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『私のお姉さま』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 ファルス・ティレイラ(3733)は、魔法道具置き場に埋もれていた。
 魔法薬屋の店主、シリューナ・リュクティア(3785)の為に、入荷してはろくな整理もされずに入れられる道具たちを時折整理している。そうでなければ、あっというまに倉庫はごちゃごちゃになってしまうのだ。
「本当に、いっぱいあるなぁ。お姉さま、どれがどこにあるのか、分かってるのかしら?」
 ぶつぶつと言いながら、確認していく。はめた者を黄金の像にしてしまう腕輪だとか、シャボン玉のような球体のガラス膜に入れると瞬時にガラス細工にする魔法道具だとか、一瞬のうちに物を固めてしまう接着剤だとか。
「何でかな……なんとなく、悲しいというか、驚いたというか、辛いというか、いやでも……なんだか、複雑な気持ちが浮かんでくるというか」
 むむー、とティレイラが唇を尖らす。
 今まで様々な状態になってきた。
 氷、石、金属、硝子……挙げていくときりがない。
 それらは魔法の勉強にもなっているのだから、まったくもって意味がないとは言わない。しかも固められてしまった間、恐らくはシリューナに愛でられているのだろうから。
「でもでも、ずっとやられっぱなしって言うのは、ちょっと悔しい気がしますっ」
 ぎゅっとティレイラは拳を握る。そうして、ふと、一つの道具が目に入る。
 丸い鏡だ。手鏡ほどの大きさしかない。入っている箱に説明書が同封してある。それをティレイラは躊躇しつつ、手に取って確認した。
「……ふむふむ……」
 ティレイラは一通り確認し、にんまりと笑った。
「これは、お姉さまに仕返しできるんじゃない? ふふ、いいもの見つけちゃった」
 注意事項をじっくり読みこんでから、ティレイラは鏡を掴んで倉庫を出る。
 一刻も早く、シリューナのところへと向かわなければならないのだから。

 □ □ □

 シリューナは、紅茶カップを片手に休憩していた。ティレイラが倉庫の片づけをしてくれるお陰で、お茶を飲む時間が生まれたのだ。
「ふふ、ティレのお陰ね」
 カチン、と通る音を店内に響かせつつ、シリューナは呟いた。時計をふと見、シリューナは立ち上がる。そろそろティレイラも一息つく頃だろう。
「ティレの分を用意しておこうかしら」
 そう呟きながら紅茶ポットのところへ行こうとすると、倉庫の方からパタパタという足音が聞こえてきた。
「噂をすれば、ね。全く、大きな音を立ててはいけないと、以前言った気がするのだけれど」
 苦笑交じりにシリューナは言う。そうして次に、ふふ、とちょっぴり悪い顔になって笑う。
「言うことを守れない子は、固めちゃおうかしら」
 そういえば試しに使ってみたい魔法道具があったような気がする。「悪い子にはお仕置きよ」と言ってティレイラを固めて、しばらく眺めるのはどうだろうか。あの可愛らしい顔が、健康的な体が、かちんと固められた様子を想像するだけでぞくぞくする。
 竜型になったティレイラもいい。翼と角と尻尾が生えている状態もいい。どの状態のティレイラでも、間違いなく愛らしく素敵な置物になることができるだろう。
 なんと完璧な存在なのだろうか。
 シリューナは想像し、口元が緩む。素敵な像ができるだろうと考えるだけで、ドキドキが止まらない。
「お姉さま!」
 パタパタという足音と共にティレイラの声がする。
「ティレ、ダメじゃない。大きな音をたててはいけないと……」
「これ、なんでしょうかっ!」
 ティレイラが元気にそう言いながら、背中から何かを取り出してシリューナの視界に飛び込ませる。
 丸い鏡だ。
 手鏡ほどの大きさで、倉庫の中に入れていたものだ。
「それ、確か」
 シリューナはそこまで言い、あ、と気づく。
 それこそが、ティレイラに「お仕置き」として使おうと思っていた、石化の呪いをかける鏡だ。
 視界に入れるだけの、お手軽な呪い。
 シリューナはすぐに呪いに対処するため、動こうとする。が、既に足元が固まってしまっている。
 シリューナが対処する間も与えぬ速さだ。
「困ったわね。どうにかしないと」
 ティレの可愛い石像が作れないじゃない、と続けようとするものの、それすらも口にできない。一瞬で喉のところまでやられたのだ。
「あぁ」
 シリューナは吐息をつく。ここまでくると対処しようにもどうしようもできないし、できることなどない。
 石化はシリューナの全身を駆け巡っていく。動かない感覚と、思考さえも固まっていく。

――ぷつん。

 シリューナの意識は、そこで完全に途切れた。
 そうして、美しい石像がそこに佇むだけとなったのだった。

 □ □ □

「さすが、お姉さま。完璧すぎる」
 ティレイラは、感心したように目の前の石像を見つめる。
 美しい肉体のラインが、魔法のドレスで浮かび上がっている。今にも動きそうな、それでいて動かないシリューナの石像が、完全なる美の象徴のように佇んでいる。
「すぐに動きそうだけど……本当に動かないのかな?」
 ティレイラはそう言うと、恐る恐るそっとシリューナの太もも辺りに触れる。
 ひやっとした冷たい温度と、つるっとした滑らかな石の感触がする。
 もちろん、動かない。
「お姉さまー? ちゃんと石像になりましたか?」
 つんつん、と腕辺りをつつきながら尋ねるが、答えはない。
 ティレイラはシリューナの顔を覗き込む。溜息をついたような、ちょっと開いた形のよい唇。あきらめたように片目を瞑る表情。軽くこめかみに充てられた細い指先。細い右ひじを支える左手。
 やはり、動かない。
 暫く待ってみたのち、ティレイラは「うふふ」と笑う。
 シリューナは、あの鏡によって石像になってしまったのだ。いつも自分がされるように、今度はシリューナが石像にされてしまったのだ……!
「お姉さま、やっぱり素敵! 完璧!」
 ティレイラはにっこりと笑ったのち、パチパチと手を叩えて称える。
 シリューナの石像の周りを、ゆっくりと眺めながら歩く。どの角度から見ても、シリューナの美しい姿に非の打ちどころはない。そして、どの角度から見てもシリューナの魅力が欠けることはなかった。
 ティレイラはそっと手を伸ばし、その美しい石像に触れる。つつつ、と掌を這わせると、滑らかな石の感触が心地よい。それがシリューナが作り出した曲線なのだと思えば、心臓がさらに跳ね上がった。
「えいっ!」
 ティレイラは思わず、シリューナの後ろから抱き着くひんやりとした温度が紅潮した頬に気持ちいい。
「本当に、お姉さま、素敵」
 つう、と後ろから抱き着いたっまあ、ボディラインに沿うように全身を撫でる。
 シリューナの柔らかく暖かな肉は感じられない。ひんやりとした固い石の感触だけがそこにある。
 手が太ももの辺りに差し掛かる。
 いつもならば絶対に触れることが許されない場所だ。体のラインが出る服のため、シリューナの美しい曲線が石となっても分かる。
 ティレイラは、ごくり、と喉を鳴らしてから太ももに手を這わす。
 すす、とさすれば、冷たい石の感触のまま、シリューナの太ももを感じることができた。
「す、すごい……!」
 ティレイラは思わず口にする。
 なんて滑らかで、美しく、気持ち良い感触なのだろう。
「しかも、お姉さま、全然怒らないし……抗わない」
 石像なのだから当たり前なのだが、それがとても不思議なことのように感じる。
 今のシリューナは、ティレイラが何をしても怒らない。何をしても抗わない。何をしても文句ひとつ言うこともない。
 つまり、今のシリューナは、完全にティレイラの「もの」と化しているのだ。
「まるで、お姉さまが完全に私のものになったみたい……!」
 征服欲が満たされ、ティレイラの全身を喜びが駆け巡る。
 普段なら触れることの許されない太ももも、胸も、腰も、今はすべてが許諾される。
 なぜならば、今のシリューナはすべてティレイラのものなのだから……!
「うふふ、私の、お姉さま」
 ティレイラはうっとりと笑い、シリューナを抱きしめる。冷たい触感が、ティレイラの火照った体を諫めるかのようだ。
 だが、それも逆効果でしかない。
 その冷たい触感こそが、今の征服欲を助長させているのだ。
「あ、そうだ。せっかくだからお姉さまを見ながら、お茶でも飲もうかな。絶対に美味しいお茶になるに違いないもの」
 ティレイラはご機嫌でカップを取りに向かう。そこにはすっかり冷めてしまった紅茶が入った、紅茶ポットが置いてあった。
「お姉さま、私の分を用意してくれていたのね。お姉さまが、私の為に用意を」
 ティレイラは想像し、またぞくぞくとする。
 ティレイラのものになってしまったシリューナの石像を見ながら、シリューナがティレイラの為に用意してくれていた紅茶を飲む。
 なんて素敵で、なんてすばらしいお茶の時間なんだろう!
 ティレイラは冷めた紅茶をカップに入れ、逸る心を抑えながらシリューナの元に戻る。
 相変わらず、美しい石像のままのシリューナがそこに在る。
 ティレイラはにっこりと笑い、紅茶を口にした。
 最高に美しいシリューナの石像を見ながら飲む紅茶は、最高に素晴らしく美味しい。
「私の、お姉さま」
 ティレイラはそう言うと、ぐいっと紅茶を飲み干した。
 世界一素敵なお茶の時間が終わることは残念だが、眺めているとまた触れたくなってきた。幸い、まだ紅茶ポットには紅茶が残っていた。
 またお茶の時間を設けることは可能なはずだ。それこそ、シリューナが石像のままでいる限りは。
 ティレイラはカップをテーブルに置き、ゆっくりとシリューナの石像に近づいた。
 完全な美の石像が、徐々に近づいていく。
 いつもは許されない、だが今はすべてを許される、シリューナの石像に近づく。
「だって、今は私のお姉さまだもの。私の、私だけのお姉さま」
 うふふ、とティレイラは嬉しそうに笑った。もうずっと笑っている。うっとりとした表情のまま、ティレイラの口元は笑う以外の事が出来なくなってしまっている。
「私も、呪いにかかっちゃったみたい。お姉さまの呪いですねっ。でも、仕方ないですよね」
 そっとティレイラはシリューナの腕に触れる。ひやっとした石の触感が、再びティレイラを迎えてくれる。
「お姉さま、大好き」
 ティレイラはぎゅっとシリューナを抱きしめた。
 冷たく滑らかな石の触感が、ティレイラの欲望を更に膨らませていくのであった。


<美しき石像は思う存分堪能され・了>

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。
今迄お二人をたくさん書かせていただけて、本当に楽しかったです。
少しでも気に入って下さると嬉しいです。
これからのお二人も、きっとこれまでと同じように固まったり固められたりする、楽しい日々が続くのだろうと思います。
この度はパーティノベルを発注いただきまして、ありがとうござました。
またいつかお会いできることを、楽しみにしております。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2020年09月14日

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