▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『大海原は、今日も晴れ!』
海原・みなも1252

●人魚と海の関係
 海原・みなも(1252)はふと思った。
 人魚なのに、人魚らしく泳いだことがほぼない、と。
 人間暮らしをしている人魚仲間や関係者に聞いても、やはり、なかなか難しいという。
 深海は泳いだとしても、水面は人や機械の目といった制約がある。
 まだ、深海はそこまでない。例えば、潜水艦や機械の目があっても、水面ほどの精度はない。徐々に狭まっている感覚はあるという。
 そのような中、みなもは泳ぐということについて考えた。
 水泳部で幽霊部員をしているけれども、人間の姿で泳ぐのと人魚の姿で泳ぐのは全く性質が違う。
 外は、真夏。
 真夏と言えば海。
「そうです、海に行ってみましょう!」
 これまで学んだことを生かし、人魚として海を堪能してみることにしたのだ。
「最悪、海に潜りごまかします」
 そうなる前に様々な手段でどうにかしたい。
 やってみないと分からないからこそ、みなもは地図を見て場所を定める。水平線に囲まれた大海原。
 それが自分が目指すべき場所。
「どこをスタートとします?」
 そこにまず出かけ、人目を忍んで海に飛び込むことにするのだった。

●何が来るか分からない
 海流を利用して、みなもは目指す海域に流される。世界一周しないように用心する。
 ザアと流されて、たぶんこの当たりだと思う所で下りる。
 海水浴を楽しみたいので、水面に浮上したい。浮上するならば、安全第一で見つからないようにしないといけない。
 船や潜水艦などがあるか、水を伝う音を頼りに確認する。
 今、近くに何もいないようだ。水上に存在する空に何かいる可能性も注意する。
 水面近くに行くと、耳を澄ます。
(大丈夫そうです?)
 頭だけこっそり出る。
 空を見た、周りを見る。
 青い空と海の果てが存在していた。
 水平線には雲くらいはあるけれども、特に何もない晴れた空。
 みなもは歓喜する。
 まさに三百六十度水平線だ。船に乗っていればありうるかもしれないが、泳ぎに来てそれはなかなか体験ができない。
「山ではないですが『やっほー』と言いたくなりますね」
 くるりと周り、景色を見る。何周かして、水面に横になる。
 仰向けで浮かび、空を見る。空は青く、雲は真上には少ない。
 波も穏やかで、浮かんでいる分には影響もない。
 ぷかぷか、ふわふわ浮かんでいる。まるでハンモックで昼寝をしているようなだった。
「……気持ちがいいですね……」
 表情は自然と緩む。
 しばらくぼんやりとしていたところ、じわじわと焦げそうな太陽の熱にはっとする。
「泳ぐために来たんでした!」
 浮かんでいるだけでは、目的は達成したとはいえない。
 どこに泳ぐか考えるが、見える範囲に目標物はない。
 改めて、海のど真ん中ということを知る。
「思いっきり泳いで、そこで引き返せすなり、クルクル回ればいいですね」
 人の目もないし、独り占めの海域だ。
 尾びれを使い、一気に加速する。加速しすぎて、少し上がった波に乗り上げた。
 ふわりと、宙を舞う。
 ドボンと海に着地した。
「……ふふっ!」
 想定外が起ったけれども、水の上なので痛くもないし、むしろ楽しかった。
 ここで我に返る。
「……そうでした。人の目は直接なくても!」
 空高く、さらに高くにある監視衛星の類を注意しないといけないのだ。
 ドローンも危険だが、衛星よりは気づきやすいはずだ。
 人魚がいるとか未確認生物がいるとか映ると困るため、衛星対策がいる。
「霧を発生しておきましょう」
 海水に接触しているみなもを中心に全方向に作るのが一番簡単だ。
 ただし、濃い霧の中となり楽しみが減りそうだ。
「話のネタにはなりますけど……」
 誰かに披露するものではないのだから。
 最初の考え通り、霧を展開する。
 自分中心に、水面から浮かぶ水を思い描く。そこから、屋根や壁のようにな形として、うっすらとした霧にした。
「これでごまかせるでしょうか?」
 太陽の光も通くらい薄くても隠す機能があればいい。
「もっと濃い霧の方がいいでしょうか?」
 自分が楽しむこと、人魚がいるということが世間に知られないことを両立させるにはどうするかが難しい。
 ごまかせているかどうかは今のみなもが知ることが難しい。
 悩んでも仕方がないため、心持ち霧を濃くしてから、泳ぐのを再開する。
 霧で光の動きが変わり、それがそのまま水面に落ちる。光の屈折や反射が増えたのか、幻想的な雰囲気ができた。
「万華鏡みたいです」
 泳ぐと波紋が広がり、また、見え方が変わる。
 みなもは水面に顔を出して泳ぐ。
 太陽が空高くなった事もあり、霧がうっすらあるくらいがちょうど良いかもしれない。
 ふと、水に様々な音が響き出した。
「これは、タンカーでしょうか?」
 それはどこを通るのか、近くならば注意しないといけない。
 海中の様子も変わっていく。
「海辺の海水浴では分からない景色ですね」
 大きな船が近づいてくるのはが黙視できるようになった。
「……ここだけ霧というのも不自然ですよね」
 霧自体が不自然だったとしても、局地的なのはあからさまにおかしい。
 空からと海上から怪奇現象捜索でもされてしまいそうだ。
 霧を広く、高く広げる。タンカーの高さがどの程度か分からないけれど、相当大きいだろうと考える。
 霧の範囲が広い方がおかしくはないはずだ。
 準備が整ったところで、相手がどこを通るか待つ。状況によっては逃げないといけない。
「はらはらしますね」
 みなもはじっとその場で待つ。
 みなもの何十メートルか、百メートル以上か離れた当たりをタンカーが通りだした。
 距離があっても、大きいことがよく分かる。水に伝わる振動を体感する。
 接触したら丈夫だという人魚でもケガの一つや二つはしそうだ。
 タンカーの速度は速いように感じる。それでも、大きさの影響か、なかなか目の前から消えない。
「いつになったら通り過ぎてくれるのでしょうか? まさかっ、不自然だからと気にされているとか?」
 しばらくして、ようやく、船尾が見え、それを見送る。
 ほっと息を吐いた。
 船が立ち去った後も、しばらく霧の大きさは確保し、泳ぐ。
 どうも、今は船が通りやすい時間なのか、他にも通る音がしている。
 みなもの近くには来そうにはないが、下手に霧を解除はできない。
「これは……霧の海になりました」
 性能はそのまま、薄くできるかもしれないが、どうしようかと考える。
 水の中を大きな魚の集団が通る。
「海ならではですね」
 みなもは眺めた。それらは水面のみなもに気づかずそのまま通り過ぎた。
 のんびり泳ぎ、周りの音が静かになったころ、霧を少し薄くした。
 太陽の傾きを感じる。
「……そろそろ帰りましょうか」
 みなもは水に潜りつつ、霧を消す。
 そうすると太陽の光が強くなり、また、泳ぎたいという気持ちが湧きあがった。
「まだ、今度です」
 みなもは寂しそうにつぶやくが、未来を考え楽しそうに笑った。

 夏が終わり、秋が来る。
 海水浴したところの海域での奇妙な話やスクープなどは聞かなかった。
 また行けるように、と考えるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございました。
 タイトルで最終回めいた雰囲気を醸し出してみました。
 人魚が泳いでいるの分かったら、色々問題ありますね。
 では、色々お世話になりました。
 ありがとうございました。ご縁があればお会いしましょう!
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年10月02日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.