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『初めての温泉旅行』
銀龍la4012)&フェイ・F・ブランディングla2893

●老舗旅館へ
「到着したわね! あら、ちょっと良い感じじゃない?」
 銀龍(la4012)は、送迎車から降りて傍らのフェイ・F・ブランディング(la2893)に声をかけた。
「おー、ホントだな、銀ねぇ! 評判通りっぽいぞ!」
 フェイも銀龍と同じように目の前の建物を見上げてはしゃいだ声を上げる。戦闘時にはいつも黒い仮面を被っているフェイだが、今日はずっと素顔のままだ。
 今二人の前にあるのは、とある温泉地の老舗旅館。
 古めかしさがありながらも立派な佇まいで、雰囲気の良い宿だ。
 銀龍とフェイは、今日二人初めて一緒にお泊りする一泊旅行に来たのだった。

 二人はどちらも放浪者で、こちらの世界に来てから知り合った。
 出身世界も違うし髪の色も目の色も似ている所はないけれども、何故か気が合い、接しているうち銀龍はフェイを弟のように、フェイも銀龍を姉のように思い慕うようになった。今では実の姉弟同然で一緒に暮らしている。
 その二人の仲の良さは普通の姉弟よりも姉弟らしく、本当は身内ではないと疑う者などいないだろう。

 部屋に案内され仲居さんから一通り施設の説明などを聞き終えると、フェイは早速窓際に走る。
「銀ねぇ見てみろよ、あそこに湖が見える!」
「ホント、最高の景色! 良いお部屋に案内されたわね」
 銀龍が景色を眺めている間、フェイはもう室内のあちこちを見て回ったりしており、旅館が珍しくて仕方ないのか落ち着きがない。
 銀龍もフェイも、ライセンサーとして依頼で各地に、それこそ外国にだって何度も行ったことがあるが、全部キャリアーで飛んで行ってしまうから、こういう普通の『旅行』はしたことがなかった。
 今回はちゃんと公共の乗り物を使って移動してここまで来たので、フェイは列車内でもはしゃぎ倒しており、銀龍はそんな弟の様子を微笑ましく思っていた。
「おっ、銀ねぇ、クローゼットに浴衣が掛かってるぞ」
「それは温泉から出たら着替えるのよ。さ、夕飯は部屋に持って来てくれるから、それまでに温泉に行って来ましょ」
「おう! 温泉てどんなのだろうな〜」
 銀龍が促すと、フェイもいそいそと自分の荷物を開ける。
「ちゃんと下着の替え持って来た?」
「当たり前だろ〜。温泉メインで来たんだからな!」
「ふふふ、そうね。私も楽しみだわ」

●混浴風呂にて
 ということで、二人は旅行の目的だった温泉のある大浴場へと向かった。
 湯あみ着をレンタルし、二人は開放感あふれる混浴の露天風呂へ。

「夕暮れが良い感じだなー!」
 滑らないよう足元に気を付けながら、フェイは辺りを見回す。
 風情のある岩風呂で、何人か先客はいるが、空いているのであまり騒いだりしなければ迷惑は掛からないだろう。
「わぁ、思ったより広いのね! 素敵! あ、ほらフェイ、ちゃんと掛け湯をしてから入るのよ」
 長い黒髪をアップにした銀龍は、いつもと違った感じでどこか大人っぽい。ちなみにフェイも長い三つ編みが湯に浸からないように上の方にまとめて留めている。
「むん、分かってるぞ」
 銀龍が自分に湯をかけ、フェイにも掛け湯をしてやる。
 それからお湯に足を沈めていった。
「ん〜、気持ちいい〜!」
「うわっ、あっついぞ銀ねぇ! よくそんなするっと入れるな!」
「ゆっくりと入れば大丈夫よ。段々慣れてくるから、初めは熱いかもしれないけどちょっと我慢してみて?」
「う〜……」
 姉に言われて、フェイはゆっくりと湯に浸かっていく。
(慣れるまでガマン、ガマン……!)
「ん、ホントだ……、段々慣れて来たかも。いい湯だな、銀ねぇ!」
「でしょ? ここのお湯は美肌効果もあるんですって! うふふ」
 言いながら銀龍はお湯を自分の肌になじませるようにかけて、なでたりしている。
「銀ねぇもっと綺麗になるのか? 今以上に綺麗になっちゃうなんてどんなふうになるのか想像つかないぞ」
「あら、この子ったらお世辞が上手くなっちゃって」
「お世辞じゃないぞ。銀ねぇは今でもすごく綺麗だぞ」
「ありがと。フェイにそう言ってもらえて嬉しいわ」
 真面目な顔で言う弟の頭を、嬉しくなった銀龍は思わずなでる。
 フェイにとって銀龍は綺麗で優しい自慢の姉で、銀龍にとってフェイは無邪気で可愛い自慢の弟なのだ。
「あ、ごめんね、濡れた手で」
「どうせ洗うんだから構わないぞ。銀ねぇが嬉しいと俺も嬉しいし」
「ふふ、私もよ」
 銀龍は頭をなでられて満足そうなフェイに、花のような笑顔を見せるのだった。
「フェイこっち、ライトアップされた景色が良く見えるわ」
「おっ、ホントだな!」
 そうやって二人で景色とお湯を楽しんだ後は、洗い場で背中の流しっこをする。

「どう? 気持ちいい?」
 フェイのまだ自分より小さい背中を洗ってやりながら銀龍が聞くと、フェイは
「もちろん、銀ねぇが洗ってくれてるんだから気持ちいいに決まってるぞ。次は俺が洗うから、銀ねぇ後ろ向いて!」
「はいはい、よろしくね」
「おう、任せろ!」
 今度は銀龍がフェイに背を向けて、フェイがその珠のような肌の背中をごしごし。
「どうだ銀ねぇ?」
「とっても気持ちいいわ、上手ね」
「良かった! こういうの楽しいな!」
 二人は仲良く背中を流して、もう一度お湯に入る。

「あ〜、全身がほぐれる感じね。日頃の疲れが溶けていくみたい」
 銀龍がゆったりと湯の中で体を伸ばすと、フェイも真似して同じように体を伸ばす。
「ホントだな〜。すごく癒される〜」
 そうやって二人はたっぷりと温泉を堪能してから上がったのだった。

 浴衣に着替えた銀龍が大浴場を出ると、既にフェイが待っていた。
「フェイ、髪の毛もっとちゃんと拭かないと湯冷めしちゃうわよ? それに帯の結び方も無茶苦茶ね」
「えぇ〜、そうか?」
「ほら、お姉ちゃんがやってあげる」
「むー」
 本人はきちんとできていると思っていたのだろう、不本意そうなフェイの様子にくすくす笑いながら、銀龍はフェイの濡れた髪を自分のバスタオルで丁寧に拭いてやり、帯もちゃんと結び直してやる。
 銀龍には異世界にいた頃仕えていた主がおり、その主の身の回りの世話などをしていたため、こういうことには慣れているのだ。むしろこうやって弟の面倒を見るのが楽しかったりする。
 フェイの方もあれこれ世話を焼かれるのは時々気恥ずかしくなることもあるが、まんざらでもなかった。
 今までこんなふうに家族のように接した誰かなんて知らなかったから、こうやって自分を気遣ってくれる銀龍が傍にいることが素直に嬉しい。
「はい、できた。それじゃ、お部屋に帰りましょ。そろそろご飯の時間だもんね」
「ん、ありがとな銀ねぇ。どんなご飯なのか楽しみだぞ!」
 と、二人手を繋いで部屋に戻るのだった。

●夕飯と散策
 夕飯も中々豪勢な和食御膳で、新鮮な魚の刺身盛り合わせから地元野菜の煮物や揚げ物、この地方で有名な和牛のサイコロステーキ等、盛りだくさんの品々がテーブルに並ぶ。
「うん、この天ぷら衣がサクサクで野菜の風味もあって美味しい!」
 銀龍は旬の野菜に舌鼓を打ち、
「刺身もステーキも脂がのってて超美味いぞ!」
 フェイはもりもりと刺身やステーキを平らげる。
「このご飯も美味しいわね〜」
「おかわり!」
「フェイ、サイコロステーキ一個食べる? 私もうお腹いっぱいだから、フェイにあげる。たくさん食べてね」
「銀ねぇがそう言うならもらうな! うー、美味い!」
 とか言いながらどれも美味しくいただき、デザートに至るまで二人は残さず全部食べた。

「さすがにもうお腹いっぱいだぞー」
 ふー、とフェイがお茶を飲み干して一息つく。
「野菜もちゃんと食べて偉いわ、フェイ」
 よしよし、と弟の頭をなでる銀龍。
「美味しかったから全部食べられたぞ!」
 得意気にフェイは喜んで、もっとなでろとばかりに大人しく頭を差し出している。そんな弟の仕草がたまらなくて、ついつい何度もなでてしまうのは銀龍の秘密だ。
「それじゃ、少し休んだら出店回ってみよっか」
「おう!」

 今は観光シーズンだからか、旅館の前の通りには屋台の出店が並んでいるのだ。
 銀龍とフェイはのんびり歩きながら出店を見回ってみる。
 フェイはここでもテンション高く、
「あ、射的やりたい!」
 と射的屋に寄れば姉にイイとこ見せようと景品を狙い、
「あら、ヨーヨー釣りだって。やってみようかな」
 と銀龍がヨーヨー釣り屋に目を留めると
「じゃあ俺もやる! どっちがたくさん取れるか競争だぞ!」
「言ったわね。お姉ちゃんだって負けないわよ!」
 二人一緒になって遊んだり。
 他にも輪投げや玩具のすくい取りなんかもやって、お菓子だけでなくよく分からない玩具のロボットやソフビ人形などの景品が両手いっぱいになってしまった。

「あー、いっぱい遊んだなー!」
「色々あって楽しかったわね〜」
「ふあ〜ぁ」
 ひとしきり遊んで旅館に戻る途中、フェイが大あくびをした。
「疲れちゃった? 今日は移動も長かったしね。早めに寝よっか」
「むん、別に平気だけど、銀ねぇが寝るなら寝る」
 姉の手をしっかり握りつつもそんな強がりを言うフェイが可愛くて、銀龍は頬を緩めてしまう。
「ふふ、そうね、私も疲れちゃったから、明日に備えて寝ましょ」
「うん、ならそうする」

●就寝、そして帰宅
 部屋に帰り着くと既に布団が二人分延べられていた。
 荷物の整理をして就寝準備を終え、銀龍が布団に入る。フェイは一瞬もう一つの布団を見たが、ためらわずに銀龍と同じ布団へもぐりこんだ。そして姉にぴたりとくっつく。
 お互いの体温が心地よく、銀龍も自分にだけはそうやって甘えてくるフェイをまるで子猫みたいねと思いながら、そっと頭をなでてやる。
 今日はたくさん遊んでたくさん笑ってたくさん食べてたくさん癒された一日だった。
「銀ねぇは、今日楽しかったか?」
 ふと思い出したように、上目づかいでフェイが尋ねてきた。
「もちろん! 来て良かったわ」
 にこりと笑った銀龍に安心したのか、フェイもうん、とうなずく。
「また旅行しような」
「今度は海にしよっか。それとも……」
 などと話しているうち、徐々に銀龍の声が小さく途切れがちになって――、やがて寝息に変わった。
 疲れていたのだろう。
 フェイもうつらうつらしてきた意識の中で、一瞬自分の出自のことが頭をよぎる。
 フェイには両親がいたという記憶がなく、今まで自分には銀龍のような身内、『家族』と呼べるような存在がいたのだろうか、と考える。
 この世界に来たばかりのフェイはそういう優しさや思いやりというものが分からず、他人に対してぶっきらぼうで、興味もなかった。でも、銀龍のおかげで今は愛情がどういうものか分かるし、銀龍といると胸が温かくなる。
 そんな自分は嫌じゃない。
(なら、いいのか……)
 たとえ自分に本当の家族がいなかったとしても。
(今は銀ねぇがいるし、幸せだから良いか……)

 フェイは考えることを止め、眠りに落ちた……。


 次の日は早めに起きて、寝乱れたフェイの格好にひとしきり笑った後、二人でもう一度朝風呂を堪能した。それから、チェックアウト前に旅館の土産物屋を見ることに。
「私はこの温泉の素とスキンクリーム買おうかしら」
「あ、これ地域限定だって」
 銀龍が入浴剤を選んでいる脇でフェイはお菓子をどんどんカゴに入れていく。
「このキャラクター、地元のキャラなんだ」
 いくつも同じキャラクターのグッズが並んでいるのを見たフェイは、コースターを色違いで一つずつ取って銀龍に見せた。
「これ、おそろいで買うぜ!」
「うん、カワイイ! 今回の旅行の思い出になるわね」
 銀龍も嬉し気に承諾する。
「そんなにたくさん、持って帰れる?」
「大丈夫だぞ!」
「私も持つから、無理しないで」
 頑張るフェイに笑みを隠しきれず銀龍も手を貸してやる。

 二人は両手に荷物を抱え、たくさんのお土産と思い出と共に、帰路につくのだった――。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご注文ありがとうございました!

まるで姉弟のように仲良しで微笑ましい温泉旅行ということで、私なりに想像力を働かせながら精一杯書かせていただきました。
お二人にとって良い思い出となり、気に入っていただけましたら幸いです。

どこかイメージと違う所や「ここはこうしてほしい」という部分がありましたら、細かいことでも構いませんので、ご遠慮なく(なるべくお早めに)リテイクをお申し付けください。

またご縁がありましたら嬉しいです。

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2020年09月24日

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