▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『2人が変わる、その夏の日。』
矢花 すみれla3882)&天野 一羽la3440

 エオニア王国で「ステラ国際空港」が新規リニューアルオープンしたニュースは、遠い日本でもこの夏、王国で行われたジューンブライドの話題と共にメディアに取り上げられていた。
 そんな中、まさか自分たちが空港前でインタビューを受けた時の映像が今になって故郷で流される事などつゆ知らず。
 夏休みをとって帰国したのが矢花 すみれ(la3882)、天野 一羽(la3440)の両名であった。

「……どうすんのよ、これ。みんな付き合ってるだの、結婚式は呼べだの言ってきてるんだけど」
 すみれはむーっとした顔でSNSの画面をにらんでいた。
 一羽の両親が出かけ、2人きりの天野家にて。
 外ではミンミンゼミがやかましく鳴き、傍らには飲みかけの麦茶がある。
 2人は赤ちゃんの頃からの幼馴染。
 お互いの実家は隣同士で、勝手知ったる何とやら、だ。
「だってあのインタビューも、私たちがこっちに帰ってくるよりずっと前に撮ったやつじゃない……なんで今頃また」
 すみれのスマホには鳴りやまない通知音と、「やっぱ付き合ってたんじゃん♪」「海外挙式マジうらやま〜♪」「エオニアってどこ?!」「結婚式呼んでね♪」などのメッセージ。
 幼馴染から大学の同期まで、みんな朝のニュース番組の中で流れた映像を目にしていたらしい。
 エオニアでのインタビューを撮影したのはジューンブライドのシーズンで、すみれや一羽は自分たちがTVカメラに撮られた事などすっかり忘れていた。
 そのため、知り合いからの「TV出てたよ!」の連絡は2人にとって軽くサプライズだった。

(まさか……あの時のインタビューがこんな風になってたなんて……)
 知り合いが録画して送ってきた映像で確認すると、特集コーナーのテロップには「ブライダルシーズンのエオニア! 日本からやって来たラブラブカップルの姿も」の文字が躍っていた。
 すみれと一羽はそこで、あたかも「挙式の準備をしにきた若いライセンサーカップル」であるかのように映し出されていたのである。
「いや、うーん……。ボクのほうにもすごい勢いでメッセージとか来てるし」
 一羽も困惑しながらSNSの画面を眺めている。
 今見ているのは外出中にどこかでTVを見たらしい2人の母親からのメッセージだ。
 自分の母からは「やるじゃない♪」、すみれの母からは「娘をよろしくね♪」等々という明らかにウキウキしたメッセージが届いている。
 仕事中の父がこれを知っているのかどうかは分からないが、少なくとも母親たちはノリノリのようである。

「お母さんもなにしてるんだろう、もう……」
 一羽はそんなことを言いながら、気まずそうな顔で母親への返信を悩んでいる。
 そうしているうちに、どこかで番組情報を見たらしい知り合いの1人から「今日のお昼の番組でも映るかもよ?」のメッセージが送られてきた。
 TVをつけて待っていると、お昼の情報番組で海外ウェディングの特集コーナーが始まった。
 モルディブやハワイなどのお馴染みの場所が取り上げられた後、見たことのあるエオニア王国の映像が映し出された。
(……何よこれ、どう見たって結婚前のカップルじゃない。私、こんな顔してたんだ)
 ランテルナでドレス姿を撮影した、と幸せそうな顔でインタビューを受ける自分の映像と、そのBGMで流れる「結婚式の定番ソング」の聞いたことのあるメロディー。
 すみれの口にしたリゾート施設「ランテルナ」での撮影のくだりでは、ドレスを着て撮影した場所や、TV局が入手してきたらしいドレス姿のすみれの姿も映し出された。
 TV向けに2人の姿を「挙式目前のラブラブカップル」として盛り上げる演出が施されたその映像に、すみれはカーッと顔を熱くした
(……なんであの時、あんなに舞い上がっちゃってたんだろう。何よ、これじゃまるで……)
 番組ではすみれと一羽は「いちはやくエオニアでのブライダルに目を付けた日本人カップル」として扱われてしまっているようだ。
 すみれは照れ隠しで顔を背けながら、もう一度「どうすんのよ」と一羽に言った。

「あんただって、その、ヤでしょ、私なんかと今さらそんな噂になっても」
「そんな、すみれちゃん……。イヤとかじゃなくて……」
 顔を上げると、一羽が頑張って何か、すみれへの言葉を選ぼうとしているような表情をしていた。
 その顔に、すみれは一羽が言おうとしている事を、なんとなく察した。
「……う。何よ、本気だっていうの……」
「すごく、うん。すごく、綺麗だったもん」
 綺麗。
 率直にそう言われ、すみれは急にこみ上げてくる熱い感情に襲われた。
「何よ……、無理してそんな……綺麗だなんて言わなくていいわよ」
「無理なんかしてないって……すみれちゃんこそ、その、ボクでよかったの?」
 TV画面には定番結婚式BGMと共に、インタビューを受ける2人の姿が繰り返し映し出されている。
 ――こちらが羨ましくなってしまうような、素敵なお2人ですね
 ――幸せになってほしいですね
 番組のコメンテーター達も、映像をバックにそう口々に発言している。
 すみれは一羽のほうを見て、「だって」と声を漏らした。

「私だって、ドレス着れたの嬉しかったし……。でも、あんた以外の男の子と一緒に撮るなんて考えられなくって……」
「ボクだって、すみれちゃんが他の男の子とドレスでなんて、嫌……かも」
 一羽はすみれの方に近づき、その顔を覗き込む。
 そして、こう言った。
「すみれちゃん、とっても綺麗で可愛いんだもん」
「何よ何よ、気づくの遅いわよ。何言ってんのよ、バカ。て言うか、もう……プロポーズじゃないのよ……」
 恥ずかしさに、言葉の末尾がかすれて聞こえた。
 そうだよ、と言うように、一羽がすみれを抱き寄せる。
 暖かいその手が、すみれの頬に触れた。
「ボクが、その、ひとり占めしたいんだ。今日、初めて気づいた。ねえ、ボクのためだけに、ドレス、また着てくれる……??」
「……うん、いいよ。着てあげる」
 大きく頷き、そして。
 抱き寄せられるのに身を任せ、すみれは目を閉じ、一羽と唇を重ねた。
 ぎゅっと抱きしめるその腕が大きくて、暖かかった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度は、発注いただきありがとうございます、九里原十三里です。
シナリオでは扱わなかった後日、の話を今回は担当させていただく、という事で、夏休みの天野家ですね。
これからのお2人の素敵なターニングポイントとなるお話が書けていればいいな、と思います。
楽しんでいただければ幸いです。
改めまして、この度はご依頼いただきましてありがとうございました! 
今後ともどうぞ、グロリアスドライヴをお楽しみくださいませ♪

イベントノベル(パーティ) -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年09月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.