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『運命と覚悟』
桜憐りるかka3748

 辺境地域は場所によって寒暖の差が激しい。
 北に行けば雪が降る事も多い場所であるが、南は比較的過ごしやすい。過酷な環境だからこそ、辺境部族として生きる者は皆強く逞しい。
 そんな文化が異なる諸部族を一つの国家として束ねようとしているのが、部族会議の重要な役割である。
「おや。りるかさん、今日はとてもご機嫌ですね」
 部族会議首長補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、窓際でほお杖をついて外を見つめる桜憐りるか(ka3748)の姿を目にした。
 後ろ姿からでも分かる。
 りるかが外を見ながら楽しげに鼻歌を歌っていたからだ。
「あ……ヴェルナーさん」
 声をかけられて慌てて振り返るりるか。
 自然と出ていた鼻歌を聴かれていると知って、少々気恥ずかしくなる。
「何か良い事がありましたか?」
 ヴェルナーは手にしていたトレーに載っていた紅茶のポットとカップをテーブルの上に置いた。
 実はりるかが部族会議の本部を訪れる予定は数日前から分かっていた。名目こそハンターとして依頼報告する為だったのだが、りるかがヴェルナーと会うのは数週間ぶりとなっていた。
「あ、久し振りに……ヴェルナーさんと、お話、できるから……」
 りるかは言葉を確かめながら呟くと、カップが置かれていたテーブルの椅子に座る。
 ヴェルナーは多忙の日々を極めている。部族会議首長が戦の最中に倒れた事は、辺境部族の間で大きな衝撃となった。後任の首長を早急に決定する必要があるが、それ以上に大きな問題は『部族会議の正当性』であった。
「すいません。部族会議の今後が決まる大事な時期でしたので、どうしても私が外せなかったのです」
 ヴェルナーは言い訳を口にした。
 その理由はりるかもよく知っている。
 部族会議がこれまで一定の指示を受けていたのは、大部族の族長が首長を務めていたからの他ならない。その状況だったからこそ、部族会議に従う事を決めた部族も少なくない。
 だが、その首長が倒れ、歪虚も邪神が消えた今――その役割を終えたという見方が部族間で発生していた。
「知って、います。ハンターも、部族会議を続ける為に、力を貸してます、から」
 りるかはハンターの中に部族会議存続に動く者達がいる事を知っていた。
 元々部族会議は対歪虚組織であるものの、行く末は他国と肩を並べる国家を建設する事であった。それは部族会議創設を宣言した戦士が掲げた目標であり、その想いを受け継ぐハンター達が多数いる事も有名である。
 そして、当のりるかもヴェルナーの為として裏で部族会議関連の依頼を多く受けていた。自分自身が部族会議に何が貢献できるか分からないが、少しでもヴェルナーの助けになればと考えて動いている。
「どうですか、ヴェルナーさん。部族会議は……」
 りるかの言葉を聞いて、ヴェルナーは口にしていたカップをソーサーの上に置いた。
 その表情は決して明るい物ではない。
「今はまだ平穏です。ですが、既に事態は動いています。ハンターを始め、多くの協力者が支援を申し出てくれていますが……」
 ヴェルナーは言葉を濁す。
 おそらく各部族共に様子見をしている状況なのだ。
 各部族には各部族の掟や意志決定がある。そもそも対歪虚という異常事態下で生き残る為に掟を破ったに過ぎず、本来は部族間の交流を禁じている部族も少なくない。今、中規模の部族でも部族会議から身を退けば、多数の部族が雪崩式に部族会議を離れる可能性もある。そうなれば、部族会議の存続から危ぶまれる事になるだろう。
「ヴェルナーさん」
「大丈夫です。皆さんが力を貸してくれています。私も含め、各部族への説得や次期大首長の選出に準備を急いでいますから。
 それにしても……不思議なものですね」
「…………?」
 りるかが首を傾げる横で、ヴェルナーはそっと微笑んだ。
 先程までと違う、少しだけ自然な笑顔。
 いつものヴェルナーがようやくりるかの前で顔を覗かせる。
 りるかはヴェルナーの話に乗ってみる事にした。
「不思議?」
「私は帝国のノアーラ・クンタウを預かる立場の軍人です。この辺境に赴任してからは辺境部族へ恭順を促していたのですよ。それが、今や辺境部族を国家へ昇格させようとしているのです。この運命は、本当に不思議で、とっても奇妙です」
 不思議で奇妙。
 この数年をヴェルナーはそう表現した。
 この言い回しに、りるかの心は少しだけ痛みを覚えた。
「ヴェルナーさん」
「りるかさん、何か……?」
 言い掛けたヴェルナー。
 りるかの雰囲気が変わった事に気付いた。
 りるかは己の想いを言葉に変える。
「不思議じゃ、ないです。この数年の……出会いが、別れが……この未来を……作ったんです。決して……不思議でも……奇妙でもない、です」
 運命などではない。
 ヴェルナーが出会った人々がいたからこそ、この未来を迎えられた。それは用意された未来でも、神の配剤でもない。ヴェルナーが、そして関わった人々が選んだからこそ、今があるのだ。
「気分を害されたようならお詫び致します。失礼しました」
「いえ……。ただ、部族会議を助けてくれる人が、いる……それは、辺境とヴェルナーさんが出会ってきた人達が……いたからこそ、です。それを……忘れないで、ください」
 りるかはなるべく悟られないように繕った。
 りるか個人にしても、ヴェルナーとの出会いを『不思議』で片付けられては堪らない。
 もっと言えば、『出会うのが運命だった』と既定路線のように言いたく無い。
 これから何が起ころうとも、りるかはヴェルナーと共に歩むと決めている。それを運命という抽象的な言葉でまとめられているようで嫌なのだ。
 その決意は、りるかにとって一種の『覚悟』なのだから。
「そうですね。肝に銘じておきます」
「ヴェルナーさん。この後は、どうされます……?」
「スコール族の居留地へ向かいます。大部族との交渉を……」
 ヴェルナーはそこで言葉を止めた。
 りるかの表情を見て何かを察したのだろう。
 軽く頷くとりるかにそっと手を差し伸べた。
「りるかさん、一緒に来ていただけますか?」
「…………!」
 りるかは少し驚いた素振りを見せるが、大きく息を吐き出すと差し出された手に右手を乗せた。
 満足そうなヴェルナー。
「必要でしたら、ハンターズソサエティへ依頼をかけさせていただきますが?」
 悪戯っぽく微笑むヴェルナー。
 それに対してりるかは、敢えて力強く言い切った。
「不要、です。ヴェルナーさんが行くなら、勝手についていくだけです、から」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
近藤豊でございます。
ファナティックブラッド最終日の発注ありがとうございました。
OMCとしてもゲームはこれで終了となります。今までの発注も含めて、本当に感謝でございます。
何か機会があれば当方も何処かでキャラクターを描くかもしれませんが、それまでは一旦筆を置かせていただきます。

今までの応援、ありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2020年08月31日

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