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『つよきもの 3』
白鳥・瑞科8402

 これで最後と見ていいかしら。
 脳裏に刻んだ任務対象のリストと照らし合わせつつ、白鳥瑞科(8402)は一人頷く。
 今回渡されていたのは“瑞科でないと対処出来ない”とされた、「教会」の――“神の敵”のリスト。つまりそれだけの強者を瑞科自身の裁量で殲滅する事が求められている任務。それが今宵の任務で――実は別に今夜の内に全部をやれと求められていた訳でも無い任務になる。
 任務を行うペースは、あくまで瑞科の裁量で。それは早いに越した事は無いが、だからと言って今夜中にリストに載っている分全員を、などとは任務を言い渡した方では流石に可能とは思わなかっただろう。
 だが、瑞科はあっさりとそれをやってのけていた。

 重力弾の絨毯爆撃の後。実験体らしい巨獣と、何処からでも百発百中で撃って来るスナイパー、そしてやっぱりよく居る膂力自慢なマッチョタイプの敵対者を続けて殲滅し、瑞科は改めて脳内のリストを確かめていた所。

 ……問題無し。
 どの相手の対処も予定通りに済ませて、滞りなく任務終了。
 幾ら他では“強者”と呼ばれていた相手だとしても、白鳥瑞科に掛かれば何程の事でも無い。
 彼女が動けば、全て容易く殲滅せしめる。
 蹂躙し切れる。
 何もかも。
 簡単に。
 然るべく。
 終わる。

 今宵の場合は相手のリストがある分、余計に達成感がわかりやすく反芻出来る所もあるのが、またいい。

 ――我らが「教会」の協力組織を数多潰し、「教会」の武装審問官を何人も帰らぬ人とした――多くの部下を引き連れた二つ名持ちの半妖。
 ――強力な雷の魔術を駆使し偽りの神の名の元に人々を脅かしていた、詐欺師めいた魔術使い。
 ――影から影を渡り、どれ程の守りがあろうと関係無く――人々の救いを担う重要組織の要人を潰して回っていた信念無き傭兵。そんな忍びの如き体術使い。
 ――人の世界に紛れて潜み、気紛れで人を襲い、喰らい、弄んでいた剛腕の異形。
 ――心霊テロで駆使される量産型の強化機体や銃砲火薬、異能の媒体となる機材。因みにあの倉庫ごとの破壊の後、機体搭乗が無い単体では手応えの欠片も無い様な操縦士の方もきちんと片付けておいてはある。
 ――何処かの研究所が作り出したと思しき人喰いの巨獣。
 ――居場所さえ掴み、距離を詰められさえすれば何程の事も無い、神出鬼没、百発百中とされるスナイパー。
 ――頭の方は大した事が無いが、その持ち得た膂力が危険域である、半魔の暴力装置。

 それらを殲滅し、思う様蹂躙し尽くした今宵。
 瑞科は一つ一つを丁寧に反芻し、己の行った正義をじっくりと味わう。
 そうする事で胸の奥から湧き起こる高揚に身を任せ、まだ見ぬ次の任務に想いを馳せる。

 強者とされる敵対者を潰すのは心地好い。
 そうでなくとも悪を踏み躙るのは心が躍る。
 この感覚が、堪らない。
 これこそが神の恩寵。
 わたくしの求める日常。
 この勝利の味こそが何よりの甘露。

 もっともっとと求める通りに、今宵頂いた任務のリスト。
 ……まぁ、少し我に帰るなら、今回は早く進め過ぎたと見做され、次の任務が後回しにされてしまうかもと言う懸念も無くは無いけれど。
 そんな見当違いの気遣いなど、どうかされませぬ様に。
 わたくしにはもっと沢山の試練を下さいましな。他の者では困難とされる数多の試練を、もっと、もっと。

 ……そう、わたくしでなければ行えない正義がまだまだあるのでしょう?
 わたくし以外の兄弟姉妹では容易く敗北してしまいかねない様な。
 わたくし以外の兄弟姉妹では容易く失敗してしまいかねない様な。
 そんな任務をわたくしに回して下さいましな。
 わたくしなら――絶対に“そんな事”にはなりませんもの。

 そう、敵になどこの身に指一本触れさせぬままに、完璧な勝利を捧げ続けて見せますわ――傲慢? 何がでしょう? ただの事実を述べたまでですわ。わたくしの圧倒的な力を覆せる輩など何処に居ると思いますの? “負ける可能性”なんて今言われて初めてその言葉を認識した感じですわね。勿論、そんな――“負ける”なんて事は有り得ませんわ。それは未来永劫、今後共に変わる事はありません。
 この匂い立つ程に女性らしくも美しく、艶やかな体は、敵に触れさせる為の物ではありませんもの。
 わたくしが美しいのはわたくしが美しくありたいからなだけ。この美しさに素直に触れていい対象は、羊飼いたる吾が兄弟姉妹と、善良な神の子羊達だけですわ。
 無論敵になど決して許しませんし――いえ、そんな決意などするまでもなく、そんな真似が出来る敵が現れる訳がありませんわね。ふふ。

 ですからどうぞ、この神の僕を御遠慮無くお使い下さいませ。
 わたくしなら、何もかもを完璧にこなして差し上げますわ。
 神の御心のままに、幾らでも“悪”を――「教会」の敵を屠ってみせましょう。
 それがわたくしにとって一番の喜びですもの。



 それが、覆される事など有り得ないだろう白鳥瑞科の現実。



 聡明で華麗で美しく、圧倒的な実力まで持ち合わせている才色兼備にして文武両道の白鳥瑞科。
 自信と傲慢に満ち溢れ、苦戦や敗北など全く想像すらした事が無いその心根。
 誰も注進などするだけ無駄であり、必要すら無いとされているのが日常。
 圧倒的に上から見下ろして来る目線であっても、それが白鳥瑞科であるなら許される。
 気紛れの様に振り撒かれる慈愛だけで、神の子羊を天にも上る様な心地にさせる。
 まるで絶対者と言うのが、自他共に認める、彼女の姿。
 即ち、無様に負けてしまう事など、誰からも想像された事は無い。

 だがそれは――実は本当は危うい天秤の上に載せられている話。
 勝者であり続ける事、ただそれだけが大前提の話である。
 そして――勝者であり続ける事に、本当はどんな保証も無い。
 ずっと勝利を重ねて来た者が、次は負けてしまう――なんて事は、何処にでもある話。
 何故、白鳥瑞科だけがその例外であると言い切れるのだろう?

 ……言い切れる筈も無い。本当は、それが現実。
 だが彼女自身も周りも、これまでに重ねられて来た実績が故に、そこに目を瞑る。

 もし、そんな実績が――覆される事など有り得ないと“思い込んでいた現実”が、覆されたなら。
 例えば、魅力である筈のその自信と傲慢が――何かの拍子に油断と慢心にすり替わってしまったとしたなら。
 プライドと自信をズタズタに引き裂かれ、完膚無きまでに無様な敗北を喫してしまったとしたら。

 独特の修道服に包まれたその白い柔肌が露わになってしまう程、滅茶苦茶に汚され、傷付けられ、斬り裂かれ。耐衝撃ラバースーツやコルセットと言った“鎧”すら無意味である程の姿に、サディスティックにボコボコに蹂躙されてしまう事が――あってしまう事だって、有り得ないとは言い切れない。
 これまで敵対者に重ねて来た事が、まるでそのまま返って来る様な事があってしまうかもしれない――いや、見目麗しい女性である分、口に出すのも憚られる様な更に酷な目に遭う可能性の方が高かろう。そうなってしまえば、死ぬより酷い末路を追う事だってあってしまいかねない。
 痛々しくも無様な姿を晒し、嬲られるまま、泣き喘ぎ許しを乞うしかなくなる程の――それでも決して許されないだろう、無間地獄に落ちてしまう事だって、有り得ないとは言い切れない。

 幾ら強者とされる者であっても、須く、平等に。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 白鳥瑞科様にはいつも御世話になっております。
 今回は発注有難う御座いました。
 そしてまたも大変お待たせしております。

 流してしまった分の再度の発注、有難う御座いました。
 今回の内容ですが、大きな一つの流れと言うより、何となくダイジェスト的な流れにさせて頂きました。準備的な描写はそこそこに、戦闘描写をあちこち抓み食いしている様な流れと言うか。
 如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、残り期間も少なくなってしまいましたが、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は……いえ、PL様には別PC様のをお預かりしておりましたね。次はそちらで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月18日

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