▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夢は泳いで波に去る』
桃簾la0911)&磐堂 瑛士la2663


 太陽が眩しい。
 磐堂 瑛士(la2663)は、暑さのために浮かぶ額の汗を拭って、息を吐いた。軒先に吊るしている風鈴が、わずかな風で揺れて、ちりんと涼しげな音を立てる。音が涼しいからと言って、実際に気温が下がるわけでもない。抜けるような青空は、それこそ「夏」のアイコンであって、寒色とされる色でありながらも暑さの象徴であった。
「瑛士、準備できましたよ」
 桃簾(la0911)が声を掛けた。振り返って瑛士は目を剥く。
(あれ……これは……裸エプロン……!?)
 ミニ丈キャミワンピースで夏仕様の桃簾。露出が苦手な彼女としては大変に珍しい格好である。その上から、肩部分の紐がしっかりしたエプロンを着ると、見る角度によっては裸エプロンの様に見えなくもない。そして、瑛士の角度からはそう見えた。
(瑛士、食事にしますか? 入浴にしますか? それとも……)
 そんな、新婚の妄想。
「瑛士?」
 桃簾が不思議そうに声を掛ける。
「どこを見ているのですか? わたくしを見てください」
「えっ! 桃ちゃん、それって……」
「人と話すときは、相手の顔を見るものですよ」
 ですよね。
 そこで我に返った瑛士は、
「じゃあ、俺厨房手伝うから、桃ちゃんは接客をお願い」
「わかりました」
「よろしくね」
 二人を含めたライセンサーたちは、この日海の家の手伝いを依頼として請け負っていた。料理が不得手な桃簾は接客のみ。瑛士は厨房も手伝うこととなっている。

「休憩中に泳げるって」
 依頼を請けることになった時に、瑛士が告げると、桃簾は少々恥ずかしそうに、
「わたくし、実は泳いだことがないのです」
「そうなの?」
「はい。なので、瑛士、教えてくれますか?」
 首を傾げて上目遣い。これで断れる人類、いる? いやいない(反語)。
「勿論だよ桃ちゃん……! 水着、持って来てね!」
「わかりました」

 そう、瑛士は桃簾の水着を楽しみにしている。仕事も張り切ろうというものだ。厨房に引っ込みがてら、桃簾の後ろ姿をちらりと見た。
 すらりとして姿勢の良い細身。鴇色の長い髪の毛は、ポニーテールに結われている。彼女の若々しさと活力が強調されるような髪型。大体のワンピースがそうであるように、腰のくびれを強調するようなデザインが、体型のメリハリを見せつけた。
 そしてなんと言っても、ミニ丈のスカート部分から伸びる脚。普段露出しない分、日に焼けていない白い脚。大体から膝にかけての、まっすぐのようで、少しの膨らみを持ったライン。同じく細いふくらはぎ、足首──少し出っ張ったくるぶしが、なおさらその細さを意識させている──と続いている。
(あれが、普段桃ちゃんが穿いてるスカートの下……)
 フォスキーアドレスなどで隠れた生足……。
 ごくり。
 思わず生唾を飲んでしまう。
 なお、桃簾の生足に見とれているのは瑛士だけではない。男共は勿論、女性ですら、あの人脚綺麗! ときらきらした賞賛の眼差しを向けている。
 人類を魅了する桃ちゃんのおみ足。
 虜になる人類に納得しながら、瑛士は厨房に入った。
 水着を楽しみにして。


「桃ちゃん、焼きそばできたよ!」
「わかりました。渡しなさい」
「持ってって」
 カウンターの上に焼きそばの皿を乗せると、桃簾がそれをトレーに乗せて客席まで運んでいく。夏の解放感と倫理観の欠如を勘違いした不届き者は、本人が直々にねじ伏せた。
「気安く触らぬよう」
 本来通報案件である。普通に。
「桃ちゃん、良いよ、あっちのテーブル俺が運んどくから」
「わかりました。頼みます」
 流石に、長身の瑛士が給仕に向かうと、酔っ払いたちは大人しい。
 そうやって、客を捌くこと数時間。
 海の時間がやって来た。
「では、わたくしは着替えてきます」
「うん。行ってらっしゃーい」
 瑛士に見送られて、桃簾はロッカーに向かった。
 放浪者たる桃簾の故郷には海がない。なおかつ、深窓の姫君だった彼女、水泳などさせてもらったことは一度もなかったしい。こちらの世界に転移してから、夏はプール、海開きなど、水泳にまつわるイベントがあると聞いて興味津々なのだろう。


「どうしたのですか、瑛士、砂に這いつくばって」
 水着に着替えた桃簾を見た瞬間、瑛士は地面にひれ伏した。今日というこの日に、自分と桃簾の都合を合わせてくれた神様に心から感謝する。
(ビキニ!!!!!!!!!!!!)
 誰!? 誰が桃ちゃんにビキニを教え、ビキニを買わせたの!? ありがとう。ありがとう。ベストコーディネイト賞あげる。
 多くのビキニがそうであるように、桃簾が着用しているものもまた布の面積が少ないものであった。豊かな胸は勿論のこと、肋骨あたりからウェストのくびれ、臍へのなだらかなライン。そして骨盤から腿にかけてのカーブ。もうラインが出てるってレベルじゃなくない? ラインそのものじゃん。最高。
 完璧な造型である。コスプレ映えする抜群のスタイル、とはSALFに登録されている桃簾のプロフィールにも載っているが。コスプレ映えだぁ? 何を甘っちょろいこと言ってるんだ。何でも似合う。服映え。いや存在が映えてる。

 桃ちゃん、ちゃんと日焼け止め塗ったのかな……そうじゃないと、この強い日差しの下。白いお肌が少しでも焼けてしまったら、ビキニの紐の跡がくっきり……。
「ほえええ」
「何ですかその奇声は。さ、教えてください」
「す、すごく似合ってるよ、桃ちゃん」
「ありがとう」
 少しはにかむように笑う。百点満点じゃん。え? 最高。夢かな……。 

 しかし、これ以上砂浜に突っ立っていても仕方ない。二人は海に入った。
「人間は膝の高さの水で溺れるから、気を付けてね」
「わかりました」
「じゃあ、まずバタ足から……」
 桃簾の手を引きながら、まずはバタ足の練習を始める。目と口に水が入らぬよう、きゅっと閉じて泳いでいる桃簾。
 瑛士のものよりも、小さくて細い手が、懸命に彼の手を掴んでいる。瑛士も安心させるように握り返した。
 不意に、少し強い波が起きた。桃簾はそれに驚いた様に、瑛士の手をぎゅっと握る。
「大丈夫だよ、桃ちゃん」
「驚きました」
 今度は引く波。沖に向かう強い力に不安を覚えたのか、桃簾は瑛士の腰に腕を回した。
(ひえ)
 柔らかい。何が? そんなの言うまでもないでしょ!? 桃簾を支えるという名目で腰に手を添える。
「ご、ごめんなさい瑛士……驚いてしまって……」
「ウン、イインダヨ桃チャン」
「何故そんなロボットのように話すのですか?」
「ソウカナ」
「そうですよ……もしかして、クラゲにでも刺されたのですか?」
 慌てて水の中に目を懲らす桃簾。
「違うから、違うから大丈夫だよ……!」
「そうですか?」
「う、うん……それより、続きしていい?」
「はい。頼みます」
 この休憩ではバタ足で終わった。海から上がり、再び海の家の業務を手伝う。昼のピークが過ぎると、ライセンサーたちはほぼ御役御免になった。
「じゃあ今度は平泳ぎ……って、あれ?」
 パーカーを脱ぎながら、瑛士は桃簾の姿が見えないことに気付いた。着替えに行ったのかな? と首を傾げるが、何やらビーチが騒がしい。
 嫌な予感して瑛士は走り出した。
 救急車を呼べ! という怒号が聞こえる。呼吸がない、とも。
「ちょっと!」
 瑛士は人垣を掻き分けた。そうでなければ良い、という彼の願いは裏切られる。
「桃ちゃん!」
 そこに青い顔で仰向けに寝かされていたのは桃簾だった。水着に着替えている。
 一人で泳ごうとしたのか。何てことを。しかし、今は彼女を叱っている場合ではない。目視した限りで呼吸はない。心肺蘇生が必要だ。
「桃ちゃん」
 桃簾の傍らに膝を突く。脈を取る。触知しない。気道確保。まずは胸骨圧迫を……。

 ちりん、と風鈴が鳴った。海の家はずいぶん遠くにあるのに。その音が何だか妙に耳につくと同時に、後頭部に柔らかな感触を覚える。次の瞬間、瑛士は横たわっていた。


 顔に涼しい風が当たる。脇の下と首筋、鼠径部に、何か冷たいものがある。
「気がつきましたか」
 瑛士は目を瞬かせた。桃簾が自分を真上から見下ろしている。顔の向きは横。そして、二人の間にある丸みを帯びたもの……。
(こ、これは……)
 瑛士、察した。これはすなわち……南半球。下から仰ぐ母なる地球……ッ!!!
(なんて最高な眺めなんだ)
 という事は、頭の下にある柔らかいものはふともも。
(柔らかい……!)
 桃簾の膝枕だと思うと、余計に。桃簾は扇子を動かす手を止め、
「瑛士は暑さで倒れたのです……ほら、水分を摂りなさい」
 スポーツドリンクを渡してくれた。瑛士は上体を起こして受け取ると、あっという間に飲み干した。え? 五百ミリ一気飲みって、俺相当やばかったのでは。桃ちゃんの柔らか膝枕のおかげで生に執着できたのでは?
 体に当たる冷たいものは、タオルでくるんだ保冷剤だった。体温を下げるために用意されたらしい。
 そうだった。瑛士と桃簾は、海の家業務の手伝い(こちらは現実でもそうだった)でSALFから派遣されていたのだった。
 飲み物を飲む暇もない厨房の手伝い。熱された屋内、高温の外。これで倒れない筈がない。様子を見て悪ければ救急車を呼ぼうとしていたが、今回は幸いなことに軽く済んだ。
「そうだったのか……」
「依頼主が申し訳ないと恐縮していましたよ」
「お気になさらず」
「悪ければ死ぬところだったのに」
 瑛士の軽い調子に、桃簾は呆れながらも笑う。
 ちゃっかり桃簾の膝にもう一度寝転がると、瑛士は改めて桃簾を見た。

 夢の中ではミニ丈ワンピにエプロンで新婚の夢を見せてくれた桃簾。ビキニ姿で惜しげもなくそのナイスバディをさらしてくれた桃簾。しかし、現実ではどうだろう。アオザイ姿である。普段より体のラインは出ているのでこれはこれで眼福。夢の中と同じなのは、ポニーテールにした髪型くらいのものだった。
(あ、でも、生地が薄いから桃ちゃんの柔らかさが損なわれない……)
 瑛士、再びの夢心地になりつつ、
「桃ちゃん、やっぱり水着はないか……」
「……やっぱり、とは?」
 既に前科が二回。桃簾、静かな笑顔の裏に力を溜めている。
 それを知ってか知らずか、瑛士はかくかくしかじかと夢の話をした。彼は桃簾の変化に気付かない。笑顔のまま、徐々に濃くなっていく、額から目元にかけての影。
「……という夢を見たのさ……もっかい、もっかいちょっと倒れてくるから」
 溜息とともに瑛士が締めくくって目を閉じようとすると、桃簾は瑛士を膝から放り出した。
 べしゃ。
「あちち」
 熱された砂が容赦なく肌を灼く。
「またですか。二度あることは三度あると言いますが、仏の顔も三度までです」
「毎回怒ってるじゃん」
「踏んでいいですか?」
「まって桃ちゃん、暴力は、まって、話し合おう、これは不可抗力なんだ」
 太陽で熱された砂の上を這いつくばる瑛士、追い掛ける桃簾。

 その日の夕方、海パンにパーカーで砂の上を逃げる少年と、アオザイ姿でそれを追い掛ける美女がSNS上で話題になったとかならないとか。

 暦の上では夏が終わる。けれど、暑い日はまだ続きそう。
 南中を越した太陽が、ゆっくりと夕陽に色を変えていく。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
暑さで倒れるのも水辺で溺れるのも、ニュース見てると割と洒落にならないのでご発注者様方はマジでお気を付け下さいませね……!
夢の中の桃簾さんはザ・都合の良い幻って感じで描写しております。ですが瑛士さんも桃簾さんと親しくてよくご存知の筈なので、八割都合良く、二割は本家(?)って感じです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントノベル(パーティ) -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年09月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.