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『みちの駅と止まるモノ』
海原・みなも1252

●電車
 海原・みなも(1252)は草間・武彦(NPCA001)と共に終電近くの電車に乗った。
 乗っている客はまばらである。
「終電じゃないからこんもんか?」
「え?」
「終電、意外と満員だぞ」
 武彦の情報にみなもは驚く。二人が席についた頃、電車は出発した。
 みなもと武彦はちょっとした事件の解決後で、終電近くになっていた。
 通常は乗ることがない時間で、みなもは興味がわく。
 行きにも同じ電車だが、逆方向かつ真っ暗なため、雰囲気はずいぶん違う。
 窓の外を眺めると、町の明かりが少ない気がした。
 トンネルに入った。
 窓に映るみなもと武彦。
 武彦の表情は驚愕である。
 トンネルから出ると、武彦は立ち上がる。
「どうかしました?」
「いや。……動けるか?」
「え? あ、はい?」
「ちょっと車掌室か運転士室に行きたい」
「分かりました」
 みなもはよく分からないままついていく。
 電車の速度は遅めなのか、車内を歩くのもどうにかなる。
 途中の車両にも客はいるが、眠っている。皆疲れているのか、とみなもは考える。
 運転士のところにつくが、カーテンが下りている。
「やっぱり見えないか」
 武彦の表情は険しい。
「やっぱり?」
「運転席は夜やトンネルが長いと下ろすんだよ、反射するから」
「なるほど」
 武彦は運転士がいるあたりから横に移動し、窓から中が見えないか確認している。
 カーテンは三分割されているからその隙間から見えるかもしれない。
 武彦は透視するかのように見つめる。
(見ようとしているのではなく、音を聞こうとしているのでしょうか)
 みなもは集中していることをそう考えるが、理由がまだわからない。
「……行こう」
「はい」
 武彦が気にしていることが何か分からないため、みなもは注意深くついていく。
 下手に言葉にして問題が起きるのは避けたい。
 みなもは武彦と一緒に車両をまたいで行く。
 深夜の電車とはいえ、他の乗客が寝ていることに疑問が湧いた。
 二人は車掌室に到着する。やはり、カーテンが下ろされている。
 武彦はノックをする。
 車掌が開けてくれるかなどわからない。ただ、車掌は運行の安全を維持する役職だと考えられるため、反応はあるかもしれないと、みなもは考えた。
 反応がないし、人の気配もしない。
「すまん、話を聞ききたいのだが」
 武彦の声を聞きながら、みなもは先頭車両を見た。
 真っ直ぐ線路だとわかる。電車は静かだ。
(あれ? ここの路線、一駅の間隔?)
 二分から三分で大体つく路線だ。
 車内の移動の時間を考えれば、もう着いてもいいはずだ。
 おかしい。
 そう思ったころ、電車が止まった。

●不審
 電車がホームに止まると扉が開く。
 電車が着く前に放送はなかったとしても、駅ならば止まってもおかしくはない。
 ホームは薄暗い。屋根もなく、コンクリート製の土台が有るだけのようだ。
 車内に、秋の虫の音が聞こえる。
 武彦は唇を一文字に結んでいる。
 みなもは車内を見た。
 誰も乗っていない。
 電車から降りた客はいないはずだ。だが、ホームにも人がいない。
「あたし、眠いんですね、きっと」
 みなもに答えず、武彦は腕時計を見る。
 武彦の眉間にしわが寄っていく。不安ではなく状況の厳しさだろうか。
 みなもは状況を考える。
 何がおかしいのか。
 みなもは時計を見る。自分が乗った電車は何分発だったか思い出せないが、時間について違和感がある。
「草間さん、下ります?」
「それが問題なんだよな」
 武彦は首をひねる。
 みなもも悩む。
 この違和感は電車を下りることで終わるのか、このまま乗っていると解決するのか分からない。
「下りるか」
「そうしますか?」
「状況が動かない気がする」
 武彦は時計を見せた。秒針が動いているし、みなもの時計と同じ時間だ。
 みなもの疑問に武彦が答えた。
「秒針は動いているけど、それ以外は動いていない」
「……それは……」
 どうなのだろうか?
 確かに、このままでは事態が動かないということ感じる。
「腹をくくるかな」
 みなもはうなずいた。
 独りではないのだし、腹をくくって進むしかない。
 二人は駅に下りた。
 駅には駅名の看板があるが、前後の駅名の記載がない。
「こんな駅ありましたっけ」
「……ない」
「く、草間さん!?」
「……どっちが正解か分からないっていう状況だよなぁ」
 電車は音もなく消えていた。
 線路が上りと下りで一線ずつあるだけだった。

●駅にて
 ホームにある明かりの下にベンチがある。そこにみなもと武彦はいる。明かりがあると落ち着くのは人間が闇を恐れる証拠かも知れない。
 そこから周囲を見渡す。
 田舎町の無人駅という雰囲気だ。
 駅の周りは何もない。ロータリーのような物があるだけで店もない。道にはバスも、タクシーも、誰かを迎えに来たような車もないし、人もいない。
 道を進めば人家があるかも知れないが、みなもが見ている限り、人の営みを感じられない。
「どこから?」
 異界だったのだろうかとみなもは疑問を口にした。
「分からん。電車に乗った時に、何かが変わったのかもしれない。そもそも、乗った時の電車はおかしくないよな」
 みなもはうなずく。
 電車の行き先や車体が違うものだったら、さすがに違和感を覚えるはずだ。ただ、行き先についてははっきり見るとは限らない。
「この路線、他線乗り入れがあるから終点の先にいくのもある」
「そうですけど……あれ?」
「俺たちが乗った駅は始発……そして、終点駅に向かっていた」
「そうですよね。駅と駅の間隔もおかしかったですよね」
「あの駅と駅の間、トンネルないぞ」
「……え?」
 みなもは背筋が凍る気がした。
 武彦はトンネルがある駅と駅を挙げていく。言われると確かにそうだとみなもは思った。
「……だから、乗った後切り替わったということですか?」
「そういうことになる」
 そもそも、このような名の駅はない。
 みなもは駅の外を見る。
「どうするかなぁ」
「ここで夜明けを迎えます?」
「動かないというのも方法の一つだ」
 みなもは音がしないと思ったが、不意に秋の虫とかすかな祭り囃子の音がした。
 虫の音は草むらがあるためそこだろうと分かる。
 祭り囃子はどこかわかりづらいが、そこに行けば誰かいることになる。
「草間さん、祭り囃子の音が……」
「聞こえるんだがなぁ」
 武彦は溜息をつく。
「手がかりですよね」
「行ってみるか」
 武彦は立ち上がる。
「どっちか分かります?」
「あっち、トンネルの先」
「え?」
 駅はトンネルを出てすぐだったか、トンネルは一つだけだったのかもわからない。
「……動くのやめよう」
 武彦は周囲を見てつぶやく。
「あたしなら大丈夫ですよ」
「いや、なんか深みにはまりそうだ」
 異界についての情報が薄いため、下手に動けない。
 夜の景色なのに、どこか違うように見えだした。
「秋祭りを深夜にする風習があるかもしれないし、朝になったら山のてっぺんにいるかも知れない」
 武彦の言葉にみなもはキツネに化かされるという昔話を思い出す。
 みなもと武彦はベンチに座る。
 武彦はたばこを取り出し吸い始めた。
 なんとなくみなもはほっとする。いつもの武彦だからだ。
 恐怖もあるけれども、安堵もあり、眠くなる。
 目を覚ましたとき、すべてが解決していてくれることを願った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 焦点がない、法則がみえない異界の形は解決する側からすると怖いですね。いえいえ、異界が怖いですよね……。
 話は解決できるかどうか謎の状態です。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月10日

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