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『もしもの話』
桃李la3954


 北米インソムニア・ミラーキャッスル攻略に際して、ワンダー・ガーデンの主を撃破して、少ししてからのこと。桃李(la3954)はSALFの休憩所に座って、ぼんやりと行き交う人々を眺めていた。制服を着ている者、私服を着ている者、様々だ。私服も、地球なら各国、放浪者ならその数だけの文化の現れで、一人として同じ格好をしている者がいない。桃李もその内の一人だった。ノーネクタイの洋装の上から、派手な女性ものの着物を羽織っている。今日の着物は桃色だ。春のイメージがある色だが、秋にも桃色の花は咲く。

 大きな戦いが一つ終わったせいか、はたまた涼しくなった気候のせいか、桃李も少しセンチメンタルになっているようだ。
(まだ時間はあるとはいえ、考えておかないとなぁ……)
 彼が考える、というのは、今後の身の振り方のこと。オリジナル・インソムニア攻略も視野に入り始めている。戦いの終わりは近いのかも知れない、と思い始めているのだ。
 この戦いが終わったら、俺はどうしたら良いんだろう?

 桃李は、何か目的があってSALFに所属したわけではない。退屈な人生の色づけになれば良いと思って所属しただけだ。本来なら、ここに長く留まるつもりはなく、一区切りが付いたら、誰にも何も告げずにここを去るつもりだった。

 長居しすぎたような気もする。

 仮に、オリジナル・インソムニアを攻略したとしても、世界中に散らばったナイトメアの残党狩りや、被害の出た地域のケアなども必要だ。SALFという組織も、ライセンサーの仕事もしばらくはなくならないだろう。
 ふと、一人の男性の顔が思い出された。最近行動を共にすることが多い、グスターヴァス(lz0124)の顔が。
(───……あぁ、でもグスターヴァスくんが居るなら、まだここに居てもいいかもしれない)
 あの、頭のネジが抜けているような……そうかと思えば、周りがボケ始めると慌てる難儀な男。ワンダー・ガーデンでも、桃李が件の兎に背中をざっくり斬られるや、すぐに抱えるようにして連れ出した。

(それとも……グスターヴァスくんは、どこか行くところがあるのかな?)

 あの男には、SALFから抜けるつもりがあるのだろうか。ライセンサー以外の仕事をしているグスターヴァスというのは、少々想像できないような……いや、そうでもないだろうか。

(何か……ライセンサー以外にしたいことがあるのかな……もしそうなら、ついて行ってみようかな)
 違うことをしているグスターヴァスを見ているのは、きっと退屈しないことだろう。
(……まあ、彼が許可してくれたら、だけどね)
 きっと許可してくれるだろうと思う一方で、目を伏せながら申し訳なさそうに断る姿も想像できた。やっぱり、ちょっとセンチメンタルになってるみたい。断られる方に予想が傾いている。

(とは言え、グスターヴァスくんはどうするんだろう)
 ついて行きたいと言うのも、グスターヴァスがSALFを出る場合の話で、もし留まるなら、桃李も残ろうと思う。グスターヴァスの身の処し方で自分が取る行動は決められるが、その前提である彼の行き先は全く分からなかった。

 しばらくSALFに残るのだろうか。
 ……それとも、帰るところがあるのだろうか。夢で見た洋館を、「祖母の家に似ている」と言っていた彼にはきっと家族がいるのだろう。存命かどうかは別であるが、何気なく口に出して存在を知らせることのできる家族は。

「……なぁんだ」
 そこで一つの事実に行き当たって、桃李は言葉を漏らす。

(……なんだ、俺……。彼の事、殆ど何もしらないんだ……)

 その事実が良いか悪いかは別として、唐突に自覚したそれは桃李の寂寥感を増した。

 膝を抱えて、改めて人の流れを眺める。
 ここから彼がいなくなる日が来る。
 その時、自分は残るのか。
 一緒にいなくなるのか。

 そんなことをぼんやりと考える。

「桃李さん、どうしたんですの? 具合悪いんですか?」
 不意に後ろから声が掛かった。反射的に振り返ると、グスターヴァスが心配そうにこちらを見下ろしている。いつものことだが、目に光がない。大柄ではあるが、実は身長だけなら桃李よりも少し低い彼に見下ろされるのはあまりないことである。

「やあ、グスターヴァスくん」
 桃李は微笑んで見せた。上手く笑えているかわからない。
「隣、良いですか?」
「うん。勿論だよ」
 了承を得ると、グスターヴァスは回り込んでソファの隣に座った。桃李の方を見て、
「どうしちゃったんですか? お疲れですか?」
「うーん、そうかもしれないねぇ」
「ワンダー・ガーデンもぶっ壊しましたからね。お疲れが出たのでしょう」
 目に光はないが、その表情は優しい。子供にするみたいに背中をさする。
「グスターヴァスくんって」
 桃李はそこで言葉を切った。何て尋ねたら良いんだろう。「オリジナル・インソムニアを攻略したら、ライセンサーを辞めるの?」とでも訊こうか。もし辞めて転職すると返ってきたら、「俺も一緒に行って良い?」とでも言ってみようか。

 そうは思っても、いざ本人を前にするとなかなか言葉が出てこない。グスターヴァスは不思議そうに首を傾げていたが、無理に聞き出すようなことはせず、桃李の言葉を待っていた。

「……お腹空いてない?」
「空いてます。ご飯でも行きましょうか? 涼しくなりましたし、体が冷えてお腹が空いていると落ち込んじゃうのでは?」
「別に落ち込んでいるわけではないけど、そうだねぇ」
 桃李はすっかり、普段道理の笑顔になってグスターヴァスを見た。
「ちょっと疲れているかもしれないね」
「それは大変。暖かくて美味しいものを食べに行きましょう。スープが美味しいイタリアンを知っているんですが、どうですか?」
「良いね。グスターヴァスくんの紹介なら、きっと美味しいね」
「いつも美味しいお店教えて頂いておりますので。行きましょうか」
 二人は立ち上がる。

 さっきまで桃李が見ていた行き交う人々。二人もその一部になって、出口に向かって歩いていく。

 少なくとも、オリジナル・インソムニア攻略まではグスターヴァスもライセンサーを続けるだろう。その後の事は、全てが終わってから、改めて尋ねれば良い。

 建物を出ると、秋の風が二人の間を吹き抜けた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
NPC関連のことで未公表の設定に関わることはネタバレになるので書けないのですが、仮にグスターヴァスが転職するなら何になるんでしょうね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年09月28日

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