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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン3 第12話「WhenYouWant」(終)』
柞原 典la3876


 閉じた瞼の向こうで、グスターヴァス(lz0124)のメイスが空を切る音がする。その時、柞原 典(la3876)が見ている暗闇の中に金色の光が見えた気がした。

 メイスが床を叩く。固い物が砕ける音が轟くと、リノリウムの床がへこみ、ひび割れた。

「往生際が悪いですよ」
 咄嗟に横へ転がって避けた典を見て、グスターヴァスは鉛のような声で言う。
「俺もそう思うわ」
 ヴァージル(lz0103)の顔が浮かんで、体が動いたのだと言う事は黙っておいた。体勢を立て直すその動きは、既にライセンサーのものになっていた。グスターヴァスは再びメイスを振りかぶる。典はイマジナリーシールドを展開して、メイスの頭がぶつかる瞬間に祝福で強化。次の攻撃はどうにか回避する。
 次に踏み出そうとしたグスターヴァスの足を、弾丸が貫いた。
「SALFだ!」
 聞き覚えのある、そして待っていた怒鳴り声。
「兄さん遅い」
 典は思わず文句を言う。
「勝手に相方解消しといて、お前!」
 心のどこかで信じてた。ヴァージルは必ず来る、と。だから彼の出現は典に取っては渡りに船でも晴天の霹靂でもなんでもない。かわしたのも悪あがきなどではなく、ただ来るまで時間稼ぎで生き延びるだけ。
「……俺らしゅうない」
 ひっそりと呟き、首を横に振る。
 ヴァージルはグスターヴァスに向き直った。
「こいつ顔だけはいいけど、守銭奴ですぐたかるし、生活力無いし気まぐれだし、人の善意信じないし、すぐ人に嫌なこと言うし、人の失恋を見世物だと思ってるし……ちゃんと傷つく普通の人間だぜ。お前、美化し過ぎなんだよ」
「兄さん酷ない?」
「事実だろ!」
 並べ立てている内に腹が立ったのだろう。ヴァージルは声を荒げながら雨守の戒杖を放って寄越した。典は左手を開いて受け止める。ぱしっ、と小気味良い音が響いた。口角を上げる。その瞳は鋭く光っていた。
「ぐっさん」
 呼びかける。ヴァージルは他のライセンサーに現在地を伝えていた。
「やったからには、やられる覚悟はできとんのやろ?」


 ヴァージルはスキルの出し惜しみをしなかった。アリーガードで典の前に立ち、メイスをイマジナリーシールドで受けた。その隙に、典は夜叉を発動して氷の蔦をまっすぐに伸ばす。冷気で足元が白く曇った。その中を、鋭い棘が貫く。
 そこに応援が到着した。包囲されたグスターヴァスはメイスを振り回したが、別のゼルクナイトが幻想之壁で庇う。魔法陣で強化された金の泥で抵抗が下がった所に、
「お祈りはあの世で永遠にしとけ!」
 ヴァージルが心射撃を撃ち込んだ。グスターヴァスの動きが止まる。
「──典」
「ん」
 典はにんまりと笑う。
「ほんだら、さよならぐっさん。俺ら多分行くとこちゃうやろうから、もう会わんやろ。達者でな」
 赤い蓮の花が散る。


 倒れて動かなくなったグスターヴァスを見下ろして、ほっとしたのも束の間、どこかでコンクリートが剥落するような音がした。それを聞いて、応援の一人がはっとしたような声で言う。この建物、老朽化で取り壊し寸前だったのだ、と。今の戦闘の衝撃で、どこか決定的なところが駄目になったのかもしれない。
「あかんやつやん」
 典は思わず呻いた。
「ぐっさん、よう住んどったな」
「逃げるぞ」
 ライセンサーたちは、一目散に出口を目指した。ヴァージルは典の手を掴む。
「走れるか?」
「さっきまで戦ってた俺にそれ聞くんか、兄さん」
 ヴァージルはその顔を見ると、全速力で走り出した。典はそれについて行きながら、笑う。
「刑務所の時みたいやわ」
 今追ってくるのは、マンティスではなく、建物の崩壊なのだが。
「絶対手ぇ離すんじゃねぇぞ! 死ぬぞ!」
「はいはい」
 ヴァージルはあの時と同じ事を言う。当時はマンティスを迎え撃つ為にその手を振り払った典だが、今はそれに応じている。
 やはり変わったのだろうな、と思う。
 全員が脱出を果たして、少し経つと、建物は崩壊した。


 消防車と救急車、パトカーが停車している。色とりどりの回転灯で目がおかしくなりそうだ。巻き込まれた一般人がいないかの確認が続いている。大型の救助犬がハンドラーに連れられて駆けて行った。見つかるのは、典の変化を拒否しておきながら、死という不可逆な変化を与えようとした哀れなエルゴマンサーの遺体だけだろう。
「今のわんこ、兄さんみたいやったな」
「どこがだよ」
「人助けに張り切っとるところ」
 救急隊員が近づいて簡単に状態を訪ねた。典が、大したことはない、自分はライセンサーで肉体にほとんど傷を負っていない旨を伝えると、何かあったら受診するようにと告げて去って行った。
 その隊員が、声の届かないところまで行ってしまうと、典はヴァージルを睨んだ。
「……ずっと一人でやって来たのに」
「うん」
 ヴァージルは微笑んでいる。
「二人に慣れて戻られへんやん」
「ふふ」
「何わろてんねん……責任取って相方続けてな」

 それは、自分の変化を受容するような言葉。

 そう言ってふいと顔を背けた典の耳殻は、桜色の染料でも落としたように染まっている。
 ヴァージルはにやにやしながらその肩を叩いた。もう一度自分を見る典に両腕を広げて見せて、逃げないのを確認してから抱きしめる。珍しくされるがままになっていた典だが、やがて、
「長いわ」
 すっかりいつもの調子でヴァージルの腕を振りほどいた。ヴァージルはそんな典に手を差し出した。
「こちらこそよろしく頼む」
 握手を求められている。典は溜息を一つ吐くと、その手を握った。
「お前が望むとき、俺は可能な限り応えるよ」
「ほんまお人好し。そしたらしてほしいことぎょうさんあるわぁ」
「何だよ。言ってみろ」
「まず腹減った。夕飯奢って」
「今日は良いよ」
「今日『は』って何や」
 どうせ自分がちょっと強く出ると折れるくせに。今日だけ、なんて。
「他は?」
「酒飲みたいから帰り送って」
「今日だけだぞ」
 くすくすと笑い合う。止まらなくなって、二人は笑いながらその場を後にした。


 その様子を、一つの影が見ている。それは嘆息してから呟いた。

 やっぱり面白くない。あの男は邪魔だ、と。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
タイトルの「When you want」なんですが、「If」じゃなくて「When」なのは「典さんが望みを言う事は現実にあって当たり前だから」とかそう言うイメージでした。
「あなたが望む」。それは「安全」であったり、「尊重」であったり、もしかしたら「生きる事」かもしれません。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月02日

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