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『動き、をちょうだい』
海原・みなも1252

●依頼
 草間・武彦(NPCA001)は興信所に来た依頼人を追い返すことはできなかった。
 怪奇の話題なため避けたいが、内容や状況から断ることにつながらなかった。
 安堵した依頼人と入れ違いに海原・みなも(1252)がやってくる。
 みなもはすれ違った人物がじっと見ていたので、挨拶を丁寧にしておいた。相手は慌てて非礼をわび立ち去る。
「こんばんは、草間さん」
「微妙なタイミングで来たなぁ」
 武彦は椅子に寄りかかる。たばこを取り出すと、火をつける。
 受け取った依頼書と基礎情報の書類が机の上にある。
「どうかしたんです? これから出かけるのにお邪魔しましたか?」
 みなもはなんとなく寄っただけなので、帰ることは問題ない。
 武彦は少し、たばこを吹かした。
「依頼人の娘さん……お前さんのところの生徒らしいなぁ。入り口の状況……制服に反応していた」
 武彦は分析をしていたようだ。
「依頼は聞いちゃ駄目ですよね?」
 みなもはおずおずと問う。
「うーん? いや、状況の確認に同性がいた方がいいが……」
 武彦はたばこをくわえながらつぶやいている。
「あたしでよろしければ手伝いますよ」
「危険があるかもしれないぞ?」
「草間さんもいますし」
 みなもの真っ直ぐな視線に、武彦は苦笑してたばこの火を灰皿に押しつけた。
 武彦は考えた末に状況を話した。
「人形になっていく、んですか……」
 みなもはゴクリとつばを飲み込んだ。
 関節が球状になっているタイプの人形で、若干動くことは可能だという。
 みなもはその少女の助けになるように、武彦の手伝いをする。

●人形
 依頼人の家に到着した。
 日本家屋の屋敷だ。
 外廊下を通り、みなもと武彦は一室に案内される。庭に面している部屋だが、夜であるため障子が閉まっている。
 しばらく待つと、先程みなもがすれ違った依頼人が現れた。
「被害者がお嬢さんということで、この子もつきあってもらうことにした」
 武彦の説明に、相手はうなずく。
「草間さん、何か分かりましたか」
 依頼人は突然問う。
「俺は探偵であって、拝み屋じゃない」
「……そ、そうですよね」
 相手は残念そうにする。
 話を聞きながらみなもは失礼にならない程度に周りを見ていた。
(霊力とか魔力とか……そういう物が関わっているんでしょうか?)
 みなもは「霊力や魔力って何でしょう?」と内心つぶやく。みなも自身、南方の人魚の末裔とはいえ、そういった物が分かるようで分からなかった。
 不思議なことや異界に関わっても霊力や魔力を意識していない。
(人形になるというのも何かあるからですよね?)
 霊力や魔力があるとしても、結局は理由があり、根源を突き止めないとそれは解決しないだろう。
(魔法は万能じゃないという話もありますからそれですよね)
 物語で見た気もするが、結局そういうことだとみなもは思った。
 さて、依頼人と武彦の話は進む。
 経緯は次のようなものだった。
 二週間ほど前、体がだるくなり、関節とかの動きが変わったという。痛みがあるわけではないため、二日ほど様子見て病院に掛かった。レントゲンを撮るが、特におかしくはないため、塗り薬をもらって終わる。
 この時点では関節に異常は見られなかったのだ。
 徐々に動きづらくなり、関節も外から触っても分かるような球状になる。病院に頼れる内容ではないのため、つてを頼り、武彦に行き着いたという。その間にも状況は進み、等身大の人形に見える状態になった。
 しかし、人形と違うのは、多少動くことはできるというのだ。
 瞬きもするし、しゃべれもする。垂直に立って長時間歩いたり、複雑な動作はできないという。
 本人はふさぎ込み、泣いているという。しかし、涙は出ない。
 話を聞いた後、みなもと武彦は二手に分れる。
 武彦は怪しいモノがないか屋敷を探索し、みなもが本人に会い話を聞くことになる。
 平行することで少しでも時間短縮となるはずだ。

●うらやまし
 みなもが入ると、少女は無表情に椅子に座っていた。
(あれ? なんか落胆されたような? いらっとされたような?)
 みなもは気のせいだと考え、挨拶をした。
 相手は淡々と応じてくれる。
 経緯を確認すると、先程聞いたことと同じことだった。
「霊能者の探偵が来たというから楽しみにしていたのに」
 少女から本音が漏れる。
「草間さんは探偵ですよ。でも、草間さんは頼りになりますし、きっと解決してくれます」
 少女はみなもの言葉に黙った。そのあと、どちらも声を発しない。
 みなもは少女に声を掛けることができない。慰めを言うのもおかしいからだ。
 時計の針が進む音だけが響く。
「なんで私が」
「それは……」
「……なんで、私がこんな目に遭うの! ただ、いつも通り蔵に入って見ていただけなのよ」
 少女は憤りをみなもは黙って聞く。
「それなのにっ!」
「落ち着いて下さい! 今、解決するために調査しているんです」
 なだめるが、少女は近くにあったぬいぐるみをみなもに投げつけた。
「きゃ」
 みなもは至近距離でぶつけられ逃げられなかった。
 冷静になったらしく、少女は申し訳ないというような動きをした。
「……いつも見ている、人形があるのよ」
「え?」
「それがね、突然、動けるお前がうらやましいって、言ったような気がしたの」
 みなもは慌てた。
 大変重要な証言だ。少女がこれまで言わなかったのは誰も信じないと思ったからだろう。
「草間さんに言ってきますね」
 みなもは部屋から出ようとした。その人形について伝える必要がある。
「うらやましい、ってよく分かった。この格好は動けるけど、違うもの」
 少女はみなもに答えず、つぶやいている。みなもは思わず足を止めた。
 ひやりとした風が部屋に入ってきたようだった。
『誰でもいいんだいよ』
「この子をあげる!」
 少女は突然言った。
 みなもは動けなかった。
(え? 誰か、何かが言いませんでした? この子、元に戻っている……?)
 得体の知れない声が聞こえた後、少女の姿は人間に戻っていた。
 一方でみなもは何かに覆い被さられたような気がした。
 少女は自分の手を見て、顔を触り、鏡を見た。そして「パパ、戻ったわ!」と父親の所に走る。
 みなもは驚きの声を出そうとしたが声が出ないし、追いかけようとしても足が動かなかった。
 ガラスに映った自分の姿を見た。
 完全に人形になっている。
 背後に人形が見えたが、人間のような動きだ。
『お前の動くという力はもらうよ』
 うまく動かせず、みなもは反論ができなかった。
 徐々に成った少女と異なり、突然の変化でみなもは動けない。
 武彦が慌ててやってきた。
「やられたか」
 うなだれる。みなもは「油断した自分が悪い」というようなことを言おうとしたが声に出なかった。
「すまない……。目星はついた。事務所に一旦行こう」
 武彦に抱えられ、みなもは移動する。
 娘は喜ぶが、依頼人の父親は素直に喜べていない様子だった。

 興信所のソファにみなもは座る。
「めぼし?」
 単語をなんとか発する。
「ああ、人形が一体消えている」
「うごく、ちから」
 みなもの言葉を聞き取った後、武彦は少し考え、うなずいた。
「なるほど。分かった。それを捕まえる」
 武彦は出かける。

 それからしばらくして、みなもは戻ることはできた。
 人形は入り込む魂を抜くため、粉砕されたのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 動けるとしても、動けないのかなとか色々ぐるぐる考えました。
 何にせよ、怖いのは変わりないですね。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月24日

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