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『月は頭上を越えて』
霜月 愁la0034


 コピー機は横倒しになっていて、引きちぎられたケーブルからは導線が剥き出しになっている。紙の書類もあちこちに散らかっている。恐らく個人情報が書いてあったであろうものは、シュレッダーの代わりを意図せず引き受けたナイトメアによって判別出来ないほど破損していた。

 ライセンサーたちは、この日オフィスが入っている建物に出没したナイトメアの討伐依頼を受けて急行していた。
 その内の一人、霜月 愁(la0034)は倒れたコピー機を踏み越えると、正面にいたマンティスに向かって槍を振り下ろした。自分の身長を遥かに超えるエナジースピアには穂がついていない。柄の先に取り付けられた、特殊なIMD発振器から、月の光に似た刃を生み出す。フォルモーントとは、ドイツ語で満月を指す。その形になるまでに姿を変える月のように、この槍の刃は使い手の意思に沿って形を変えた。今は普通の槍の様な尖った形を取っている。
 暗夜を照らす月光の如き閃きが、マンティスの肩口に突き刺さった。すぐに引っこ抜いて後ろに回り込む。辛うじて絶命を免れた相手の反撃を槍で弾き飛ばすと、反対の手に素早く槍の柄を渡した。ガントレットをはめた利き手を拳にして、その顔面に叩き込む。
 めき、と嫌な音がした。人間であれば、鼻骨が粉砕され、前歯も折れ、当たり所が悪ければ下顎にも何らかの損傷を負い、鼻血を出しながら吹き飛んだに違いない、そんな手応え。
 マンティスは後ろに飛んだ。鎌がおよそ意味を成さない方向に向いている。事切れているらしい。

 愁は息を吐く。その時、インカムに連絡があった。
 妙なロックが屋上にたくさんいるから加勢して欲しい、と。


 どこぞの海辺に以前出た水色をした回復能力を持つロックと、どこぞのライブ会場に以前出たマゼンダ色で変調を扱うロックは、屋上で徒党を組んでライセンサーたちに襲いかかっていた。元々、ロックは頑丈で攻撃力も高く、本来ならアサルトコアでの対応が推奨されている。生身で対応するものではない。
(やっと着いた)
 階段を駆け上がってきた愁が、息つく間もなく戦場に飛び込んだ。ロックたちは受けた攻撃を、だだっ子のように腕を振り回して弾き飛ばす。ウワー! とか、ギャー! とか叫びながら、ライセンサーたちが漫画のように飛ばされた。
(うーん、愛敬を振りまかれてもやっぱり可愛くは感じないかなぁ)
 人によっては可愛いらしいが、愁にはピンと来ない。

 ロックたちは何故か愁を凝視した。中性的で、整った顔立ち。大きな紫の瞳。肩まで伸びた長い髪。
 そう、それはまさに可愛い。(ロックの)世界が嫉妬する可愛さ。

(あ、あれ……? なんか僕狙われてます……?)

 愁にとってはややコンプレックスな外見ではあるが、ロックたちにとっては自分たちの価値を危ぶむものらしい。
(ナイトメアの重要な価値観の一つに可愛いがあるってどうなんでしょうか……)
 マゼンダのロックは特に「かわいい」にこだわるらしく、憤然としてこちらに向かって来るではないか。変調は高い抵抗で打ち消し、殴り掛かってくるのは槍で防御した。腕をぐるぐる回しながら追い掛けて来るのに背中を向けて走ると、敵前逃亡と見なして、向こうは更に張り切って追い掛けて来る。屋上の柵に行き当たった愁は振り返り、
(追い掛けるのは一列なんですね……都合が良いですけど)
 槍を振るう。長い得物が空を切って唸る。それと同時に、一直線に冥府の沼を展開した。デモンズブレイドである。容赦なく幻影の刃が沼から突き出し、ロックの装甲を叩き割る。ヒールロックがすかさず回復を掛けた。マゼンダロックが殴り掛かってくるのは、風纏で反撃。槍の穂先を刺股の様に変えて、ロックの胴部を掴むと思い切り押した。
 相手がバランスを崩すのを見て取ると、駆け寄ってその上に飛び乗った。後ろに並ぶロックたちの頭上を走る。一瞬の出来事で、相手も対応が遅れた。飛び降りて、受け身を取りながら前に転がる。慣性の法則でやや滑ったが、それも織り込み済みだ。滑りながら方向転換をして、敵に向き直る。

 ここまでで、愁が一切思考を口に出していなかったのには理由がある。

 詠唱していたのだ。

 夢を飾る彩の。

 そしてそれは完了した。

「これで──終わりです!」

 槍を振るう。月光に色が付く。見える範囲の情報が一気に増えた。全ての色をイメージされた魔法はロックたちを屋上ごと包んでいく。その姿は……当人(?)たちの望み通り「可愛い」と言って言えなくはないような気がしなくもないが、

(やっぱり僕にはピンとこないんだけど──)

 カラフルでポップな景色とは裏腹に、その威力は凄まじい。リジェクションフィールドをぶち破り、ロックそのものを焼き尽くしていく。

 やがて、風景は地味になった。後には、力尽きたロックたちが残るばかりである。最後の力を振り絞って起き上がろうとする一体に、ガントレットの一撃を加えて沈黙させると、ふうと息を吐いて額の汗を拭った。吹き飛ばされて目を回しているライセンサーたちの様子を見る。幸い、シールド残量はギリギリながらも残っている。身体への直のダメージはなさそうだ。

「霜月です。屋上は片付きました。シールドギリギリの人たちが何人か……はい、はい、お願いします」
 迎えの手配を済ませると、山岳帽を脱いだ。動き回って頭にも汗を掻いている。屋上を通り抜ける風が涼しい。

 何気なくスマホを確認しようとすると、暗い画面に自分の顔が写っている。時たま性別を間違われる中性的な顔立ちだ。この外見のために相手の油断を誘えることもあるので、まったく損ばかり、ではないのだが……。
(もう少し男らしくなりたいなぁ)
 春先に筋トレジムの体験に行って、妙なイノシシ型ナイトメアに邪魔されたことを思い出す。
(筋トレは継続って言うし……でも、普段から武器振り回してるんだから、もうちょっと筋肉ついてくれても良いんだけどな)
 試しに力こぶを作ってみた。あるにはあるが、筋肉隆々と言うには遠く。
 うんうん唸りながらあちこちの筋肉を確かめている内に、迎えが来た。愁はさっと姿勢を直すと、それまで悩んでいたことはおくびにも出さず、
「動けないのがあの人たちです。ロックは倒しました。もう起きないと思います」
 優秀なライセンサーの顔で告げるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
長い得物ぶん回してる人が間合いを詰められた時に拳でぶん殴るシーンとか好きなのでやりました。
実際、夢を飾る彩の詠唱をしている間、全くしゃべれないかどうかは定かではないんですが、今回テキストの描写重視でしゃべらないことにしてあります。
容姿とのギャップ、という面においてどうやって描写しようか考えた果てに出たのがヒールロックなんですが、ご容赦頂ければ。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年09月14日

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