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『戦闘シスターは今日も華麗に舞い踊る・下』
白鳥・瑞科8402

 皮肉なことに戦闘の舞台は教会と呼べる建物の中にあった。太陽ではなく月の光が降るステンドグラスは不気味な陰影を祭壇の正面に立つ一人の男に映し出している。男の口は絶えず、深く開かれていてそこから零れ落ちるのは純粋な祝福に見せかけた人を呪う言葉だった。そうとも知らず、男を崇拝する人々は跪き、懸命に祈りを捧げる。藁にもすがりたい人間とは彼らのような者を指すのだろうか。白鳥・瑞科(8402)の脳裏に任務を受ける直前にぶつかった、男の子の顔が思い浮かぶ。何かに挫けた大人たちを瑞科は哀れみ、今正に底なし沼に沈む姿を見て助けねばと義憤を燃え上がらせた。
 教会堂はいやに薄暗く、頼りのない月明かりを背にした彼女は夜目を利かせてその中を窺っていた。瑞科は手にした長杖を掴むと、底部を正面のステンドグラスに叩きつける。罅が入り脆くなっている箇所を看破し、正確に狙い打った為、硝子は粉微塵に砕け散ると色を失った。きゃあと女性の悲鳴が聞こえるより早く教会の中に勢い飛び込んだ瑞科は跳躍しつつも華麗に宙で一回転、三階分の衝撃を上手く殺して祭壇の男と信者の間に割って入るようにして着地した。ソックスに押し込まれた太腿がしなってやや暗めの照明の下、顔貌や脚など肌が露わな所の白さが際立つ。ゆっくりと立ち上がれば、肌にぴっちり張り付いた上着の中の乳房が緩く反発し合った。豊満な胸を張り、瑞科は毅然とした様子で、男――悪魔に目を向けて睨む。その形のいい眉がつり上がり、美女であるが故の剣呑な空気を強く纏った。長杖の先端を突き付けて言う。
「貴方の悪事も之までですわ。多くの人間を焚き付けて犯罪の道へと誘い、死に至らしめる……その行為は決して許されるものではないでしょう。よってこのわたくしが直々に裁きを下しますわ。抗うというならばどうぞご自由に。その場合は、わたくしも容赦致しませんわよ?」
 言う瑞科の口が曲線を描く。その瑞々しい唇から紡がれる言葉も唇そのものも酷く淫靡でそれらは見えない筈の信者の喉が生唾を飲む。或いは浮かび上がる艶かしい美脚に引き寄せられているのかもしれないが。悪魔は人間の皮を被ったまま、耳障りな哄笑を放つ。よもや小娘がと瑞科を嗤いながら、その視線は彼女の美貌を通り過ぎていって下へ、ボディラインが剥き出しの上半身に向けられる。
 スレンダーな造形美の中で、女性であることを之でもかと主張する乳房は豊満ながら、下着に矯正されずとも張っていて、先端の僅かな隆起に至るまでも彫像同然の美しさを保つ。理性を失った男なら即座にしゃぶりつくだろう。流石に臍まで強調されていないのだが腰のくびれはくっきり見え僅かに膨らむ腹部が呼吸に合わせて上下した。
「悪魔が己の欲望に忠実というのは真実のようですわね」
 瑞科は己の太腿に指を這わせて、ニーソックスの縁から日本人としてはやや色白な素肌の足を辿り、スカートまで辿り着くと指を引っ掛け、下着が見えるか否かのところにまで焦らすようにゆっくりと捲り上げた。肉付きがいい内側に筋肉のついた足は、瑞科が指で押し込むと沈み離せば跳ねる弾力がある。視姦するように欲望も露骨な目で肢体を嬲る悪魔に、瑞科は言う。
「わたくしを倒せば全て好きに出来ますわよ? さあさ試してみてはどうかしら?」
 おまえには出来ないと、高に括り瑞科は嗤う。鬼さんこちらと鈴のような声での誘いに悪魔は号令をかけ、傍観する信者たちが一斉に群がる。
「仕方がありませんわね」
 勿論殺すわけにはいかない。瑞科は長杖を構えて背後の彼らのほうに振り返った。――悪魔に操られているといっても所詮は烏合の衆。鼻歌を口ずさむようにダンスするように瑞科は舞う。ゾンビさながらに襲ってくる男性は長杖の先端で軽く鳩尾を打って気絶させてまた別の女性には懐に飛び込み、肘を打ち付けた。瑞科の唇には余裕の笑みが浮かび、むしろぞくぞくとするような凄絶な色香を解き放つ。四方から同時に襲ってくる敵は電撃を纏って攻撃し、勿論手加減はしているが気を失わせるには充分。但し前方があまり見えなくなるのが難点と思っていると、正にその隙を突いて、弾丸のように悪魔が勢いよく迫る。しかしそれも瑞科の眼にはまるでスローモーションに映った。指先を向けて艶やかに瑞科は笑む。
「わたくしに跪きなさい」
 その言葉が終わるか否かのところで悪魔の身体は急にずんと地べたにへばりつく。さながら空から落下する鳥も同然。起きようとしても起き上がれないのは指から重力弾を見舞ったためだ。腰をくねらせて瑞科は悠然と悪魔の元まで歩み寄る。途中無理に起き上がろうとしたのでベルト装備のナイフを閃かせ、手の甲を縫い止めた。悲鳴に笑みが零れる。
「さあ、どう嬲って差し上げようかしら?」
 そこからの瑞科の攻めは徹底的なものだった。長杖に電撃、ナイフに重力弾――己が持つ全てで二度と復活することがないようにと殲滅をし尽くす。そして後に残るのは瑞科が悪魔の手下たちを蹂躙した結果だ。肝心の悪魔は最早影も形もなく消えている。
「やりましたわ」
 今回も任務を達成出来た高揚感に悦楽が滲む。そして次こそはまだ見ぬ任務が瑞科の宿敵となり得るのではないかと胸を躍らせた。けれど、自分が任務を失敗したり、ましてや敗北するなど有り得ないこと。之まで指一本も触れさせなかったのだ。誰もが羨むこの美しく艶やかな肢体に触れるなど誰も出来ないに違いない。
 教会の武装審問官として随一の力を誇る瑞科。その圧倒的強さにひれ伏さない敵はおらず、瑞科自身もまた、揺るがぬ自信を持って戦い続けている。身体能力のみに留まらず、意図的に隙を作って、場の流れを導く聡明さも、美貌も――全てが瑞科の強さ。だがその絶対的な自信は裏を返せばただ傲慢であるということにも繋がる。苦戦も絶対しないという慢心はいつしか予期せぬ事態を迎える可能性を孕んでいた。敢えて見せた隙に対処出来なければ例えばどうなるのか。一瞬で捩じ伏せられ、指先一つ触れるどころか、身動きも取れずに完膚なきまでに、叩き潰されるだろう。地面に這いつくばり、涙で自慢の顔をぐしょぐしょに濡らしながら命乞いをしても、鼻で笑われるような。今まで己がしてきたように相手の持ち得る技を駆使してサディスティックに攻められては無様に泣き喚く。或いは傷のない玉のような地肌に幾つもの痣を作り、一生治らない傷を刻み込まれることもあるだろうか。美貌も蹂躙され面影もないものになるかもしれない。その結果殺されるならば重畳、見せしめに痛々しくも無様な姿を晒し、言葉一つも発することも出来ない程トラウマを植えつけられプライドも自信も物の見事にへし折られ瑞科が内心見下していた者に鼻で笑われるというそんな哀れな未来が訪れる可能性もゼロではない。いっそ見せしめで済めばよく自慢の体をいいように使われて、あらゆる意味で再起不能になるとしたなら、瑞科は舌を噛み切るだろうか。むしろ正気を保っていられればまだいいほうで心が粉々に砕け廃人と化す可能性も否めない。今まで駆逐や暗殺の任務を受けてきた瑞科には想像すら出来ない末路。生かさず殺さず人を壊す――そのやり方は知らないのだから。
 そういう未来を夢にも思わずに、任務を果たした彼女は後始末を求め教会の人間に連絡を取る。その優雅な歩みは遥か先へ続くと信じて疑わない瑞科だった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
折角前後編でご依頼頂いたのに尺が足りず戦闘中の
描写があっさりになってしまいましたがそれよりも
瑞科さんのお顔や身体の美しさについて書くほうが
いいかなと思ったので、今回はこういう形にしました。
前編の子供に優しい瑞科さんと悪魔に対してのドSな
瑞科さんとが上手い対比になってたら嬉しいですね。
最後の長文の部分ももっと細かく書ければいいなと
思いつつもし例えば今回の敵に敗北を喫していたら
どんな目に遭っただろうと一人勝手に想像するのも
とても楽しかったです。強さも美しさも兼ね備えた
女性が挫けるというのはドキドキするものがあって。
今回も本当にありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
りや クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月02日

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