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『幸せな未来』
瀧澤・直生8946)&天霧・凛(8952)

 瀧澤・直生(8946)と天霧・凛(8952)の二人の時間は、少しだけ進んだ。
 直生の固定休である毎週木曜日の前日には、凛が食材を持って泊りに来ることが当たり前となった。
 以前は失敗ばかりであった凛の料理の腕は、確実に上がっている。
 それも直生が根気よく付き合い、彼女にきちんと基本から教え込んだ結果だ。

「直生さん、ご飯出来ましたよ」
「ん、今行く」

 エプロン姿の凛が、リビングのソファでくつろいでいる直生を呼んだ。
 ゆったりとテレビを見ていたらしい直生は、少々眠そうにしてゆらりと立ち上がる。
 彼の勤め先は花屋だが、今日はいつになく忙しかったらしく、配達と接客で大変だったそうだ。

「夏野菜のカレーと、ポテトサラダと、冷たいスープにしてみました」
「うまそう。匂いでカレーだってわかってたけど、やっぱ夏野菜はいいよな。スープの具はオクラとジュンサイか?」
「はい、今日はどちらも安く売ってたので」
「……俺の未来の嫁さんはしっかりものでいいな」

 ダイニングテーブルの上に並べられた夕食を見て、直生は感心しつつまずは凛へと歩み寄った。
 そうして、独り言のようにしてそう告げると、彼女を抱き寄せて髪に唇を寄せる。

「す、直生さん。まずはご飯です」
「そうだな。実はすっげぇ腹減ってたんだ」

 直生の言葉を受けて、凛は彼には解らないようにして頬を薄桃色に染めた。
 そうしてそれを誤魔化すようにして、彼に夕食をすすめて、自分も席に着く。
 食卓を囲む毎週水曜の夜は、いつの間にか当たり前の光景となっていた。

(……未来の、お嫁さん……)

 互いに『いただきます』を告げた後、カレーのスプーンを手にしたところで、凛はうっすらと言葉で呟いた。
 もちろん、今までであっても考えてこなかったことは無い。
 いずれはそうなれば良い、くらいの感情ではあったが、この先もいつまでも直生と共にありたいという気持ちは揺らぎはないのだ。

「んまい。いいな、俺辛めのカレー好き」
「良かった……今日の出来は、なかなかだと思ってたんです」

 向かい側に座る直生の、嬉しそうな表情が大好きだ。
 そんな彼の感想を受け止めつつ、凛もカレーを口に運んだ。
 夏野菜のカレーは、直生が褒めてくれたとおりの、美味だった。

「…………」

 カレーを美味しそうに頬張る凛の姿を、直生は自分の前髪の隙間からチラリと窺っていた。
 自然を装いそれとなく、自分の感情を彼女にぶつけてはみたが、急いでいるわけではない。
 ただ、自分の中では『凛』という存在がすでに大半を占めているので、今更手放すつもりも無いし、別れなども考えられない。
 軽い喧嘩などもたまにはするが、それは互いに感情があるからだ。
 そうしたことを繰り返して、相手を理解して、月日を重ねていく。

 直生はこれまで一度も、誰かを深く愛したことなどなかった。
 上辺だけの付き合いならいくらでもあったが、自分の部屋に他人を入れることも、ましてや泊まらせることなどもしてきたことはない。
 自分の時間と空間をきちんと作り、保っているからこそ、誰かに邪魔されるのが嫌だったのだ。
 凛と出会い、想いを自覚して深い関係になってからは、その意識が少しだけ緩いものとなっていた。
 だがそれも、凛に対してだけだ。

 気づけば、彼女の私物がいくつか部屋に置かれるようになった。
 最初は、料理の本であったか。
 それ以外にもいくつか趣味の本や、アクセサリーを入れる為の小物入れ、お揃いの日用品など。
 たまに服を忘れていったりするので、彼女専用のコンパクトな衣服入れなども直生が用意してやった。
 毎週が楽しみで、愛おしくて。
 木曜の終わりには彼女を帰したくなくなってしまうほどだ。

(収入も安定してきてるし、近いうちには……ちゃんと話してぇな)

 遠くない未来のことを、最近はよく考える。
 彼女もそうであると思いながらも、まだ躊躇う気持ちももちろんある。
 だが、いずれは。
 そんな事を考えつつ、直生は凛の手料理を味わう為に、深い思考を一旦は手放すのだった。



「なぁ、凛。明日どこにいく?」
「どこでも良い……は困りますよね。えっと、実は観たい映画があるんです」
「んじゃぁさ、水族館が隣にあるトコにしよーぜ。品川の。映画見て、ついでに水族館ってのもデートっぽくていいだろ」
「はい! 楽しみです」

 食事を終え、片づけを済ませた後は、交代でシャワーを浴びた。
 そうして冷えたビールを片手に、ソファに二人で腰掛ける。
 バラエティー番組を見て、二人で笑い合い、明日の予定などを組み立てていく。
 限られた時間を、一瞬を、互いに大事に思いながら過ごしていくのだ。

「凛。これからもずっとこうしていけるといいな」
「……はい。私も、同じ気持ちです」

 直生と凛は、そんな言葉を交わした後、身を寄せ合った。
 自然と重なる唇の温もりに心を跳ねさせながらも、受け入れる。
 想い合うからこそ。
 どちらともなくそんな言葉が浮かんでくる。

 二人はこの先もずっと、こうして共にあり、優しい時間を積み重ねて過ごしていくのだ。
 互いを愛する限りは、ずっと。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ライターの涼月です。この度はありがとうございました。
お二人に出会えて、こうして素敵な関係性を書かせて頂けて、本当に幸せでした。
ありがとうございました。
楽しんで頂けますと幸いです。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2020年08月21日

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