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『暗い暗い暗い中での。』
ファルス・ティレイラ3733

 人食い洞窟。
 そんな噂を耳にした。

 ……じゃあ、人じゃなければ大丈夫かな、なんて頓知みたいな思い付き。



 別世界より異空間転移してこの“世界”に――“東京”に訪れた、紫色の翼を持つ竜族であるファルス・ティレイラ(3733)にしてみれば。そんな話を耳にして、更には一度気になってしまったからには――その旺盛な好奇心に抗う術は無い。
 ……と言うか、抗うなんて思い付きもしない。
 なので、当たり前の様にその「噂の人食い洞窟」の調査に行ってみてしまう訳である。

 ちょっとした頓知みたいな思い付きを根拠に、普段取っている人間の姿から、本性の竜姿に戻った上で。



 竜姿でも余裕で活動出来る位の巨大な洞窟だったのは幸いだった。
 ……と言うか、逆に鍾乳洞の洞内空間が予想外に広過ぎて、噂にある“人食い”の根拠は実はただの遭難だったりするかもと俄かに頭に過ぎる。

 が、そうでもない事はすぐにわかった。
 警戒に警戒を重ねての調査を続けた結果、ちょっと看過出来ないレベルの魔力反応が見付かったからだ。これで“ただの遭難”はまず無い。これで遭難するならまず“只ならぬ何か”が起こっての結果になるだろう。……それこそ“人食い”と呼ばれるに相応しい“何か”が。
 鍾乳洞の奥まった所、自然の芸術作品とも言える大小様々な造形の鍾乳石が目立ち始めた辺り。時折奇妙に風が鳴る様な音がする。それが鍾乳石の合間を通るただの隙間風では無く、魔力のうねりとしか思えない時がある。側を通るだけで、近くに“音”が聴こえるだけでひりつく様な感覚。まるで何かを捕らえようと渦巻いている――そんな風に思わせる“風”である。

 ……これ、絶対危ないよね。

 ここは普通にある洞窟である。
“人食い”などと言う不穏な噂が人の口の端に上る位、その気になれば誰でも訪れる事の出来る場所である。
 つまり、いつ誰がこの魔力に捕らわれても不思議じゃない。

 ……何とかしなきゃ。

 ただの好奇心だった所から転じて、沸々と湧き上がる使命感。それは、こんな神秘的な場所のこんな魔力。私だけでどうこう出来るものじゃないかもしれないけど、それでも、どうにかするヒント位は頑張れば得られるかもしれない。
 なら――この魔力の源を探そう。探して、調べて、何とか出来そうな誰かに託そう。

 ティレイラはひとり、そう決めてみる。



 慎重に、慎重に。
 渦巻く魔力に捕らわれない様に気を付けつつ、竜姿のティレイラは洞内の更なる奥へと進む。何となく、頭がくらくらする様な感じもあるかもしれない。けど、まだ、大丈夫。そう自分に確かめつつ、ティレイラは新たに足を踏み出す。途端の地表の頼りなさ。息を呑む。足を――竜脚を止めるが、遅い。
 踏み出したそこから、足下が崩れた。

 同時に、うわんと重く歪む様な音がする――崩れた足下は、また広い空間が広がっていた。その“音”のせいか、咄嗟に竜翼を羽ばたかせる事すらし損ねた。つまり、飛翔出来ていない。足下が崩れるままに自由落下――をする最中に、圧にも似た風が、音が――そう感じられるひりつく魔力が、すぐ側にまで。
 足場も無く避けられない、けれどティレイラは今度は竜翼を羽ばたかせる事には成功した。その羽ばたきで漸く飛翔する態勢が整えられ、咄嗟にひりつく魔力の圧も躱せた。躱せたが――躱した事で、却ってこちらの位置が“それ”に補捉されてしまったのかもしれない。ひゅおう、うわん、と新たな風が――ひりつく魔力がそれまで以上の頻度で次々とティレイラを捕らえようと襲い来る。まるで意思でもあるかの様な動き――風だけでも魔力だけでも無い。その“圧”は恐らくは地下水なのだろう弧を描く液体の鞭まで伴っている。
 その鞭の端がティレイラの巨体に俄かに掛かる。と――掛かった所の表面が、白っぽくなり固まっている事に気が付いた。石灰の様な質感の――思う間にも、次が来る。躱し続けるが、切りが無い。相手が水の鞭ならと火を吐いて掻き消そうともするが、掻き消した側から次が来る。
 そうこうしている内に、着地する――気が付けば地の底の地面があった。が、魔力の“圧”は止まない――止まないどころか、増えている。最早物理的に触れられる程の“圧”。前肢で払い、咆哮で震わせ、竜翼で撃ち付け、それらの“圧”を払い続ける。が、払えば払う程“圧”は増え、石灰の如き質感の何かはどんどんとその身に塗り重ねられて行く。重ねられる度、ティレイラの動きも鈍くなる。魔力に中てられてくらくらする感覚も酷くなる。
 これじゃ駄目だ! と思うがどうにもならない。
 それでもなけなしの抵抗を重ねる。重ねるが――……

 ……――ほぼ、意味を成さない。



 鍾乳洞の奥深く。
 暗い暗い暗い中。
 ぴちゃん、ぴちゃん、と僅かに水の滴る音が響き渡っている。
 その音の反響からすると、洞内はかなり広い。
 もし誰かがその洞内の壁面に触れたなら、しっとりと濡れた様に艶めいた鍾乳石が、その壁を覆い尽くしているのがわかっただろう。
 壁だけではなく、地表も、洞の上部も、そこここに垂れ下がる氷柱石も、乱立する石筍も。
 そんな中にある一際大きい、まるで竜の様な形にも見える“それ”すらも。

 これもまた自然が作り出した驚異なのだろうか。
 まるで、巨大な竜が何かから逃れようと足掻いている――もしくは戦っている様な、妙に躍動感と迫力のあるその造形。
 蝙蝠めいた両翼に見えるその部分は、今にも飛び上がりそうに大きく広げられており。
 確りと力強く地面を踏み締めている、竜脚の後肢に見える部分。
 何かを押し退け、払っている様に伸ばされた、前肢の様に見える部分。
 その指先――に見える部分には、鋭く長い爪にしか見えない部分まで確りと具えられている。
 まるで躍動感ある姿勢のバランスを取る様に、先が尖った尻尾も跳ね上げられている。

 鼻先、マズルの尖った蜥蜴めいた形状の、竜の頭部にしか見えない部分がある。
 その“頭”の上部には、まるで鹿めいた大きな角が一対生えている様で。
 眼球に――目にしか見えない部分には、何が映っているのだろう。
 咆哮する様に開けられたままの大きな口――にしか見えない“そこ”には、鋭く長い牙や、舌らしき形状すら見て取れる。……そう、その口内は、本来なら健康的に赤味を帯びている筈の部位。
 口内、なのだ。
 本当に。

 この躍動感ある巨竜の鍾乳石は、竜姿のティレイラ、だった筈のモノである。

 けれど本来の体色であった筈の紫色は何処にも見出せない。
 見出せるのは、鍾乳石の如き僅かに褐色を帯びた白。石灰を含んだ色。この場を支配する色。雨水で溶けた成分が伝い、垂れ続け、垂れた名残を保ちつつ、長い長い年月を掛けて独特の形に再び固まったが如き。
 人食い洞窟に――鍾乳洞に、その噂の通りに取り込まれてしまった結果が、これだ。

 垂れ下がる氷柱石は巨竜を巻き込み、もう、地面に届く程にまで成長している。
 本来、氷柱石は千年掛けても数センチから数十センチしか成長しない物なのに。
 時の概念すら、ここでは意味を成していないのかもしれない。
“人食い”と呼ばれる所以の、洞窟に渦巻く魔力はここまでやってのけている。
 これでは誰にも託せない。
 最早ティレイラ自身が、助けを待たねばならない羽目になってしまっている。

 暗い暗い暗い中で。
 たったひとりで、ずっと、そこに。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 ファルス・ティレイラ様にはいつも御世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。そして今回もまた大変お待たせしました。

 内容ですが、ピンナップイメージのいつもと違う雰囲気でお任せ、との事でしたが、こんな形になりました。何故か洞窟の足下が抜けて落っこちてしまったり、好奇心から使命感に切り換わる様な行動動機になったりしてしまっていたのですが……如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月23日

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