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『2時間ドラマ「怪談蒐集家・桃李 〜神無月の晩に〜」』
桃李la3954


「ねぇ、グスターヴァスくん」
 九月も終わりのある日、桃李(la3954)は助手のグスターヴァス(lz0124)に声を掛けた。
「出雲か京都、どっちに行きたい?」
「ああ〜良いですね。どっちも行きたいですが、京都かなー?」
「じゃ、行こうか」
「はい?」


 行こうか、と言って、すぐに桃李は京都までの交通手段を手配した。あれよあれよという間に、グスターヴァスは荷物をまとめさせられ、十月一日、列車に乗り込む。
「今月は神無月と言うんだけどね、『神様のいない月』と言う意味なんだ」
「えっ、困るじゃないですか。どうして?」
「日本は多神教なんだけど、年に一回、十月には全国の神様が島根の出雲大社に集まる。だから神様が不在になって神無月と呼ばれるんだ。もっとも、留守神様というのもあって、そう言う神様たちは残るらしいんだけど」
「え、じゃあ島根は?」
「島根では『神有月』だねぇ」
「ほえー」
 列車に揺られながら、過ぎゆく景色を眺めた。一人の袴姿の男が通路を通り掛かり……。
「あれ? 桃李くんじゃない?」
「おや? やあ、千紘くんじゃないか」
 グスターヴァスはきょとんとしてその人を見た。身長は百七十センチ程度、濃紺の袴の上は洋風の襟が付いた上着を着ていた。
「どこ行くの?」
「京都だよ。千紘くんは? 出雲?」
「いいや」
 千紘と呼ばれた青年は笑った。
「僕も京都さ」


 青年は地蔵坂 千紘(lz0095)と名乗った。探偵らしい。
「桃李くんとは怪談絡みの事件で知り合ったんだけどね」
 その時に、千紘は関係者の依頼で個人的に調べていたらしい。警察に睨まれながらも協力して事件を解決したんだとか。
「今日も依頼かい?」
「ううん。気候が良くなってきたから旅行に。桃李くんは?」
「俺たちも旅行さ。ついでに怪談か何か聞ければ良いと思うよ。何しろ今日は──神無月だからね」
「桃李くんらしいや。中秋の名月でもあるしね。月が綺麗な晩は何かが起こるぜ」
 千紘はにやりと笑う。

 京都の駅で千紘と昼食を共にしてから、一行は別れた。千紘はお目当ての場所があるという。桃李たちは特に決めていなかったので、そのまま駅前の案内を見てぶらぶらと神社の法へ歩いて行った。
 秋の京都はひんやりとした空気をしていた。心地良い。朱塗りの鳥居をくぐると、いっそう空気が引き締まったような気がした。
「あの中はお留守なんでしょうね?」
 グスターヴァスは社を見た。
「そうだね。いや、それにしても、やっぱり秋の京都は人気だねぇ。紅葉にはまだ早いけど、過ごしやすいからあちこち回りやすいしね」
 桃李はそう応じながら人だかりを見る。が、
「……警察の制帽が見えるね」
 その集団の中に警察官の姿を見て目を細めた。


 どうやら、賽銭泥棒が入ったらしい。話し好きの男性が二人に事情を聞かせてくれた。なんでも、参拝客が途切れた一瞬の隙にこじ開けられ、中身を持って行かれたという。
「硬貨は重たいからそんなにたくさんの金額を持って行けないと思うけどね。それにしても罰当たりだなぁ」
 桃李は肩を竦めた。男性は続ける。でもね、そう遠からず見つかると思いますよ、犯人、と。
「しかし、神様がお留守なのでは」
 グスターヴァスが首を傾げると、彼はひひ、と笑い、神様だけじゃありませんからね、見ているのは……と言う。
「そうだね。神様がいないから却って、と言うこともあるよね」
 桃李もにこりと笑った。


 やがて、日が暮れた。空には美しい月が昇る。それを長めながら、宿への道中を歩く。日没後は流石に気温が下がり、二人は宿への道を急いだ。途中でたまたま千紘と出くわす。
「そう言えば、宿はどこ取ってるの?」
 桃李が宿泊先を告げると、千紘は手を叩いた。彼もそこに投宿しているらしい。せっかくだからと三人で連れ立って歩く。
「今日行った神社でね、お賽銭泥棒があったみたいだよ」
「うっわ罰当たりだぁ。でも、そいつきっとろくな目に遭わないね」
「俺もそう思う」
 二人はくすくすと笑い合う。
 三人で雑談しながら道を歩いていると、前を歩いていた年配の男が子供とぶつかりそうになった。気を付けろ、と悪態をつく。その子供は、しばらくその男の顔をじーっと見つめていたが、やがて指差して、きゃらきゃらと笑い出す。男が拳を振り上げると、逃げるようにしてこちらに向かって走って来た。赤い着物でおかっぱ頭だが、少女とも少年とも付かない顔立ちをしている。
 子供は桃李にもぶつかりかかった。桃李は手を出して抱き留めようとしたが、相手はすんでのところで避け、さよならを言って駆けて行く。子供ながら、なかなかの俊足だった。あっという間に姿を消す。
「元気ですねぇ」
 グスターヴァスがしみじみと言う。再び歩き出そうとした彼らの前で、子供に悪態をついた先ほどの男性が突然転んだのだ。
「あっ」
 千紘が声を上げた、次の瞬間。
「おや」
 桃李も口を開いた。男が転んだ拍子に放り出した鞄の中から、硬貨が大量に溢れ出したのだ。
「……ええ!?」
 グスターヴァスは目を剥いた。
「大丈夫かい?」
 桃李が男性に手を差し伸べる。相手は明らかに狼狽えた様子だった。
「このお金、どうしたのかな?」
 自分の稼ぎだと相手は言った。しかし、硬貨を拾っていた千紘がにやりと笑い、
「この木片さぁ、僕にはお賽銭箱の欠片に見えるんだよねぇ。警察に渡して、こじ開けられたお賽銭箱の破損と合わせたらぴったり一致、なんてことにならないかな? 本当にあなたのお金ならそれくらいどうってことないと思うんだけど、どう? やってみない?」
 男は桃李の手を振り払って逃げ出そうとした。しかし、桃李はしっかり手を握ったまま離さず足払いを仕掛ける。
「ぐっさん、さっき通り掛かった交番のおまわりさん呼んできて!」
「ぐ、ぐっさん?」
 突然千紘から謎のあだ名で呼ばれて、目を白黒させながらもグスターヴァスは交番に引き返し、賽銭泥棒らしき男を捕まえたことを警察官に告げて現場に戻った。男は警察官の問いに対して、正直に犯行を認める。桃李たちは事情を聞かれてすぐに解放された。


「それにしても、あの子何だったんでしょうねぇ?」
 歩きながら、グスターヴァスは首を傾げた。まるで、あの男が賽銭泥棒だと告発するような振る舞いだった。
「さあ……何だったんだろうねぇ。不思議だけど、こういうこともあるよね」
 一陣の風が吹き抜ける。それは桃李の長い髪の毛を浮かせた。見えない誰かが指を通すようにしばらくたなびいていたが、やがてふわりと背中に沿って落ちる。

 神無月の都に、足音が響く。

 人の数だけ……あるいはそれより少し多く。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
本当はもうちょっとホラー感を出したかったんですけど、あんまり出し過ぎると戻って来られなくなりそうだったので。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月05日

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