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『最大の懸念事項が一段落ついて後の話。』
黒・冥月2778

 草間興信所の入る雑居ビルの屋上。
 依頼に漸く本当の意味で目処がつき、一段落ついて後の事。
 元々、黒冥月(2778)がこの場所に来たのに用事らしい用事は特に無い。
 ただ何となく、ここからの景色が見たくなっただけ。

 それだけの事だった、のだが。

 不意に後から現れた草間武彦(NPCA001)の方は、同じ理由でここに来た訳では無い様だった。
 隣に来るなり、こちらを見もしないまま言葉だけが投げられる。

 お前にしちゃ随分らしくないな。
 使えない連中をあれだけ抱え込んでどうする。
 技術だけ奪えばいいって話に行くのがお前だろ。

 ただの気の無い雑談と言うにはやや険があり。
 どうやら、あろう事か私を心配して言い出した文句の様で。

 つまり、元々ノインの人造魂を手に入れようと狙っていた“鋭さと愚鈍さが同居している”組織『迅』を逆に自分の配下として取り込んで、当のノイン絡みの困り事を解決する為に現在進行形で使役している件である。

 使えない連中――何とかと鋏は使い様。奴らは中々に使えそうな技術だけは持っている。
 世間知らずも甚だしいが、知恵をつければそれなりに使える様にも化けるかもしれない。

 そこまで伝えたなら、今度は――そうなったらそれこそどう出て来られるかわかったもんじゃないだろ、とまだ食い下がってくる。……少し妙だとも思う。寧ろ草間の方こそ、信頼の名の許にそういった甘い判断をする事は多いと思うのだが。
 なのに何故、そこまで食い下がる?

 まぁ意図は知らんが、無視する必要がある程の話でも無い。
 裏切らない限りは面倒看るさ――軽い気持ちで、そう話を纏めておく事にする。

 が。





 お前は裏切られたのにか。





 その一言が返って来た時点で、すぅっと空気が冷えた。裏切られた。そこに言外に籠められた意味が――この草間との“出会いになる時の一件”とは別だとわかってしまった以上は。
 黙って受け流す訳には行かない。

「何故それを?」

 短くだけ問い、軽く睨む。
 受ける草間のその貌からして、こちらの認識に誤りは無い事を確信する。

 さて、どうするか。



「いや、情報源はいい、お前も探偵の端くれだ――だが言葉は選べよ。理由次第では赦さんぞ」

 新興組織の勢力拡大、そこに絡んだ少女の誘拐。草間との出会いの時になる“その件”もまた、当の過去に重ねられる裏切りはあったのだが――その、原点たる別の過去が冥月にはある。

 大陸に居た頃に専属の兇手――暗殺者として所属していた幇――闇組織を抜けようと試みた時の話。
 丸く収まる筈だった。
 その為の条件として数多の努力を重ねた結果、組織を抜ける事を、組織の幹部に何とか認めさせる事が叶っていた。
 叶っていたのだが――その後に当の組織に理不尽な災禍が振り掛かる。
 傘下に入る様、強いる虚無の境界からの圧力。陰に日向に、手段も問わず。
 組織の幹部は、程無く屈した。
 それでも、幾らかでも有利な立場にと組織は交渉も考える。元々手放す予定だった――けれどまだ本当の意味で切れてはいない兇手とその連れ合いを、懐の痛まぬ土産として利用する位の事ならすぐに思い付く。
 とは言えこれまで認めた全ては反故、代わりに更なる闇に浸かれなどと言うそれこそ理不尽な話、されれば拒むのが当たり前である。理不尽の転嫁を考えた幹部達とてわかっていた筈だ。
 冥月達は元々、組織を抜ける事を認めさせられる程の交渉を行えていた訳である。
 だからこそ、きちんと理と利を説き更なる交渉を重ねれば、穏便に拒む事も叶うと考えた。考えて粘り強く実行を試みたのが、組織の幹部の一人でもあった冥月の恋人。
 けれどその時にはもう“理屈”の段階は過ぎていた。拒んだ時点で、道は一つに決まっていた。
 冥月の恋人は殺害された。
 その時の詳細は思い返す必要も無い。
 全てを知った時点で、冥月がした事は、一つだけ。
 報復。復讐。言い方はどうでもいい。ただ、外部組織の圧力如きで勝手に踊り、自分と恋人を裏切った組織の殲滅を。誰一人残さず、跡形も無く全滅させた。
 が、幾ら殲滅させたとは言え元が大陸に広く根を張る闇組織である。当の組織自体は露と消えても、関わり深い親族たる組織はどうしても数多あり、更には懇意たる中枢の党員すら存在した。
 即ち、当の組織を潰した冥月が国内に居られなくなるまでにも、然程時間は掛からなかった。

 それで、恋人の故郷でもあった日本へと渡る事になる。
 出来る事として用心棒や裏の仕事を日々無為にただこなし。誰も信じる事無く生き続け――そんな折に草間と出会い。

 色々あって、今に至る。
 ……現実に戻れば、当の草間も今ここに居る。
 理由次第では赦さないと伝えた。……さあ、お前はどう答える?

「気になっただけだ」

 気負いもせず、それだけを。
 草間は今度こそこちらを見る――その目に怯惰の色は無い。
 過去の“私”を“本当に”わかっていて、それか。

 虚無の境界が原因だと言える、冥月の辛い過去。
 そして今回のノインの件も、虚無の境界が深く関わる事である――と言うか、依頼人がそもそも虚無の広告塔と言って差し支えないエヴァ・ペルマネント(NPCA017)である。

「今更だが、深入りして良かったのか」
「恨んでいたならあの時にエヴァもノインも殺していたさ」

 彼らが虚無の境界の霊鬼兵と知った時点で。初めて会った時点で。事情など聞く事も無く。零の――草間零(NPCA016)の事も考えず。
 殺して――“消して”いただろう。

「裏切りや殺し合いは日常だ。昨日の敵が今日仲間なのもな」

 ずっとそんな世界で生きて来た。

「虚無の境界が直接の仇でもない」

 私の剣幕を見て何もせず引っ込んだ様な連中だしな。……つまりその位、連中としても“どうでもいい”組織に過ぎなかったんだろう。復讐に猛り狂う影使いの女兇手からわざわざ護る気にならない程度にはな。
 ……そんな連中に引っ掻き回されただけで、いつかと夢見た未来も居場所も喪った。
 だから。

「私達が弱かった、それだけだ。
 ……それにそんな事で依頼を断ったら――『あの人』にプロ失格と怒られる」

 あの人に。
 想起するだけで込み上げる物があってしまったのは、ただの気の迷い。
 今の私に、そんな繊細な揺らぎが許される居場所は――『女』で居ていい場所は無い。

「零が喜ぶならそれでいい」

 彼らには自分が出来なかった事を――掴めなかった居場所と、未来を。
 叶うのならば、恋愛を。私の代わりに。そこまでは言わない。草間の視線が外される。お前がいいなら。それだけを残して、私に背を向ける。見られたくないと察してか。味な真似。
 衝動的にその背にこつりと。
 顔を隠す様、頭を預ける。
 草間もそれを、受け止めてくれる。

「要らぬ気遣いだ」

 それだけを告げておく。
 でも。
 私がまた人を信じられる様になれたのはお前のお陰。
 言葉には出さずに、内心だけで続けて呟く。

 それから、暫く、そのままで――……





 ……――居たのだが。

 カンカンカンカン、と外階段を上って来る音が妙に高らかに響き渡る。その時点で我に返る。誰か来た――思った時点で、突き飛ばす勢いで草間の背中からばっと一気に離れた。そのせいか草間が咳込んだ気がするが、それより自分を取り繕うのが先。今の様な不覚な姿を他の誰かに晒す訳には行かない。

 ……それこそ“らしくない”時間は、これで終いだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 黒冥月様にはいつも御世話になっております。
 今回も続きの発注有難う御座いました。そして今回のみならず結局最後まで大変お待たせしそうな気配です。
 どうぞ御容赦を。

 内容ですが、今回は最終回ではなくサイドストーリーが挟まれましたか。重要な情報とお見受けするので諸々読み違えてなければいいのですが……ひとまず出会い時の一件と所属組織全滅させ時の一件は別……と見てよかったんですよね? そんな基本的な所からちょっと自信が無かったりもするのですが(汗)
 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルの方で。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月23日

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