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『万能無限の終着点』
松本・太一8504

 たくさんの魔女たちがひしめき合う中、松本・太一(8504)は話題の中心にいた。
 魔女夜会は、今夜も盛況だ。様々な知識や情報が飛び交い会話を盛り上げ、酒や肴で助長させる。身の回りの小さな出来事から、世界を揺るがすような大きな事件まで、魔女たちは会話を途切れさせることもなく、ころころと話題を変えていく。
 それが常だというのに、その日は違っていた。魔女の中の一人である太一について、延々と話題の中心になっているのだ。これは極めて珍しい事だ。
 一人の魔女が、太一に向かって艶やかに笑う。随分とたくさんの能力を手に入れたのね、と褒めてきた。
「ははは、た、たくさんの私を増やしましたから」
 太一はそう言って、たどたどしく笑う。様々な世界を渡り、様々な世界の自分を見てきた。どの世界の自分も、今の太一とは違い「魔女」にはなっていなかった。
 毎日に疲れ、毎日に追われ、同じような時間を過ごし、同じような一日を終えていた。
 太一はその“私”たちを次々に魔女へと変えていった。抱えている問題を解決させるために、そして同時に太一自身の能力を多様化させ強化させる同調を行うために。
 という建前の裏に、自分だけがエロくてピチピチな美女な魔女ではなく、様々な世界の自分もエロくてピチピチな美女な魔女にしてしまうために。
(色んな世界があるのに、私だけがエロくてピチピチな美女の魔女であるなんて、いけませんよね。おかげで、私だけじゃなくなりましたからね!)
 そう、半ば自棄になりながら行っていた魔女増殖だったが、途中からじりじりと理解し始めてきた。
 確かに、増殖からの同調で、太一の魔女としての能力や効果が多様性と強化が適えられた。魔女として、高みに上っているのが分かる。
 だが、理解したのはそれだけではない。
 能力や効力と共に、エロさや恥じらいも多様化し強化されてしまったのだ。
 無限の多種多様な、万能無限の力と知識。
 元になっているのは、無限の“私”。そのため、暴走などの制限もない、融通の利く力だ。
 様々な能力を感じるたび、様々なエロスも感じられる。
 強化された効果を確認するたび、無限倍にも膨れ上がった恥じらいも確認される。
(なんという事ですか)
 はああ、と大きなため息を太一はつく。
 強大な力を得る代償が、大きすぎる……!
 頭を抱える太一に、魔女たちが口々に「どんな魔女にしたの?」「どういう感じ?」と尋ねてくる。
 基本、魔女は好奇心旺盛だ。そうでなければ、知識も能力も衰退しているのだけれども。
 太一は意を決し、口を開く。
「いろいろな並行世界に行ったんですけれど……あるところでは、私は死ぬ寸前でした。遺書を目の前に置いちゃったりして」
 太一がそう言うと、魔女たちから「やだー」とか「こわーい」だとか「マジで?」だとか、声が上がる。くすくすという笑い声と共に上がる声は、太一を思いやってというよりも冷やかしや賑やかしの方だろう。
「そこで、その死ぬ原因をなんとかするために、力を与えたんです。会社が良くないのだろうことは分かっていましたので、それを改善するために。その……ラミアの力を」
 太一の言葉に、魔女たちが沸き上がる。拍手や笑い声、歓声が上がる。
「無事、解決できたようです。諸悪の根源である上司を、物理で」
 太一がそう言うと、魔女たちから「殺したのぉ?」と質問が上がる。太一は慌てて首を横に振る。
「とんでもない! ちょっと、お願いをしただけですよ。ちゃんと近所迷惑にならないように、音も遮断したんですから」
 そう、ちゃんとお願いをしただけだ。物理で。
「あとは、やっぱり蘇生能力はとても魅力的だと思ったので、それを」
 太一が言うと、魔女たちから歓声が上がる。蘇生や再生魔法は、魔女たちの間でも人気が高いようだ。
「もちろん、どの“私”も、もれなくエロくてピチピチした美女な魔女にしてやりましたよ。エロかわ美魔女に!」
 ぐっとこぶしを握り締めながら言うと、ブラボー、という称賛の声と共に大きな拍手が沸き上がった。あちこちでグラスがぶつかる音がする。
 乾杯、乾杯!
 色々なところから聞こえてくる声も、音も、どれもが太一を称賛していた。さらなる高みに上った魔女を、どの魔女も絶賛している。

――立派な夜宵の魔女ね。

 脳内で、女悪魔の声がする。
 彼女も魔女夜会にいる魔女たちと同じく、太一を称賛してくれていた。様々な並行世界に行き、その世界の“私”を魔女に変え、同調していった。いかなる時も、女悪魔と共にあった。
「私は、立派な夜宵の魔女に、なったんですね」
 口にすると、妙な実感がわいてくる。
 溢れ出てくる万能感が、体の隅々にいきわたっている。同時に羞恥心も湧き上がるのだが。

――それで、これからどうするの?

 女悪魔の声に、太一はぷるんと肉厚な唇に指をあてる。
 目的であった万能無限の力と知識を得ることはできた。感じ取れるエロさと恥じらいも無限倍だけれど、それはさておき万能無限の魔女となったことには違いない。
 その力を使えば、きっとなんだってできるだろう。
 世界征服だって、縁の下の力持ちだって、元の生活だって、救世主になることだって。
 きっと、なんだってできる。
「そうですねぇ」
 太一は呟き、辺りを見回す。
 未だ終わらない魔女夜会は、太一の話題を含めて盛り上がっている。乾杯の声はやまないし、強い魔女の誕生を喜んでいるし。
 かと思えば隣の家にいる犬がうるさいだとか、明日ゴミの日だから忘れないようにしなきゃだとか、妙に日常感のある話も聞こえる。
 太一はその光景を眩しそうに見つめたのち、ふふ、と小さく笑う。
「思いつきません。せっかくえた力と知識ですけれど、どうしましょうか」
 困ったような言葉なのに、その声には一切困った様子はない。それどころか、どこか楽しそうな雰囲気すらある。
「でも、そうですね。とりあえずは、どういう使い道にしようかと考えるのもいいかもしれませんね」
 太一はそう言うと、ううん、と大きく伸びをした。
 何とも気の抜けた返答に、太一の中の女悪魔は少し笑ったようだった。そして、どこかほっとしたような。
「……あっ!」
 太一は何かに気づいて叫ぶ。大きく伸びをした瞬間に、ぽろん、と大きくたわわに実った軟かな胸が、服から飛び出そうになっていたのだ。
 太一は顔を真っ赤にし、慌てて胸を両手で隠す。その様子を見て、周りの魔女たちの笑い声が広がった。
「もう、もう、恥ずかしいですからっ……笑わないで、くださいっ!」
 真っ赤な顔のまま慌てる太一に、魔女たちの笑い声はやまない。
 万能無限の魔女も、恥じらいには相変わらず勝てないのね、と口々に魔女たちが囁き合う。
「きっと、これからも」
 服を直し、ぽつり、と太一は呟く。
 きっとこれからも、魔女夜会は盛り上がっていくことだろう。万能無限の魔女である、夜宵の魔女と共に。
 それが妙にくすぐったくて、心地よくて、太一は静かに微笑んだ。
 太一の中の女悪魔も、同じように微笑んでいるようであった。

<楽しい魔女夜会は続き・了>

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは、霜月玲守です。
増殖の旅は、終着点に到達しました。楽しい旅を、辿り着く場所まで書かせていただきました。
万能無限の魔女となった太一さんは、きっとこれからも溢れ出る万能感を持て余し、時に恥じらい、魔女たちと夜会を楽しんでいくことと思います。
この度は、東京怪談ノベル(シングル)を発注いただきまして、本当に有難うございました。
またいつかお会いできることを、楽しみにしております。
東京怪談ノベル(シングル) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月18日

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