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『戦闘シスターは今日も華麗に舞い踊る・上』
白鳥・瑞科8402

 街中に出れば、自然と人々の視線が絡みつく。日本人ながら目鼻立ちがはっきりした顔貌は控えめにいっても整っていて、女優やアイドルといった美貌を売り物にしている人達もかくやという一目で虜にするくらいの美しさを誇っていた。そして、それは顔面に留まらずきめ細やかな肌、歩くたびに陽光を浴び波のように天使の輪をえがく茶色がかった艶やかな長髪、服の上からも隠せない凹凸がくっきり浮かび上がった肉体と人々の目を集める要素はいくらでも存在する。只例外があるとすれば子供だろう。年端もいかないような小さな子供は純粋に自分のことを慕ってくれる。と、そんなことを考えていたからか前方から走ってきた男の子が勢いを殺さず振り返った為真正面にいる自分とぶつかった。背は高くも低くもないが、肉感的な肢体の内側には、繊細な動きを再現する筋肉が綺麗についているのだ。当然子供は弾かれて歩道に尻餅をつく。膝をついて、その子の頭を撫でた。
「痛いの痛いの飛んでいけ――ですわ。ごめんあそばせ。……わたくしがもっとちゃんと見ていれば、貴方に怪我させることもありませんでしたのに。わたくしにも治療をする力があればよかったのですけど」
 恐らく最後の言葉の意味はその子供ではなくとも誰にも解らなかっただろう。殆どは一人で前に出る役割の自分にはその系統の能力は無縁なせいか、或いは単に適性がなかったのか怪我を瞬時に治すといった芸当は出来ない。頭を撫でながら身体の具合を観察し病院に連れていく必要はなさそうだと確認する。笑顔を浮かべて大丈夫だと繰り返し男の子に囁いていると次第に落ち着いて笑顔に変わっていく。その様子を見て心底安堵する。直後立ち上がろうとするので、手を貸して引っ張り、もう一度謝った。彼は首を振って軽く笑ってみせる。その逞しさを見て自身もつい微笑み返した。この子のような子供達が当たり前に幸せに生きられる日々を自分が守る――その事実を胸に、
「きちんと、前を見るようにするのですよ」
 彼の身の安全を守るためにそう忠告して、はーいと元気な返事が返ってくるのに鷹揚に頷くと手を振る男の子に己も振り返し、その小さな背中が見えなくなるまで見送る。心中が温かくなるのを感じながら、自らもまた足取りを進め、男女問わずに突き刺さってくる目を受け流し視線の網を掻い潜って裏路地に抜けた。実のところ、見られる行為自体嫌いではなかったが、目が合うだけで気があると勘違いされるのは不快で、無視をしても食い下がってくるのは鬱陶しく感じる。後を尾けられている心配もないと一つの建物の前で、特殊な手順を踏むと錠が外れ、足を踏み入れたのは正しく教会だ――但し歴史の闇に飲み込まれまいと密かに建てられたそれと同種。多分単に自分達の組織に因んだ建物だから。ゆっくり歩を進め祭壇に跪き、静かに祈るとふと背後で何者かが足音を立てて歩み寄ってくるのが聞こえ、振り向かず待てば粛々と啓示のように任務内容が伝えられる。その声は妙にくぐもり男か女か判別し難い。
「――拝領致します。今回もわたくしにおまかせくだされば、何も心配は要りませんわ。人類に仇なす敵を必ずや駆逐してみせましょう」
 そう応じるも背後の人物は僅かに不安を覗かせる。まるで見くびっているようで、目を見開き眦を上げた。腕を下ろし立ち上がりはしたが振り返りはせずに努めて静かな声音で言い返す。
「わたくしの今までの戦績をご存知ないのかしら? 数が多かろうとも雑魚は雑魚。わたくしの敵ではありません。疑うならここで試してみても宜しくてよ?」
 喜劇でも見たような口調で返せば背後の人物はそれ以上何も言わず、恐れをなしたように、用件は済んだと足早に去っていく。気配が完全に消失したのを確認し、振り返り呟いた。
「わたくしを誰と思っているのかしら」
 秘密組織という立場上、所属する者同士であっても身分や名前を明かさないことは重要だ。一つの国どころか世界的に多大な影響を及ぼす組織といえど快く思わない集団、敵対勢力等、隙を見せたら噛み付いてくる者は多い。伝令役ならば教会で随一の強さを誇る自分のことは知っている筈だが――白鳥・瑞科(8402)は呆れを隠さず溜め息をつく。何はともあれ任務は任務。悪の打倒は自身の天職であり現状に不満はない。
「今回の任務も楽しみですわ」
 ぽってりした唇が弧を描く。瑞科にとって敵を倒すこととは死と隣り合わせではなく、うっとりして期待に胸を膨らませるものだった。艶やかな長い髪を翻してその場を立ち去る。今回の敵は悪魔。徹底的に殲滅せしめんと熱く燃え上がった。

 迅速な対処が必要だと手筈を整えるのに時間はかからず望んだ瞬間はもう目の前に迫っている。瑞科は己の住居の最奥に設置した任務を受けたときのみ入る部屋の中、クローゼット内の服を一つ一つ確かめ、その細い指で自ら選び取った。一先ず下着姿になって鏡の前に立てば、市販の下着が合わない出るところは出て腰などはきゅっと引き締まる身体が露わになる。男を魅了し、女は嫉妬させる――いや同性すら目が釘付けになるかもしれない。熟れた果実のような胸は今にも下着から零れ出そうになっている。
 太腿に食い込まんばかりのぴっちりしたニーソックスを穿いて、その肉感的な脚に黒のプリーツスカートを通す。きゅっと引き締まったお尻をなぞって腰にぴたと嵌まったそれは非常に短いもので靴下とスカートの間に素肌を覗かせ、美脚をより強調していた。大胆にも晒された脚には染みはおろか、傷一つない。またプリーツスカートには装飾が施されていて、無駄なく美しい脚を見事に引き立てていた。上着は長袖かつ最先端の素材を使用し、強度を保証してある。然し乍ら生地自体は薄く、ボディラインがくっきり浮き出る為下着を着けていたら、そこも綺麗に出てしまう。なので、下着は脱ぎ、地肌に直接纏う。豊満ながら形崩れを知らない乳房は瑞科が中に巻き込んだ髪を後ろ手に掻き上げる仕草に合わせてぷるんとしなり、軽い痛みを訴えた後元に戻る。上着には教会に所属する武装審問官であることを示す意匠が刻まれていて、その上に通常の長さより短めのマントを羽織り、更に鉄製の肩当てを上に被せて留める。肩当てにも既製品では有り得ない程のきめ細やかな紋様が施され、その華やかな容姿やお嬢様然とした丁寧な口調にもマッチする美麗なものとなっていた。膝の高さまである白の編み上げロングブーツを履いて終わり、ではなく最後にガーターベルトを括り付け、ソックスを留めると同時に左右両方にナイフを仕込んだ。それでもどうとでもなるが、万全の状態で挑むのが己の流儀だ。只本来は得意武器である剣を選択するのに、瑞科は今回長杖を選んだ。自身の背丈よりもあるその武器は取り回しがし易く、軽量ながら威力は落ちない逸品だ。チアリーダーのバトンのように瑞科は姿見の正面でくるくる回してみせる。しなやかで可憐なその動きに合わせ胸が揺れた。
「……あら」
 興が乗って距離感を見失ってしまったらしく、長杖の先をスカートに引っ掛けて、下着に覆われた臀部が露わになった。一人でこほんと咳払いし長杖を後ろ手にもう片方の手でそれを隠すと瑞科は気を取り直して優雅に微笑む。
「では参ります」
 そう自分に声をかけて気持ちを切り替えると、瑞科は任務へと赴く。堂々とした顔の下に期待と興奮を入り混じらせて。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
今回は二話連続での話ということで前回のときには
字数の関係で書くのが難しかった優しい瑞科さんも
書けたりして、とても楽しかったです。相変わらず
艶っぽい描写が出来ているか疑わしいところですが、
わたしなりに精一杯に魅力を表現したつもりですね。
前回もそうでしたが、教会の任務受領の仕組み等は
完全に捏造になりますが祈るシチュエーションとか
少しはシスターっぽさのある場面が書けて満足です。
また、瑞科さんの美貌は日本人的価値観でのものに
しましたがイメージと違っていたら申し訳ないです。
後編も近いうちにあげるので宜しくお願い致します!
今回も本当にありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
りや クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年08月31日

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