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『ドラマ「狼狩りの犬」 第10話「彼が愛したもの(終)」』
桃李la3954


「今度の対象はこの人です」
 グスターヴァス(lz0124)が対象者情報を端末に送る。ヴァージル(lz0103)が顔を上げた。
「臓器密輸の関係者?」
「裁判に出るんですよ。貴重な証人ですから、死なれちゃ困ります」
「先にさっさと証言させておけば良いじゃねぇか」
「そう言う訳にはいかんのですよ」
「めんどくせぇな。おい、桃李。どうしたんだよ」
 いつになく険しい目で端末を凝視する桃李(la3954)へ、ヴァージルが怪訝そうに声をかけた。桃李ははっとしたように顔を上げると、いつもの、腹の読めない笑みを浮かべる。
「ん? 何でもないよ。顔をよーく覚えておかないといけないから、ね?」
「仕事熱心だな、珍しく」
「酷いなぁ、ヴァージルくん。俺はいつだって真面目にお仕事しているじゃないか。ところで、護衛ってやっぱり目立たない方が良いんだよねぇ?」
「まあ、そうですね。今回の場合は、あまりものものしくしない方が良いでしょう。臓器密輸の関係者であることが知られると、市民感情も良くないでしょうし」
「それじゃあさぁ」
 桃李は、あの金を散りばめたような瑠璃色の瞳を細めた。
「俺が一番近いところにいても良いかなぁ?」

「桃李のやつ、なんで今回に限ってあんな張り切ってんだ?」
 転ばぬ先の杖って言うからね、俺は準備を始めるよ。そう言って去って行った桃李を見送って、ヴァージルは首を傾げた。グスターヴァスも怪訝そうにして、
「普段の仕事がいい加減だとかやる気がないだとかは思いませんが……確かに妙ですね」
「……目は口ほどに物を言うよなぁ。あいつの昔って洗ってんの?」
「ええ。ですが、前の暗殺組織に所属した辺りまでしか追えませんでした」
「……」
 ヴァージルは頬杖を突くと、パソコンに向き直った。
「学会に問い合わせてみる」
「お願いします」


 桃李は小刀の手入れをしていた。顔が映るほどに研ぎ、磨き上げられた刀身。そこに、自分の顔が歪んで映っている。満点の星空にも似た瞳も。目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、自分と瓜二つの女性の顔。紫紺色に金が散りばめられたような、不思議な瞳。ずっと見ていても飽きなかった。鏡映しの顔で、そこだけが違っていた。
 目を開けて、小刀を鞘に納める。決して殺させるわけにはいかない。
 桃李に「証言」するまでは。

 そして、当日。桃李はあらかじめ特定されていた暗殺者の車を見つけた。ここを護衛対象が通る。運転席の窓をノックすると、窓を開けたところに拳を叩き込んで気絶させた。代わりに自分が車に乗り込む。そして、本来なら気絶させた男がやるはずだったこと……すなわち、護衛対象の車を襲撃、拉致したのだった。


「そんなに苛々しないでくれるかい? 怒りたいのはこっちなんだからさ」
 廃屋の地下室に対象を連れて行った桃李は、縛り上げた格好のまま、相手を床に転がした。
「臓器密輸関係って言うと、皆腎臓とかを想像するけど、目も臓器なんだよね」
 保険証や運転免許証の裏側にある臓器提供意思欄。そこには「眼球」も含まれている。
「数年前、金を散りばめたような紫紺色と瑠璃色の瞳の入手に躍起になってなかったかなぁ?」
 そう言って、桃李がゆっくりと前髪を掻き上げ、その瞳を見せつけるように告げると、相手は桃李が何者か察したらしい。
「その目は今どこにあるのかな?」
 小刀を抜く。
「証言は、目がなくてもできるよね? 口を動かすだけだからさ」
 実際、写真や面通しもあるだろうが。相手は怯えながらも、自分は何も知らないと言い張った。
「いやいや、こっちは、君が眼球目的で、特殊な目をした双子の引き取りを人に依頼したことを知ってるんだよ。ネタは上がってる、という訳さ。答えてくれないかな」
 刀身を相手の額に近づける。向こうは喚いた。知らない、手に入らなかった。死んだ姉貴の目も!
「嘘を……」
「桃李さん、そこまでです」
 聞き慣れた声が響いた。桃李がそちらを見ると、スーツを着たグスターヴァスが革靴を鳴らしてこちらに向かってくる。ああ、桃李が下手に動けば撃つだろう。隠し持った銃を意識している歩き方だ。
「調べました。数年前の事件。お姉様のご遺体には両目が残っていたそうです。身寄りがもうなかったので、今は大病院に標本として保管されています。両目とも」
 桃李は小刀を持ったまま、グスターヴァスを見る。心なしか、その瞳に散らばる金色が鋭い光を放っているように見えた。彼の感情に呼応するかのように。
「失敗したんです、犯人は」
 お前の家族は無駄死にだってことだよ。護衛対象が言う。桃李は小刀を持つ手に力を込めた。
「死に無駄も有益もありません」
 グスターヴァスが鋭い声で叱責する。
「尊い命が失われ、遺された者の悲しみしか生み出さない。その死に価値をつけるのは人ではありません。恥を知りなさい」
 相手は笑った。桃李はしばらくその顔を見下ろしていたが、やがて小刀を下ろし、グスターヴァスの方を向く。
「邪魔してごめんね、グスターヴァスくん。裁判所に連れて行こう」


 裁判の結審から数日後、件の臓器密売関係者が事故死したという知らせが、グスターヴァスたちの元に入った。
「怖いですねぇ」
「因果応報って奴だろ」
 ヴァージルも珍しくグスターヴァスの言う事に噛み付かない。桃李は、二人が自分に対して何も言わないことを意外に思う。
「二人とも、俺のこと疑ってないんだね?」
「お前の手口じゃねぇだろ」
「そうですよ。桃李さんの手段はもうちょっと地味ですから」
「俺のことなんだと思ってるの?」
「今のこの仕事して、殺人疑われるなんて評価下がるだけだから素直に喜んどけよ。大体、お前の姉貴殺した奴はちょっと前に獄中死してる。お前が殺したい奴はもうこの世にいないだろ」
「……」
 桃李はちらりとヴァージルを見た。ヴァージルは視線に気付いて、
「何だよ」
「何でもないよ。ヴァージルくんはお人好しだなぁと思っただけさ」
「んだとコラ」
「はいはい、喧嘩しない……あ、ちょっとごめんなさい」
 仲裁に入ろうとしたグスターヴァスの端末が鳴った。
「お前の過去もわかんねぇけど、あいつの過去もさっぱりだよなぁ」
「そうなのかい?」
 この時、桃李は思っていなかった。
 自分が撃たれることになるなんて……。

●劇場版予告
「桃李さん、クリスマスに旅行行きませんか?」
「どうしたんだい? 突然。何しに行くの?」
「そりゃもちろん」
(にっこり笑うグスターヴァス)
「狼狩りですよ」
(ナレーション:クリスマスの観光地で暗殺阻止!?)
(二人の荷物を持ったヴァージルが息切れしながら歩いている)
「お前ら! 荷物くらい自分で……」
(ヴァージルに飛びかかる桃李)
「持っ……」
(銃声。さっきまでヴァージルがいたところに弾痕)
「どうやら、あちらは邪魔者から排除したいみたいだね?」
(ナレーション:狙われた狼狩りたちの運命やいかに!?)
(銃声の後、桃李の胸で何かが飛び散る。慌てて駆け寄るグスターヴァス。スローモーション)
「桃李さん!」

──劇場版「狼狩りの犬」今冬公開。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
先日の、ドラマじゃない方のノベルでご発注頂いたお話と絡めてみたりなどしたのですがいかがだったでしょうか。最終回あるあるな感じで。
臓器ってそんな簡単に保管しようってなるのかはわかりませんが……フィクションということで一つ。
劇場版予告は、ありそうな感じを寄せ集めてみました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月20日

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