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『鏡写しの二人』
桃李la3954


 桃李(la3954)が攻撃を受けた時、辺りには煙が立ちこめた。その向こうからヴァージル(lz0103)が発砲してくる。防御する暇も無いような射撃なので、グスターヴァス(lz0124)は舌打ちをした。
「桃李さん! 無事ですか!」
「うん、無事みたいだよ」
 煙の中から声がする。が、二人分……高いのと低いのが聞こえるような気がするのは、煙の作用だろうか。
「……?」
 しかし、ヴァージルも眉間に皺を寄せている。今いるナイトメアは、別にヴァージルの配下と言うわけではなく──そもそも、ヴァージルはカリスマがマイナス方向にカンストしているので配下と言うものがいない──彼にも性能や攻撃方法がイマイチよくわかっていないのだ。
「お前の友達一人じゃなかった?」
「やっぱり二人分聞こえますよね?」
 敵味方の垣根を越えて、二人がひそひそと話していると、やがて煙が晴れた。すると、そこに現れたのは……。
「あれ!?」
 グスターヴァスは目を剥いた。ヴァージルも怪訝そうな顔をしている。
 そこには……男性と女性、二人の桃李が並んで立っていたから。


「ちょっとぉ! どうしてくれんですかこれぇ!」
「俺に言うなよ!」
 グスターヴァスはヴァージルの胸倉を掴んで揺さぶった。ヴァージルも相手の手首を掴んで引きはがそうとするが、半ばパニックに陥ったグスターヴァスは壊れた玩具の様に強い力で離さない。その肩を桃李が……男性の方がぽんと叩いた。
「まあまあ、落ち着いてグスターヴァスくん」
「これが落ち着いていられますかぁ! っていうか、なんか減ったりはしてないんですか?」
「うん? そうだねぇ、減ったりはしてないと思うけど、どうかな?」
「ちょっと失礼。よっこいしょ」
 グスターヴァスは桃李をひょいと抱き上げた。先日、彼が大怪我をして捕まった時も、抱きかかえてキャリアーまで運んでいったが、その時から極端に軽くなったりはしていないようだった。女性の桃李がにこにこしながらこっちを見ている。
「俺も抱き上げてみる?」
「いえ、元の桃李さんが減っていないなら大丈夫だと思うので……」
 グスターヴァスはこの数十分で随分と疲れ切った顔をしていた。ヴァージルに至っては理解を投げ捨てた顔をしている。
「よくわからんが、両手に花で良かったな……」
「異常事態に鼻の下伸ばすほど脳天気じゃございません……とりあえずSALFに連絡……」
 グスターヴァスがSALFに連絡を入れている間、二人の桃李はくすくすと笑い、
「面白いことになったね」
「ね。いつまでこうなんだろう」
 などと言い合っている。
 ヴァージルはそれを眺めながら、
(元々何考えてるかわかんねぇ野郎だが、こうして分裂しても全然慌てねぇって、もっとわけわかんねぇな……)
 首を横に振った。
「桃李さん、SALFから至急帰還せよとの連絡です。帰りましょ。ああ、あなたは見逃してあげます。次は承知しませんからね」
「良いから、とっとと帰ってどうにかしてやれ」


「ね、グスターヴァスくん」
「ひえ、何でしょう」
 帰りのキャリアーの中で、二人の桃李がグスターヴァスを挟むようにして声を掛けてくる。桃李には親しみを感じているグスターヴァスではあるが、ナイトメアの攻撃で二人になったとなるとかなり心配だし、それでも全く気にしない、面白いとすら言ってグスターヴァスをからかってくる桃李にはかなりどぎまぎしてしまう。
「折角だから三人で散歩しないかい? キャリアーって広いじゃない。俺が二人いて……片方は女の子だなんて、こんな機会滅多にないよ」
「滅多にないっていうか、あってたまるかな異常事態なんですが……!」
 結局はグスターヴァスが折れて、三人はキャリアーの中をぶらぶらと歩く。歩きながら……グスターヴァスは思った。
(そう言えば、亡くなった桃李さんのお姉さんって双子なんでしたっけ)
 目の色が紫紺色だったとか。この女性は瑠璃の瞳で桃李本人なのだろうが、仲睦まじく話をしているところを見ると、在りし日の二人……そして悲劇さえ起らなければこう在ったかもしれない二人の双子の姉弟を思わずにはいられない。
 桃李が楽しげなのは……もしかしたらそう言うところもあるのだろうか、とグスターヴァスは思ってしまう……。
「あ、グスターヴァスくん、前」
「え?」
 女性の桃李に声を掛けられたが、気付いた時にはドアの縁に頭をぶつけていた。


 SALFに戻ってきちんと調べてもらったところ、どうやら桃李のIMDを強制的に絞り出した上で人型に成形されたもの、らしい。桃李のイメージも多分に入っているため、桃李のように振る舞っているのだとか。
「ほんとですかぁ?」
 なので、明日にでも消えるだろうと言う事。
「そうかぁ」
 自分と瓜二つの女性が消えると言われても、自分が消えると言われても、どちらの桃李も平然としている。
「せっかく面白いことになったと思ったのに、じゃあグスターヴァスくん、今日一日、付き合ってよね」
「ええ、お供しますよ」
「妙に素直じゃない?」
 鏡写しの二人はくすくすと笑う。


「グスターヴァスくん、一口どうだい」
 何かおやつでも食べに行きましょう、とアイスクリーム店に赴くと、厳しい残暑のせいか、店には行列が出来ていた。三人で並んで、ようやく目当てのアイスが買えたころには、日が沈み掛かっている。女性の桃李もスプーンに一口掬ってこちらに差し出しており、グスターヴァスは自分のアイスも二人に分けた。
「もう夏も終わってしまうねぇ」
 桃李は自分のアイスを食べながら、八月よりもうんと涼しくなった風を受けて目を細める。
「……お前ら、まだそのまんまだったのか……」
 覚えのある声に顔を上げると、ヴァージルがやはりアイスを持って立っていた。桃李は、先日かき氷を食べたことを思い出す。氷菓子が気に入ったのだろうか。
「それ、何味だい?」
「わからん。一番たくさん残ってるやつ選んだ」
 奇妙な四人組と化した彼らは、アイスを一口ずつ交換した。
「彼女、明日には消えてしまうそうだよ」
 桃李がそう告げると、ヴァージルはちょっと怪訝そうな顔になってから女性の桃李を見て、
「そうか……泡にでもなるのか」
「それはわからないけど、それでも面白いかもしれないね」
 変わったことは全て「面白い」。そう言って呑み込んでしまう桃李に、得体の知れなさでも感じただろうか、ヴァージルは首を横に振る。食べ終えるまでは律儀にそこに留まり、アイスがなくなると、
「じゃあな」
 と、律儀に挨拶して帰って行った。二人の桃李は彼を見送って手を振っている。
「それじゃあ、俺たちも戻ろうか」
「もう良いんですか?」
「うん? 良いよ。何かあるかい?」
「いえ、何も……」
 眉を寄せるグスターヴァスを見て、二人はくすくすと笑う。


 翌日、SALF本部を訪れると、桃李は一人で歩いていた。グスターヴァスを見つけて手を振る。
「やあ」
「おはようございます。彼女は?」
「俺のこと?」
 すっとぼける桃李。
「冗談だよ。うん。朝起きたらいなくなっていたね」
「そうですか……」
「そんな顔しないでよ。それで」
 桃李は笑う。
「次はどんな変なナイトメアを倒しに行くんだい?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
あんまりわちゃわちゃもしていなかった気はしますが、残暑の寂しさなんぞをちょっと演出してみたりなんか。
実際ゲーム本編でこういうことが起こりえるかはわかりません。
女性の桃李さん一人称何になるんだろう……と思いましたが、女体「化」ということなので中身は男性かな……と思って「俺」にしてあります。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年09月15日

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