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『輪郭の形』
cloverla0874


 スーパー銭湯が新しく出来たから行こう、という話になった。clover(la0874)はグスターヴァス(lz0124)の運転で、地蔵坂 千紘(lz0095)と子供みたいな話をして笑いながらそこへ辿り付く。今日はいつもの青い髪の少年ボディがメンテナンス中なので、少女ボディの四葉モードだ。
 車を停めて、入館料を払う。館内着を受け取ってカウンターから数歩離れると、cloverは立ち止まった。
「どうしたの? 知り合い?」
 千紘が尋ねると、cloverは困った様に彼を見上げる。
「お腹痛いんですか?」
 グスターヴァスも首を傾げた。
「そうじゃなくて、俺ってどっち入ればいいのかなー……って思って」
 そう言って、ヴァルキュリアは脱衣所の入り口を指した。それぞれののれんには大きく「男」「女」と書かれている。
「あー……そうね……」
 cloverは、今のボディこそ女性であるが、本人の性自認は男性であるらしく、今は「体は女の子、心は男の子」と、体と心の性が一致していない状態にある。
「ちょっと座って話す?」
 千紘の提案で三人はcloverを挟んでベンチに腰掛けた。
「おっぱい見れるのは嬉しいって思っちゃう」
「そのための銭湯じゃねぇけどな」
「でも、なんだろ……こう、何か違うんだよね」
「違うとは?」
 グスターヴァスが慈愛の笑みで首を傾げる。
「いつもの青い俺の体の時だと『わーい、おっぱいがいっぱいだーっ』って思うんだけど、この体の時って『おっぱいは癒やしっ! おっぱいは正義っ!』って思う」
「胸に対する意識が変わるんだね。やっぱりボディで多少判断や人格に影響が出るんだ」
「そうなのかなー……」
「僕は女湯の方が良いと思うけどね」
 千紘は唸った。男湯でじろじろ見られるのは間違いなく怖いだろうし、男性客も、女性の見た目をしたcloverが何食わぬ顔で同じ湯船に浸かっていたら驚くのではないか。
 その一方で、性自認が男性のcloverが女湯に入って、女性の胸部を見てしまうのもどうなのか、という気はしている。本人には言わないが。
「私もそう思いますよ。その方が安心でしょう」
 グスターヴァスも大真面目だ。
「それ以前に、年齢制限引っかかるんじゃない?」
 少なくとも、十七歳が異性の湯に入れるとは聞いたことがない。
「それに、男湯来たら僕たちもいるよ」
 ヴァルキュリアは、男性ボディ時ならさほど体格の変わらない青年の顔を見上げてぱちぱちと目を瞬かせた。
「そっかー……男湯入ったら千紘おにーさんやおじさんと一緒かー……」
「そうだよ。嫌でしょ?」
「……千紘おにーさんには見られてもギリ気にしないかもだけど」
「実際見られたら嫌だと思うよ。あと、それで喜ぶ奴からは逃げろよ」
 cloverはちら、とグスターヴァスも見上げる。
「おじさんには何か無理かも……シンプルにヤダ」
「そりゃね。自然だと思いますよ」
「見るのって普通に干渉じゃん。じろじろ見られると嫌だし。だから、そんな申し訳なさそうな顔すんなよ。誰にだって触られて良いわけじゃないのと一緒だと思う。僕だって触らせる相手は選ぶし」
「そうかー……あっ、言っとくけど、おじさんが嫌いとかじゃないからねっ」
「わかってますよ」
 「近所の愉快なおじさん」と認識しているグスターヴァスに、女性ボディの裸を見られるのは抵抗がある、という事だろう。千紘は比較的若年で、普段の自分と同じく中性的な見た目をしているからギリギリ大丈夫と予想しているのだろう。とは言え、実際に見られたらショックではないかと千紘は思っている。裸を晒すというのは、想像よりも怖いものだ。
「そもそも、親しいなら誰にでも裸を見せられる、と言うわけでは決してないと思いますよ。私だって裸見せる相手は選びますし」
 グスターヴァスが何故か胸を張る。
「それって」
 cloverは真顔になった。
「見せたい相手がいるってこと? 彼女? おっぱいは? その人の前では裸エプロンできるの?」
「あのね」
「わかってますっ」
 姿勢を正した。改めて脱衣所の入り口を見て、
「えー、じゃあどうしようかなぁ。男湯はちょっとって思うけどー……女湯もなぁ、良いのかなって思っちゃうし」
「じゃあ、お風呂はよしとく? 今度cloverが青いボディになったら三人で男湯入れば良いのかな?」
「そうですね。今無理にどっちかに決めて後でもやもやするよりも、わだかまりのない状態で来るのが一番ですから」
「四葉の時にどうするかは、また考えたら良いよ」
「んー、じゃあそうしようかなっ」
 一行はベンチから立ち上がると、脱衣所に背を向けた。


「フレーバー牛乳飲み比べですってよ」
 グスターヴァスがメニューを見て言った。
「銭湯のフレーバー牛乳とかコーヒー牛乳一択でしょ」
 千紘は息巻いている。
「はいっ! 苺牛乳も捨てがたいと思いますっ!」
 cloverが挙手した。

 折角入館料を払ったから、他の設備を堪能しようと言う事で三人は館内のレストランに来ている。

 各々が食べたいものとフレーバー牛乳を注文する。頼んでから何気なくメニューを見て、唐揚げにレモンはかけるかどうかとか話しながら、運ばれてくるのを待った。
「それでさ……」
 cloverは極めて真剣な顔でグスターヴァスを見る。
「おじさんが裸を見せたい人って……どんな人? 出会いは?」
「特定の誰かのことを言ってるんじゃないですよ! ていうか裸を見せたいとか、私が積極的に露出したがってるみたいじゃないですか」
「ぐっさんってほとんど露出しないもんな」
 戦闘時は概ねあの丈の長いローブみたいなのを着ている。強いて言うなら、手袋と袖のスリットの間のわずかな隙間から腕の肌が覗いているくらいか。今日はハイネックの長袖でやはり露出はない。
「反動で……」
「そう言うことはありませんから」
 注文したものが運ばれてきた。グスターヴァスはこれ幸いと話題を変える。
「あ、来ました来ました。はい、グリルハンバーグは私です」
 各々の前に料理が置かれる。カトラリーを取って、「頂きます」を唱和した。
「おじさんの美味しそう!」
「一口あげましょうか」
 グスターヴァスはにこにこしながらハンバーグを切り分けて、一口分をcloverの皿に乗せた。
「僕の唐揚げも一個あげちゃう」
 千紘が唐揚げを追加する。
 風呂から上がったのか、徐々に人が増えてきた。多くが家族連れやカップルで、ともすれば奇妙な取り合わせを注目することはない。
 あちこちで注文の声が上がり始めた。賑やかなレストラン、その空気の一部を作るように、cloverたちは他愛ないおしゃべりをして食事を楽しんだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
書き始めるとすっごい難しいテーマだな……! と驚愕しました。私にとっても良い機会でもありました。
あくまで今の段階で三田村が書ける精一杯がこれ&一意見なので、ご発注者様やcloverさんが他の納得できる答えを見つけられるならそれが一番良いと思います。
「悩みを聞く」というお話でしたが、なんかNPCが上からになってしまったのが申し訳なく。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年09月28日

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