▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『魔法戦馬少女・みなもちゃん』
海原・みなも1252

 アンティークショップレンで、碧摩・蓮(NPCA009)は、ううん、と唸っていた。そこに、海原・みなも(1252)が勢いよく「こんにちはー」と入ってきた。
「あれ、碧摩さん、どうしたんですか? そんなに唸って」
 みなもが尋ねると、蓮は「これだよ」と言いながら、店内の一角をキセルで指す。
 そこにあったのは、甲冑だった。戦国時代の軍馬に取り付ける、甲冑のような形状だ。
「わあ、かっこいいですね。新入荷ですか?」
「そうなんだけどね」
 蓮はそう言って、苦笑する。
 蓮が言うには、その甲冑は装備したものに強大な力をもたらしてくれるというのだ。ただ、強大な力と言われても、どういう意味での力かがまず分からない上、装備したものに何らかの変化が与えられるのではないか、というのだ。
 蓮が装備してみても良いのだが、そうすると変化が自分では分からないかもしれないし、万が一甲冑が脱げなくなっても困るのだという。
「つまり、碧摩さんじゃない誰かが、試着してみたらいいっていう事ですよね」
「そういうことになるね」
 蓮はそう言って、みなもをじっと見つめて、にっこりと笑った。みなもは一瞬意味が分からず小首を傾げるも、すぐに意図を理解し、ぱちん、と手を打つ。
「つまり、あたしに試着してほしいってことですか!」
 みなもが言うと、蓮はこくりと頷いた。満足そうだ。
「試着は構わないんですけれど、もし脱げなくなったらどうするんですか? 強大な力を得るんでしょう?」
「なんなら依頼でも出すさ」
「依頼って……まさか、あたしの討伐依頼とか出さないですよね?」
 みなもが慌てて言うと、蓮は「もちろん」と言って笑う。
「甲冑脱着依頼だよ」
「甲冑脱着依頼……字面だけで、すごい威力があるんですけど」
 脱げなくなった甲冑を巡り、今まで出会ってきた人々がみなもに対峙し、じりじりと脱がせようと近付く場面を想像し、みなもは「あはは」と空笑いする。
 なんとも迫力のある絵面だ。
「もし脱げなくなったら、ちゃんと碧摩さんが何とかしてくださいね? 約束ですよ」
 みなもが念を押すように言うと、蓮は何度も頷いた。妙に笑顔なのが気にかかるけれども。
 みなもは意を決し、甲冑を取ろうと両手を伸ばす。そして両手で甲冑を持ち上げると、ぱあああ、と甲冑が光り始めた。
「こ、この光は、一体」
 驚くみなもをよそに、甲冑は光を更に増し、みなもを包み込む。
 虹色の光が、リボンのようにみなもの体を包み込む。まるで水中に浮かんでいるように、みなもの体はその光の中でふわふわと漂う。
 リボンたちがみなもの手を、足を、腰を、くるくると巻き付いて包み込んでいく。巻き付いたリボンは更にぐるぐると回転を加速させ、虹色の光はいつしか銀色へと変化していく。

――ぱんっ!!

 巨大な光の玉ができたかと思うと、一気にそれは弾けた。光の粒子がみなものまわりから溢れ出て、みなもの変身した姿をあらわにする。

 馬だ。
 銀色メタリックな馬だ。
 金属製サイボーグ的な馬だ。
 色んな武器を内蔵装備させられている馬だ。

――馬だ!!!

「えええええ!!」
 みなもは思わず絶叫する。
 先程までのキラキラ魔法エフェクトから、この完成形は予想できない。リボンやら虹色やら光の粒子やらが出てきたのだから、そこから出現するのは魔法少女的な存在なのではないだろうか。
 それなのに、現実に現れたのは、馬。
 呆然とするみなもに、ぱちぱちと拍手の音が聞こえた。そちらを見ると、蓮がにこやかに手を叩いている。
「……碧摩さん、どうして手を叩くんですか?」
「かっこいいなと思って」
「確かに、かっこいいかもしれませんけれど。でもこれ、あたしが思っていたものと違うんですけれど」
「強そうだよ」
「確かに、強そうですよね。人間より獣の方が強いですし、手近にいる馬は扱いやすくて強いですよね」
「武器もあるし」
「確かに、各種重火器や重装甲なんかを内蔵装備させたら無敵ですよね」
 蓮はみなもの一通りの解析を聞き、満足そうにこっくりと頷いた。
「強大な力だね」
「あああ、違うんですよ! あたしが想像していたのと、違うんですよぉ!」
「強いよ」
「そうですけれども! 強いと思いますよ、馬ですもん。サイボーグっぽい馬ですもん。武器もいっぱい持ってますもん。強いでしょうけれども!」
 ぶるるるる、とみなもは唸る。唸り声が馬なのが、ちょっと悲しい。
「それで、試着してどうだい?」
「どうって、どういうことですかね? きついとか大きいとかそういうのでしょうか。そういうのでしたら、きつくもないし大きくもない、ぴったりフィットしてますよ。馬ですけれど」
 みなもが半ば自棄になりながら言うと、ぷっと蓮が噴き出した。
「碧摩さん、失礼ですよ。あたし、ちゃんと感想を言っているのに」
 みなもが言うと、蓮は軽く謝る。どうも表面上だけっぽい謝罪だ。
「でも、確かに強いとは思うんですけれど、力の試し打ちとかは難しそうですね。このお店、壊れちゃうでしょうし」
「そうだねぇ」
 蓮はそう言い、みなもの甲冑に手を伸ばす。ちょうど馬の額辺りについている綺麗な宝石部分に触れると、シュン、という音がして馬がみなもに戻った。
「……戻るのは、一瞬なんですね」
 変身するときは、結構時間がかかったような気がするのに。みなもは嬉しいような、もっとエフェクトを感じたかったような、複雑な気分だ。
「って、碧摩さん。もう試着はいいんですか? まだ、力とやらを試してないですけれど」
「それは別の機会だね。店を壊されちゃ、敵わないよ」
 苦笑交じりに蓮は言い、甲冑を元あった一角に戻す。
「すんなり戻れてよかったです。あたし、あのまま馬になったままだったらどうしようかと思っちゃいました」
 みなもは軽く頬を膨らませる。蓮は、ごめんごめん、と軽く謝る。そして、力の確認はどうしようかねぇ、と小さく呟く。
「それこそ依頼を出しちゃえばいいんですよ。強大な力が一体どれほどのものか、ぜひ確かめてくださいって」
 みなもは思いつき、提案する。脱げなかったときに出されそうになっていた甲冑脱着依頼よりも、ちゃんと脱げると分かった上での力試しの方が、安心して受けてくれそうな気がする。何しろ、この店に集まる人々は、多種多様な力を持っているのだから。
 みなもの提案に、いいねぇと蓮は返す。そして、続けてにやにやしながらキセルを口にくわえ、ふう、と煙を吐き出しながら口を開く。
「その時は、あんたがまた試着してくれよ?」
「え、なんであたしが」
「経験者だろ」
「多分ですけど、経験の差はそこに存在しないと思いますよ。ただ手に取って、エフェクトを経て、馬になるだけです。そう、銀色メタリックな金属製サイボーグ的な馬に」
 みなもは言いながら、遠い目をする。思い返しても、あれは詐欺だと思った。可愛らしいエフェクトの後に、近未来な馬は出てこない。通常の考えならば。
 おそらく、このアイテムを作成したのは、通常の考えを持ち合わせない人だ。間違いない。確実に、ちょっと……いや、大分おかしい人だ。
「じゃあ、また明日よろしく」
「だから、やりませんってば!」
 そう返しつつも、みなもには妙な確信があった。
 蓮に上手い事言いくるめられ、明日も馬になるのだろうな、と。

<明日もきっと馬に・了>

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせしました、霜月玲守です。
今迄、海原・みなもさんを描かせていただきまして、ありがとうございました。
初期の方からのお付き合いで、とても感慨深いです。
今回のノベルも、少しでも気に入って下さると嬉しいです。
これからも、みなもさんはいろんなバイトをしつつ、いろんな事件に巻き込まれ、毎日楽しく過ごしていかれることでしょう。
この度は東京怪談ノベル(シングル)を発注いただきまして、ありがとうございました。
またいつかお会いできることを、楽しみにしております。
東京怪談ノベル(シングル) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年09月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.