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『色を増す影(3)』
白鳥・瑞科8402

 落雷の如き鋭い電撃が、敵を射抜く。
 悪魔の気配が強くなるに連れ周囲にある邪気も濃くなり、闇に導かれるように数多の魑魅魍魎が白鳥・瑞科(8402)の行く手を遮っていた。
 しかし、所詮は烏合の衆。瑞科の歩みを、刹那も止める事すら叶わない。
「低級悪魔であるあなた様達に、用はありませんわ」
 瑞科の放った電撃が、再び数体の悪魔を滅した。大量の悪魔に囲まれようと、瑞科の走る速度が落ちる事はない。
 ピッタリと彼女の肌に張り付いている薄地の修道服越しに、殺気が瑞科の美しい肌をなぞる。世界に災厄をもたらす程強大な力を持つ、闇を操る悪魔の拠点はもう目と鼻の先のようだった。
「あれは……」
 不意に、聖女の眉がしかめられた。
 悪魔の襲撃を受けたのか、地面に倒れ苦しげに呻いている人影が、瑞科の澄んだ青色の瞳に映る。
 彼女の気配に気付き、人影は助けを求めるように瑞科に向かい力なく手を伸ばしてきた。
 走る速度をゆるめ、聖女はその影の元へと歩いていく。じっと相手を見下ろし、瑞科は優しげな笑みを浮かべた。聖女らしい、慈愛に満ちた美しい笑みだ。
 だが、彼女の手が倒れている人物に向かって差し伸べられる事はなかった。
 代わりに、聖女の手が握ったのはナイフだ。目にも留まらぬ速さで太腿に携えていたナイフを取り出した彼女は、容赦もなくその武器を相手に向けて振るう。
 血しぶきの花が咲く。けれど、その花の色は鮮血ではなく、濁った黒に染まっていた。
「人の姿を真似たところで、悪魔の醜い気配は隠せませんわ。このわたくしを騙そうとした無謀さを、痛みの中で悔やんでくださいませ」
 人に化けていた悪魔は、憎々しげに瑞科を睨む。まさに化けの皮が剥がれ、悪魔の姿は見る見る内にその内面を表しているかのような醜く恐ろしい姿へを変わっていった。
 一瞬にして、辺りの景色が切り替わる。電気のスイッチをオフにしたかのように、突然周囲から光という光が消え失せた。
 完全なる闇。悪魔達にとって、何よりも本領を発揮出来る恐怖の世界。
 悪魔は周囲の闇を操り、瑞科を完全なる暗闇の世界へと閉じ込めてしまった。
 圧倒的に悪魔にとって有利な状況だというのに、それでも瑞科が浮かべるのは、笑みだ。くすくす、と楽しげに笑いながら、聖女は剣を構え直す。
「良いですわ。これくらいのハンデがなくては、面白くありませんもの」
 まず闇を切り裂いたのは、悪魔の怒声だった。挑発するかのように微笑む瑞科に、容赦のない一撃が襲いかかる。
 その身体すら闇で出来ているのか、悪魔は自在に自身の形を変える事が出来るようだった。この悪魔にとっては、自信の身体全身が極上の凶器なのだ。
 鎌のような形になった悪魔の腕が、瑞科の柔肌を狙う。
「残念でしたわね。わたくしはこちらですわ」
 しかし、悪魔が鎌を振るったそこに、すでに瑞科の姿はなかった。華麗に攻撃を避けてみせた瑞科は、いつの間にか悪魔の背後へと回っている。
「あら、ぼんやりしているお時間はありまして? そちらが攻撃をなさらないなら、わたくしの方から攻撃させていただきますわね」
 驚きのあまり言葉を失っていた悪魔に向かい、瑞科は笑声と共に重力弾を放つ。
 聖女が同時に操れる重力弾の数は、一発だけではない。やろうと思えば、数え切れぬ程の量を敵にぶつける事が出来るだろう。
 それを実行に移さないのは、ただ単純につまらないからだ。下劣な悪魔には、相応の報いを受けてもらわなくてはならない。
 跳躍する瑞科の動きに合わせ、修道服のスリットが翻り彼女の美脚を空気が撫でた。
 悪魔の反撃を、瑞科はまた事もなげに避けてみせる。豊満な胸の奥で、聖女は自身の心臓が愉悦し高鳴るのを感じた。
「逃げようとしても無駄ですわ。あなた様の動きなんて、手に取るように分かりますもの」
 攻撃の軌道から相手の位置を瞬時に把握し、瑞科は悪魔との距離を一気に詰める。
 再び、剣が暗闇の中に綺麗な軌跡を描いた。闇を斬る音に、悪魔の怒声まじりの悲鳴が重なる。
 たった一人の聖女が、一方的に悪魔を蹂躙する光景がそこには広がっていた。
 だが、これは人に化けて瑞科を騙そうとした悪しき者への、罰であり裁きだ。神聖なる戦闘シスターである瑞科が、人々の平穏を脅かす悪魔に慈悲を与えるわけがない。
 圧倒的な武力と知性を、瑞科は悪魔へと叩きつけていく。悪魔にとっては有利なはずのこの暗闇であったとしても、瑞科には敵わないという事実を、敵はようやく悟るのであった。


東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月24日

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