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『閉園して久しいとある遊園地にて』
海原・みなも1252

 止めた方がいいよと制止する声と、面白がって一緒に行きたがる声。どちらも聞こえたし、それなりの節度を持った上での行動なら傍で聞いていても別に止めはしない。

 どうやら『肝試し』の話らしく聞こえたのだ。
 休みの前日、偶然ながら海原みなも(1252)はそんな話題を耳にする。



 休み明け。

 昼休みにみなもはいきなり泣き付かれた。
 何事かと思えば、休み前日に聞いた肝試し絡みの話。あの話をしていた同級生の面子が、休日に当の肝試し場所に出掛けたっきり帰って来ない――らしい。
 言われてみれば確かに今日は彼らの姿を見ていない。

 出掛けた、と言う当の場所は、ここの学校からもそれ程遠くない小規模な遊園地――の跡地。山間にある閉園して久しい遊園地になる。
 曰く、更地にする資金が無く建物設備はそのまま放置――の廃墟で、取り残されて実質的に廃棄同然になっている遊具も相当に雰囲気たっぷりだろうと想像出来る場所。

 それだけの事、であった筈である。

 なのに、行った筈の面子が――戻って来ないらしい。
 みなもにしてみれば、そんな話なら知り合い(大人である)を頼った方がいいと思う。が――泣き付いて来た子からして、まだそれ程大騒ぎにはしたくない様子も見て取れた。

 ……仕方ない。まずはあたしだけで、確認して来よう。



 みなもは生まれは普通に人間ではあるが、素性が人魚の末裔であり、その力も確りと受け継いでいる――いざとなったら普通の他の同級生よりはそれなりに危機対処能力はあると自負はしている。
 だからこそ――と言う訳でも無いが、念の為水筒に水を入れて備え持ち、自分だけで遊園地跡地にまで確認に行く事にした訳だ(と言うか泣き付いて来た子は確認の為同行する事すら怖がってしまったので、みなもだけで行く事になった訳でもある)

 派手に舗装が傷んでいる駐車場を抜け、エントランスに着く。入口は閉じられて鎖で厳重に封じてもある――が、その横のフェンスが半壊しており、人一人位は何とか通れそうな穴が開いていた。侵入するならまずここを使うだろうと思しき場所。
 通る。……制服が鉤状にささくれた部分に引っ掛かりそうになるが、極力気を付けつつ。
 中に入ってみれば――これは、肝試しネタになるのもわかると思った。元の塗装すらわからない程に錆び付いた金属部分、それ以外も砕け崩れて朽ちている部分が多い。まともに形が残っている物の方が少なく(寧ろ放置年月以上の朽ち方になっている気すらする)、遊園地のマスコット――が描かれていたのだろう賑々しさの名残と今現在のその崩壊具合の落差からして、それだけでどうにも背筋にぞくりと来る物がある。

 ううん、今はそんな事考えてる場合じゃなくて。
 同級生のあの子達が居るかどうか確認しないと。

 気を強く持ちそう思い直して、みなもは遊園地跡地の探索を続ける。……不気味である。一人で来るんじゃありませんでした……と軽く後悔。するが、そこはもう仕方無い。一人で確認するしかない。観覧車、ゴーカート、コーヒーカップ――回転木馬。
 ふと、そこに目が行った。
 回転木馬、だったと思しき廃墟。……いや、廃墟と言い切れない感じが、どうも変な気がしたのだ。半分程は設備ごと砕けた様な破片が散らばり完全に壊れていたのだが、残り半分程は何故か新品の如き綺麗な“馬”の人形がきちんと設置されていたのである。
 と言うか、正確に言うなら“馬”だけが妙に新しく感じられたのである。まるで、後から設置されたかの様にも見える程。

 何でだろう。

 思い、みなもは改めてそれらを観察。……何となく、どの“馬”も異なる形である様に見えた。鬣の長さとか、目つきとか。
 何となく、肝試しに来たって同級生の皆を思わせる造形の気がして、ふふっと微笑ましく感じる。





 ……。





 ……いや。
 まさか、ですよね。





 微笑ましく思った直後に、全く別の可能性が頭に過ぎる。一気に血の気が引く――まさか。そんな訳は。この“馬”の人形。皆に似ている、だけじゃなくて――まさか、居なくなった皆そのものが、“こう”なってしまってたりするなんて事、ありませんよね?

 思い付いてしまったら、確かめずにはいられない。否定材料を見付けなければと言う使命感。……そんな訳は無いから。皆が回転木馬になっちゃったなんて、そんな訳。それは“そういう事”が現実に無い訳じゃないのは知っているけれど、ここは普通の遊園地だった筈だから(でも、放置年月以上の朽ち方になってる様にも見えたよね。普通じゃなさそうな要素は、あったよね)、そんな変な事は、滅多に起きる訳も無くて。

 でも。

 確かめれば確かめる程、“馬”の人形の細かい特徴が、同級生に似ていて。同じ髪型を思わせる鬣、顔にあった黒子と同じ様な位置に唐突に黒い点。体格も、そう思って見たなら何となくそれっぽい差異がある。
 いやいや、でも、まさか、そんな。
 そう思い直した所で、不意に誰かに呼ばれた様な気がした。





 おいでよ。
 いっしょに。
 こっちに。





「……!」

 反射的に水筒の蓋を開けつつ、周辺を確かめる。

「どなたか……いらっしゃるんですか。同級生の皆さんですか、ここにいらっしゃるんですか! 返事して下さいっ!」





 いるよ。
 みんな。
 だから。
 いっしょに。





 呼ばれはする。
 けれど、姿が無い。

 いや。

 姿は。

 ――“馬”だ。





 いっしょにぐるぐるまわろうよ。
 たのしいよ。
 ずうっと。
 ずうっと。





 ね?





 最後、強く念を押す様な声がしたかと思うと、みなもは自分の足が動かなくなっている事に気が付いた。見れば、地面に散らばっていた回転木馬の物と思しきぼろぼろの破片が何故か足にびっしりと纏わり付いていて。
 え? と思う。何これ。何これ。何これ。反射的に手で剥がそうとし、それでも足りなければと水筒で持参した水も操って三本目の手として何とかしようと試みる――が。剥がそうと手で触れたそこから、更に破片は群がる様に纏わり付いて来て。程無く手が、腕が、その先が、びっしりと覆い尽くされて。身動きが取れなくて。動けない分まだ自由に動かせる水を操って何とかしようとするが――その頃にはそもそも、水を使って何処をどうするつもりだったのかすら、思考からすっぽり抜けていて。





 あたらしいともだちがきたよ。
 かわいいかわいいおうまさんだよ。
 いっしょにぐるぐるまわるんだ。
 ずっとずっと、ずうっとね。





 ……そうですね。
 みんないっしょに。
 ここで、ずうっと。
 いられたら、いいですよね……。





 ぱしゃり、と中空を迷走する様に走り回っていた水の手が、ただの水として地面にぶち撒けられる。
 その傍らには、かたん、と空になった水筒が転がり落ちている。

 そして、みなもの姿は――もう。







 山間部に、滅多に誰も訪れない様な、小規模な遊園地跡地がある。
 最早朽ちてぼろぼろである筈のそこには何故か、まるで新品の様に綺麗で、一つ一つがオリジナリティ溢れる造形になっている“馬”の人形が沢山備え付けられている回転木馬があって――。

 その中には、青色の長い鬣を靡かせた、青い瞳の“馬”もあった。
 どういう訳かあどけない人魚を思わせる可愛らしいそれもまた、設備のポールに確りと固定され、その背に跨る新たな子供を今か今かと待っているかの様であり。

 ――“それ”が元々は“人”であった痕跡など、最早、何処にも。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 海原みなも様にはいつも御世話になっております。
 今回は発注有難う御座いました。
 往年のみなも様及び御家族の皆様を久々に思い出しつつ、懐かしく書かせて頂きました……が結局、今回もまた最後まで大変お待たせしてもいるのですが。当方も相変わらずです。

 内容ですが、怪奇……っぽくなりましたかね? なっていればいいのですが。それとみなも様らしさが上手く出せていればいいのですが久々だったので若干自信がなかったり。
 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで――当方の手掛ける海原みなも様の最後の描写を失礼して、そちらで改めての御挨拶を。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月07日

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