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『みちの駅とどこまでか』
海原・みなも1252

●目を覚ましても
 海原・みなも(1252)は目を覚ました。
 自分がいるところがどこにいるか分からず、悩んだ。
 コンクリートでできた土台と、ベンチがあるだけのシンプルなホーム。駅の外は草と空しかない。
「……おはようございます」
「……はよ……」
 横にいた草間・武彦(NPCA001)が短くいいながら伸びをした。
「さてと……どうするかだなぁ」
「え?」
「忘れたのか?」
 電車に乗った後、異界に紛れ込んだらしい、と溜息交じりに説明してくれた。
 みなもは記憶がつながる。
「危険はないのでしょうか?」
「いまんところは、何もされてない」
 武彦は立ち上がると、さらに伸びをする。
 早く解決したいところだが、手がかりはない。
 現在、周囲に音がない。
 見える範囲に改札口がない。出入り口を示す、建物や印もない。
 線路は続いているように見える。
「見てみるか」
「はい」
 みなもと武彦はホームを見て回る。
 出入り口らしいものはあったが、切符入れもない。
 線路を横断する場所もあるが、踏切はない。
「この手の異界の噂話があったな……」
「……迷った人が異界からの連絡するというものでしょうか?」
 二人はそれぞれ思い出した。
 互いに話すが似たようなもの。
 いつもの電車に乗ったはずなのに、見知らぬところにいるという結果になるものだ。
 途中でおかしいと思っても何もできない。電車という動く密室の怖さでも有るかも知れない。その上、本人が異界からネット上の掲示板に書き込みをしているという事もあるという。
 互いに話した後、気づくのは、現状を変える手がかりはないということ。
 異界に招いたモノがいるのかどうか、何もないなら接点がどうできるかということは分からない。
 このままさまようのか、それとも、手がかりを見つけられるのか、みなもの胸の中に不安がよぎる。
 不意にクラクションと思われる音が聞こえた。
 みなもと武彦は顔を見合わせると、ロータリーに向かった。

●親切な人
 駅から出ると、ロータリーに一台の乗用車が止まっている。
 古めかしいと漠然と感じる形だった。
 五十代くらいの男性がいる。
「あんたら、何やってんだ?」
 みなもと武彦は会話をするのに適度な所まで進む。警戒と信用できるかの間で揺れる距離だ。
「電車待ってんだ」
 武彦が答えた。
「もう来ないよ」
「え? だって、昨ば……」
 みなもが驚いて言葉を紡ぎかけたが、厳しい表情の武彦がちらりと見たため黙った。
「どこから来たんだい?」
「まー、色々あって」
「近くの動いている駅まで送るよ」
「しかし、悪いだろう」
「バスは来るけど、昼間で来ないからな。俺だって買い物があるし、駅まで行くんだ。ついでだよ」
 武彦とみなもは顔を見合わせる。
 これはどう判断すべきか。
 何事もなければ親切な人に便乗したい。
 今起こっていることを考えると、どれが正しいのか、何が正しいのかが分からないのだ。
 車に乗ることは動く密室であり、深みにはまる可能性がある。
 一方で、元の世界に戻れる可能性もある。
「バスは来るんだな。じゃー、それを当てにする。周り見てみたいと思うし、な?」
 武彦は「これでいいか?」というようにみなもを見た。そのため、みなもはうなずく。
 答えが見えないのだから、直感を信じるしかないのだ。
「あんたら……」
「ここまで来たら楽しまないとならないだろうし」
「……」
 男と思われるものは車に乗ると走り去った。
 それを見送り、二人はしばらく周囲を伺う。
「無言でしたね」
「断って良かったのか?」
「……えっと、あたしの目がおかしいのかも知れませんが……男性だ、と思いましたが……実際はよく分からなかったのです」
 武彦は軽くあごを引いた。つまり、武彦も相手が人の形に見えたけれども人間だという確証がなかったのだろう。
「駅があるのでしょうか」
「全く、分からん」
「バスは」
「あると思えるか?」
 みなもはロータリーを見たが、バス停がない。
「線路は続いているのだから、それに沿って歩いてみるしかないだろう」
「電車が来ないから線路の上は?」
「もし、来たら?」
 それは怖い。
 迷い込んだ世界がどういう法則を持って動くのかも分からない。
 みなもの知る現実を意識して行動した方が、最小限で済む。
「さて、行くか」
「線路に沿って道があるといいんですけどね」
 すでに、垂直に道がある。
「別に、道の上でなくともいいだろう」
 武彦は線路沿い、草地に足を向けた。
「え、ええっ!?」
 どう考えても茨の道に見える。
「一応、並行する道がないか見てからにしませんか?」
 みなもの堅実的な提案に、武彦は「そうだよな」と笑った。

●ふと気づけば
 みなもと武彦は、道を進んでいた。草むらはさすがに避け、道を選んだのだ。しかし、一本道であり、山に入っていく。舗装された道ではあるが、何も出会わない。
 歩けば歩くほど、何かに追われる感覚も出てくる。
 休憩すら取っていない。
 空腹も感じない。
 眠気も実はない。
 無言で進んでいたが、みなもはふと「おかしいですよね」と口にした。
「異界にいる自体でおかしいんだ」
 武彦の言葉にみなもはうなずく。
「道を進むことで変化はありますよね」
「ああ」
 その先が分からない。
 建物がない。
 人工物は道路と柵、傾斜の舗装くらいだ。
 道を進む間、木々が空を隠した。
「……山の中、進むっていうのはどうでしょうか!」
「それ、遭難する。草むらの方がましだ」
「ですよね。どっちもどっちのような……」
 武彦が苦笑し、みなもはつられて笑う。
「そろそろ変化は出るかなぁ?」
「あ、見晴らし台みたいになってます」
 道路でカーブ部分、道の外が開けており空が見える。
 そこに武彦とみなもは急ぎ足で向かった。
 道に引かれた白線の外に立ち、景色を見る。
 景色の中に町や建物が存在しない。
 山の高低差があり、木々が生えている。その間に道が走っているだろう隙間がある。
「……自然豊かってことがよく分かりました」
 みなもは残念とは口にしたくなかった。
「何っ!」
 武彦が鋭い言葉と共に、みなもの手を引っ張る。
 みなもと武彦が先程いた所に、トラックが突っ込んだ。そのトラックは柵を突き破り落ちていく。しかし、最後まで見えなかった。
「……え、えええ!?」
「……カーブ曲がりきれない……て奴か」
「確かに」
 みなもはドキドキする心臓を抑え、答える。
 武彦が何か言いかけた。しかし、音が聞こえない上、突然、闇に包まれた。
 太陽が落ちたにしてもおかしい。みなもは困惑した、一瞬だけ……。

「おい、下りる駅だぞ」
 みなもはぱっと目を覚ます。明るい車内、外は暗い。
「夢、だったんですか?」
「違う」
「え?」
 みなもは驚くが納得した。武彦が妙に疲れていること、自分も含め歩き回ったような埃っぽさがあるからだ。
 武彦は電車から下りて、駅の売店に向かった。みなもはそれについていく。
「閉まってますよ」
「いや、これ見ろ」
 駅の売店に積まれた新聞の束がある。それを見ると日付が記憶にあるものではない。
「……日付が……」
 みなもは呆然とする
「変な駅や車とか、本当にあったんですね。どうやって戻ってきたんです?」
 武彦は首を横に振る。
「帰るか……」
「はい……」
 みなもはどっと疲れる。
 異界にいたか分からなくても、電車に乗った日付から進んでいるのだけは確かだ。
 改札から出られるのか、それからどうなるかだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 結末は色々ある中、「元の場所に戻る」を選びました。
 ただし、戻れたからといって、解決かどうかは……分からないのですね。
 いかがでしたでしょうか。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月14日

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