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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン3 第6話「メメント・モリ」』
柞原 典la3876


 その日の任務は、保安官事務所との協働だった。ヴァージル(lz0103)の前の職場だ。カーキ色から黒の制服に変わった元同僚のライセンサーを見て、保安官代理たちはニヤニヤしながら挨拶する。ヴァージルも満更ではない。
 その様子を、現在の相方である柞原 典(la3876)はしげしげと眺めていた。
「ナイトメアとの真っ向勝負は俺たちに任せてくれ。その代わり、一般人の捕縛、保護は頼みたい。パニック起こした人間抱えながら戦うと流石に死ぬ」
 お前はそんなこと考えなくて良い、美人の相方と仲良くな。元同僚たちに言われて、ヴァージルは苦笑した。当然典も聞いている。ヴァージルの肩をポンと叩いた。

 保安官事務所との密な連携で、事件は無事解決した。挨拶してくると言ったヴァージルがいつまで経っても戻ってこない。典は様子を見に行った。どうせ、おしゃべりに夢中なのだろう。
「そんなんじゃねぇって!」
 笑いながら否定しているヴァージルの声がする。
「じゃあ、俺戻るわ。あんまり待たせると典怒るから」
「誰が怒るって?」
「おっと」
 典が声を掛けると、ヴァージルは更に笑った。


「そう言えば」
 ヴァージルが運転する車の助手席で、典は機嫌の良い相方の横顔を見た。
「適正あったからライセンサーになった言うだけど、保安官事務所は何で勤めとったの?」
「珍しいな、お前が俺のこと聞くなんて」
「嬉しそうやな、俺に構われて」
 典だって自分の変化に戸惑いがないわけではない。他人に興味がなかったのに、ライセンサーになった理由ならともかく、その前の、今はもう就いていない職業について尋ねるなんて。
 その変化をヴァージル本人に茶化されるのは、「はんがい」と思うこともあるが、典は答えを待った。
「何か決心があったとかじゃなくて、治安維持に貢献しようと思っただけだよ」
「『治安維持に貢献しようと』思った『だけ』?」
 典は思わず問い返してしまった。
「はぁー……ほんまお人好しやな……ミノバト並に珍しい」
「お前、俺のこと鳩にするの好きだな。鳩は珍しくないだろ」
「ミノバトはただの鳩ちゃうよ? 絶滅が危ぶまれとる」
「詳しいな」
「前の営業先でそういうのの保護に募金とかしとった人がおってん」
 絶滅危惧種やそれに準ずるものについて、雑談と称して熱く語られたことがあった。典も話のネタとして少々調べたものだ。
 それは置いておくとして、
「ふーん……ガラ悪いけど顔良いし仕事も真面目、世話焼きでモテそうやのに、何で恋人おらへんの?」
「見合いの仲介人みてぇなことを言うなよ。縁がないんじゃねぇの? 車と違って欲しいから手元に誰かってわけにもいかねぇだろ、相手にも人生と好みがあるんだから」
 あまりにも真っ当な返事に目眩がしそうになった。
「ほぉ……そうなんか……」
「お前こそどうなんだよ。電話で呼んでる名前が毎回違うようなんだが?」
「そうやったかな……」
 典の方は、割り切った付き合いこそあれ、「恋人」と呼べる相手はゼロである。とは言う物の、相手の方が割り切れなくなってたまに刃傷沙汰になる。
 来るもの拒まず去る者追わず。典の方は相手も人数もよく覚えていない。興味がない。
「恋人出来るとええな……俺より美人の」
 そう言って、にこー……っと口角を上げると、ヴァージル困った様に笑い、
「よせやい」
 恋人と呼べる相手と付き合う未来については満更でもなさそうだ。典より美人、という点でハードルを上げたつもりなのだが、それについてはあまり響いていないらしい。
「つっても、保安官代理もそうだけど、いつ死ぬかわかんねぇからな、この仕事」
「そうやな。まあ、それ言うたら安全な仕事なんて世の中ないで。仕事内容関わらず、いつ何に巻き込まれて死ぬかわからんもん」
 それこそ、SALFが到着する前にナイトメアに襲われて死ぬ可能性はあるし、営業に行く社用車に横からダンプカーが突っ込んで死ぬかもしれない。配達のためにバイクで走っていたら警官と犯罪者の撃ち合いに巻き込まれて流れ弾に当たって死ぬかもしれない。
「メメント・モリだな」
「死を想えっちゅうやつな」
「ああ」
 ヴァージルは頷いてから、
「保安官時代に世話になったことのあるライセンサーが戦死してるから、尚更。ライセンサーになったからって安心も慢心もしねぇ。ああ、彼も日本人だったな。お前とは違う意味で口が達者だったよ」
「ほお、おもろいライセンサーがおったんやねぇ。その人とも刑務所走ったの?」
「いや……」


「もしもし本部? 現在一般人を連れて移動中。どうぞ」
「俺が一般人だって?」
 ナイトメア騒ぎの現場で、ヴァージルを連れて歩く弓道着のライセンサーの通信内容に、思わず苦言を呈する。保安官代理が一般人ってどう言うことだ。
「ごめんって。ライセンサーじゃない人のことは全員一般人って呼んでるんだよ」
「本物の一般人に幻滅される」
「できないことできるって言い張って死んで、状況悪化させるのとどっちが良い? 君が立ち向かうべきは人類が定めた法律を違反する人類だよ。僕たちがナイトメア相手に奔走している間に、店主が避難した店のレジからドル札掴んで逃げていく奴をとっ捕まえてくれ」
「わかったよ」
 できないことがあると年下から言われるのは正直癪に障ったが、事実でもある。自分の職務にナイトメアの駆除は入っていない。
「そう言うことだから、安全なポイントに着いたら避難誘導を頼む。その制服、君が思ってるより効力あるからね」
「知ってるよ」


「それから、その地域に出たナイトメアを追って何回か来てたんだけど、返り討ちに遭ったらしくて……」
 捕食されてしまったそうで、遺体も残らなかったらしい。遺族の元に帰ったのは、血で変色した袴の切れ端だけだったと言う。
「捕食なぁ」
「可哀想に」
「あのな、兄さん」
「なんだよ」
「あー、いや、何でもない」
 典は笑って誤魔化した。


「あ」
 その青年は、パーカーのフードを目深に被って顔を隠していた。隠して正解だったと言える。今しがた、彼の脇を通り過ぎた車の運転手は、青年の顔をよく知っている筈だから。
「あれがヴァージルかぁ」
 青年は……地蔵坂 千紘(lz0095)というライセンサーを捕食して擬態しているエルゴマンサーは、青年の記憶を取り込んでいる。記憶の中のヴァージルと、今車を運転していたヴァージルは、着ているものが違う。保安官事務所に勤めていたという記憶があるが……。
「ていうか誰だよその男」
 隣に乗っていた、美しい銀髪の男。一瞬通り掛かっただけでもよくわかる整った顔立ち。ヴァージルに対して随分と親しげな表情を見せていたような。
「えー、何だろう、面白くないけど面白いなぁ」
 青年は笑う。

 車が見えなくなってから、彼は横断歩道を渡ってどこかへ消えて行った。


 典が言おうとして言わなかったこと。

 その人、もしかしたら再会するかもしれへんで。
 エルゴマンサーとして。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
アドリブのせいで典さんがどんどん鳩に詳しい人になってしまう。ヴァージルが鳩みたいな顔するからなんですけど(責任転嫁)。
シーズン4どうなるんだろう……と、今から楽しみです(書き手)。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年08月28日

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