り方に付き合う様な慈悲を掛けるつもりは欠片も無い。

「残念でしたわね。神の雷はわたくしに落ちる事はありませんでしてよ?」

 弄う様に口を開いても、もう相手の耳には届かない。
 神の雷が落ちるのは“悪”を懲らしめる為にだけ。
 ですから、わたくしに落ちる筈などありませんわ。

 ……では、次に参りましょう。
 これだけではまだまだ、蹂躙度合いが足りない気がしてしまいますもの。



「貴方が****さんで間違いありませんわね?」

 音も無く背後に降り立ち、ナイフを首筋に突き付けつつ直接訊いて確認を取る。と言っても、声を掛けるまでも無く標的の敵対者はこの相手で間違いは無いと瑞科は確信している――それでも敢えて声を掛けるのは、隙など衝かれる訳が無いと慢心しているだろう相手を弄う為。声を掛けた途端の狼狽した貌はまるで目的通り――プライドを圧し折るには最適である。こちらの隙を窺っている様ではあるが、見出せてはいない。
 と言うか。
 その目が――瑞科の姿自体に反応した。舐める様な視線。はぁ、と軽く内心で溜息が出る。わたくしの容姿は確かに魅力的ですけれど、ここでそちらに目が行くのは致命的でしてよ?
 思いつつ、クスリと悪戯っぽく笑って見せる。

「何処を見てらっしゃいますの?」
「へっ、こっからてめぇをどう料理してやろうと思ってな……」
「あらあら。わたくしお料理されて美味しく頂かれてしまうのかしら――なんて」

 挑発する様に舌なめずりしてみせる相手の首筋に躊躇いなくナイフの先を押し込み、一気に引き裂きつつ瑞科は軽やかにターン。その身の豊かな部分を艶やかに弾ませつつ、弧を描き中空に散る赤を浴びない様、卒無く飛び退く。

「出来もしない夢を見るのは自由ですけれど――滑稽ですわ。もう少し今の御立場を考えてからにした方が宜しくてよ?」

 って、もう聞こえてはおりませんわね――思いつつ、瑞科は首筋をナイフで引き裂いたその男に電撃を放ち灼き尽くす。……ええ。わたくしの容姿をその目で愉しまれて、きっと痺れたのでしょうから?
 この位の対価は頂きませんと割に合いませんわ。ふふ。



 この相手に近付くのは止めた方が良さそうですわね。
 掴まれてしまっては――ああ、大変な事になってしまうかも。なんて。

 でも、こういったマッチョな手合いは――相手の土俵で完膚無きまでに潰して差し上げたくもなりますわよね。わたくしにはそれが出来なくもありませんし――ええ。
 少し遊んで差し上げますか。

 相手にこちらの姿がよくわかる様に、殆ど真正面から躍り掛かる。当然、相手はその力自慢の腕で掴み掛かって来ようとするが、瑞科は当然の様にそれらの腕をあっさりと空かす。掴まれてしまっては大変。となれば勿論掴ませる訳も無い。と言うか、敵に指一本触れさせる事無く勝利するのが瑞科にとっていつもの事であり、元々の矜持でもある。
 こんな場面でわざわざ曲げる必要も無い。
 ……と言うか、単純に触れられたら汚らしいとしか思えない相手でもある。まともに相対してやろうと思った事自体がとんでもない譲歩であり、気紛れだ。
 掴み掛かって来る腕を文字通り剣で薙ぎ払い、斬り飛ばす。かと思えば斬り飛ばした筈のそこから次が生え、同じく掴み掛かって来ようと振るって来る――懲りない方ですわねとそちらも斬り払い、舞う様にして他の部位も次々と斬り刻む。そうする様すら、華麗である。風に遊ぶヴェールや袖や裾の下、伸びやかな手足は眩しく閃き、確かな重量がある豊かな部分は魅惑的に揺らめく。そんな瑞科の剣舞が、敵対者を翻弄する。

 止まった時には、敵対者は血達磨で。
 剣舞を終えた瑞科の方は、少し離れた位置でゆったりと小首を傾げている。

「そろそろ再生も出来なくなりましたかしら?」
「ぎ、ぎざば……」
「あらあら、まだ喋れはしますのね……では、次は喉を潰しておきましょうか」

 言葉と共に、一閃実行。

「ぐが、がご、ごぼ」
「……もう少し往生際を宜しくなさいませんこと? 見苦しいですわよ?」

 次。

「ぁ……が……ぅ」
「まだ生きてらっしゃいますの? そうやって頑張ったって何の意味もありませんのに」

 次。

「……」
「やっと大人しくして下さいましたかしら」

 では、リストの次に向かうとしましょうか。
 まだ後が残っているんですもの。貴方御一人に時間を掛けるのは少々勿体無いですわ。



 こういう場合は重力弾で絨毯爆撃でもするのが一番向きかしら。

 白鳥瑞科でなければ対応出来ない強い敵――それはこれまでに駆除して来た様な個体としての相手だけではなく、そういった用途で駆使される機体や機材も含まれる。
 で、今瑞科の目の前にあるのはそれら機体や機材が収められていると確認出来た倉庫。
 強者との戦い、と言う張り合いめいた意味では残念な相手ではあるが、これもこれで「教会」の任務としては重要な事でもある。

 だからこそ、心を籠めて重力弾の絨毯爆撃を行い、潰し尽くした。
 操縦者の反撃をちょっとだけ期待もしてみたが、それは無かった。


東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月18日

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