▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Summer, and the next』
文室 優人la3778)&霜月 愁la0034


「海だーー!」

 歓声を上げながら一直線に駆けていく友人──文室 優人(la3778)の姿に、霜月 愁(la0034)は小さく笑いながら後を追いかける。2人ともすっかり水着になって、海でびしょ濡れになる準備は万端だ。
 ざぶざぶと膝まで海へ入っていった優人は振り返り、走ってくる愁の姿ににやり。追いつくタイミングで思い切り海水を飛ばす。
「わぁっ」
「へへ、気持ちいいだろ?」
 柔らかな砂地で急に止まることもできず、モロに水を被った愁はあっという間にびしょ濡れで。やったなとジト目で見るなり彼も海へ飛び込み、優人へとやり返す。
「お返しっ」
「うわっ」
 頭から海水を被ると、口の中に入ったのかしょっぱい味がする。けれどこれも、すぐさまカラカラに乾かしてしまいそうな太陽の日差しさえも夏らしい。やってやり返しての水遊びにはいつしか笑顔があふれる。暑いから海の中で座り、肩まで浸かってしまえばなんと気持ちの良い事か。
「口の中しょっぱいな」
「僕も」
 お互いに掛け合ったのだから当然なのだけれど、そんなこともおかしくて。一度水分補給をしようかと海から出て、砂浜へ足跡を残しながら2人はシートに重しとして載せていた荷物へ手を伸ばした。
「あ、愁。このあとあそこまで行ってみないか?」
 ペットボトルに口をつけながら愁が視線を巡らせれば、優人は沖の方に見える広めの──浮き島とでも言うのだろうか? そこを指し示していた。近いという距離ではないが、さりとて疲れて泳げなくなってしまう程遠くもない。適度な運動になりそうだと頷きかけた愁へ、提案した優人自身が待ったをかけた。
「どうしたの?」
「折角だから競争してみないか?」
 競争? と愁が首を傾げると優人が大きく頷く。競争と言うからには勝敗が決するものであり、勝者は次の遊ぶ機会に何処へ行くか選択権を得るという内容だ。
 遊びに来たばかりなのにもう次の話か、と思う者もいるかもしれない。けれど愁は勝っても負けても次の約束ができる事に一も二もなく頷いた。
「でも、優人相手だとあっという間に負けそうじゃない?」
「ん? 俺泳ぎを習ったわけじゃないから、そこそこだと思うぜ」
 そうなのか、と優人の顔を愁はまじまじと見た。武術を修める彼だから泳げないことはないと思うが──いや、武術を修めるためにその他の習い事などはしていなかったのかもしれない。そう考えると、そこそこ泳げる愁の方が有利なのだろうか。
(いや、それは……)
 ないかなと愁は心の中で小さく呟く。そもそもの体つきが違うのだ、習ったことが無いと言っても優人ならば力強く水を掻けそうである。
 2人は同じ位置に並び、示し合わせて海へ飛び込む。最初の内は愁の方が明らかにスムーズだったが、中盤に行かないくらいの位置から水に慣れてきたのか優人が追い上げてきた。追いつかれるか、逃げ切るか。頭の中ではそんなことを考えながらも体は前へ前へと進んでいく。
 ふと息継ぎの合間に互いに視線が合って、目元で笑い合って。そうして先に辿り着いたのは──。

「ゴール!」

 腕を突き上げる優人。僅差で辿り着いた愁は髪をかき上げながら苦笑を漏らす。ああ、負けてしまった、と。そんな感情もこんな遊びも『日常』らしくて、改めて彼という友人の存在が有難く感じる。
 ただ、ほんの少し──優人と浴衣を着て、夏祭りに行ってみたかったとは思ったけれど。
「それじゃあ、次は優人が行きたい場所だね」
「ああ! じゃあさ、」
 瞳を輝かせる優人の言葉を遮るように、突如響く音が鳴る。揃って目を丸くした2人だが、すぐ優人が恥ずかしそうに苦笑した。
「……ゴメン、俺だ」
 水の中からでも存在を主張する腹の虫だったらしい。愁はきょとんと優人を見つめたあと、思わずと言ったようにくすくす笑い出す。そして気まずそうな優人へ「先に昼ご飯、食べようか」と提案したのだった。

 再び泳いで戻り、海の家へ向かった2人。夏というシーズンもあって大盛況だが、どうにか2人分の席を確保すると掲げられているボードのメニューを眺める。
「愁はどうする?」
「僕は何でも。分け合って食べようよ」
 それいいな、と優人は頷いていくつかのメニューを愁へ示す。嫌いなものはないので大丈夫と愁が頷くと、優人は手を上げて手際よく注文した。勿論、2人分の取り皿も忘れずに。
 丁度混み時なのか、海の方は人がまばらだ。対して扇風機も回っているというのに海の家は驚くほど熱気がこもっている。
「サウナみたいだね」
「だな。海は涼しくて気持ちよかった……」
 あっちがいいなあ、と優人の視線が海へ向いている間にも注文していた料理が運ばれてくる。並ぶ海の幸や地元名物に優人の興味はすぐさまそちらへ戻り、きらりと瞳を輝かせた。料理の取り方はまちまちで、優人は一品をがっつりと取る一方、愁は数品を少しずつ取っていく。胃のキャパシティを考えれば同じようには食べられないけれど、同じ空間で同じものを食べているのは一緒だ。美味しいものを食べて嬉しそうな優人の表情を見ながら、愁は「そういえば」と話を切り出す。
「さっきの続き。次はどこへ行きたいの?」
 ちょうど料理を口にしたばかりだった優人はそれを呑み込むその口から零れたのは──奇しくも、愁が行きたいと思っていた場所と同じで。
「夏に遊びに行くっつったら海か花火大会だろ? どっちにするか迷ってたんだよな!」
「なら……浴衣で行ってみない?」
 そう提案すると、にこにこと笑っていた優人は勿論と力強く頷く。その返事にほっとして、愁は嬉しそうに笑った。
 料理は途中から優人が食べ、最後にはかき氷のデザートまで「良い?」と聞いて注文する。愁も冷たさを求めてほんの少し食べたけれど、そのほとんどは優人の胃の中だ。故に、愁が「割り勘だね」とさも当然にお金を取り出した時には動揺してしまう。
 待ってくれ。どう考えたって俺の方が食べた量は多いだろう。どこも平等じゃないぞ。
 量を食べた分お金も払わせてほしかったのだが、そこは愁もやんわりとだが譲らない。食べた量だけで言えば確かに平等でないかもしれないが、そこに付随する楽しさも含めれば平等だ。
「こういうの、分かち合ってるなって思うんだ」
「うーん……ま、愁が満足ならいいか!」
 気後れ気味だった優人も、愁の表情を見れば否やとは言えない。愁が満足そうな顔をできる時間であったのならば、確かに価値があったのだろうから。
(俺も自然体でいられるし、な)
「ありがとう」
 その礼は何に対してのものか。愁とて心が読める訳ではないからわからないけれど、「こちらこそありがとう」と微笑みと共に返す。

 平凡で特別感のない──されど特別な1日は、まだ終わらない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 お待たせいたしました。夏のひとときをお届けいたします。
 ゲーム内でもOMCでもご縁を頂きとても嬉しいです。イメージに沿えていたら良いのですが、毎回ドキドキしています。
 気になる点などございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。
 この度はご発注、ありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
秋雨 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.