イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『独りきりで踊れども』
桃李la3954

 薄闇の中、カーテン越しに稲光が一瞬差し込んだ。それは一昔も二昔も前の陳腐な怪奇映画の恐怖演出のようであり、夜に閉ざされて見えない奥から廊下を駆け行く無数の足音が響いてくる始末だ。ここにいるのは倒せる相手だと解っていても一切耐性のない人だったなら両足が竦んで己の役目も忘れて、逃げ出したかもしれない。吹き付ける暴風がカーテンを捲り上げ、半端な暗さに馴染まない視界には閃光弾にも感じられる光が目を刺激する。その際に浮かんだ異形のシルエットを瑠璃色の瞳で桃李(la3954)はしかと見据え、都会の夜を彩る人工的な照明のように眩い金は恐怖に陥ることもなくただ只管冷静に現状を受け止め、吐いた息の浅さにだけ先程の戦いの面影が存在した。
「解ってはいたけど、正にこれこそが多勢に無勢ってものなんだろうねぇ」
 そう口にした言葉、また声のトーンもこの逼迫する状況に似つかわしくもないやけに呑気なものだ。当然だが自殺願望はなく、絶望して全て諦めているわけでもない。ただ普通のものより広い廊下の窓際に、複数設置されている椅子に腰掛けている様は平静そのものの口調と共にそれがもし麗らかな昼間の景色だったとしたら日常の一コマとして絵になる程の光景にも見える。間に多く部屋へ続く扉のある廊下は長くて、そうこうしている内にも押しつ押されつしつつ敵の群れが迫って――そう至り漸く緩やかに桃李は腰を上げて手に提げていた鉄扇を開く。
「まぁ……俺自身が言い出しっぺなんだからやるべきことはきちんとしなくっちゃ、ね」
 幸い、これまでの戦いで何か怪我を負ったというわけでもないのだ。だからこそ、しんがりなんて危険な役目を買って出たのだと数分前の己を振り返って思いつつもやはり恐怖は薄かった。一般人を助けて脱出するというのが今回の任務である以上は、それが最善だろうと理解しているのもあり、また別に勝算がない絶望的な状況ではないというのも大きい。なにせすぐ近くには救護班が待機していて、救助者をそちらに引き渡せば味方達は合流をしに戻ってくる。つまり全滅を目指す必要はない為急場凌ぎが出来ればそれで充分。敢えて身動きが取りにくい廊下を選択したのもそれが理由だ。敵は超小型ではあるが多く囲まれればひとたまりもない。だが隘路ならそれを問題なく防ぐことが出来る。所詮成態と油断せず対策を講じなければならないものの――と桃李は薄く唇を開く。
 もしも己を縛り付けるものがあるとすればそれは糸の形を取るだろうか。その糸は常識という多数決によって決められた曖昧な価値観に基づき、輪から外れた存在を異端と見做しすぐ排除する。今では魔女狩りのように生命ごと奪われることはないが、じわじわその心身を蝕み、いずれは首を絞めて、殺すと考えたならさしたる違いはないのかもしれない。蜘蛛の糸のようにそれ自体は敵を痛めつけることはせずただ相手を拘束する。前方が詰まれば当然後ろも身動きが取れず、知能の低さを証明するかのようだ。時間を稼ぐ隙にこちらまで届かないように注意を払いつつ泥で足を取れば敵――赤ん坊程の大きさの蜘蛛達が、ぎしぎしと古い家が軋んだような音を立てて、桃李にはそれが悲鳴だと判った。触れた箇所から肉体を冒す毒性を有すのだから当然だろう。更に加えて、視界にはっきりと映らないリジェクションフィールドに働きかけて壊れるように操作をした。嘘をついて、ありもしない身体の不調をあたかも存在すると信じ込ませるが如く。ライセンサーにも出来ないことは山程ある。強者さえ数に屈することがあるように。しかしその点でいうと桃李のクラスは一対多を覆せる可能性が高いだろう。今こうして先手を打った後で挑めるように。
「下準備は完璧、と――」
 戦う前から満身創痍の敵を目の前に、桃李はくつくつと笑い声を零すと、小さく呟いて軽く床を蹴った。かつて館が建てられた時分には仄かに真新しい木材特有の匂い等を漂わせていたであろう床は背に比して細身の桃李の体重に軋み悲鳴をあげ窓に遮られている雨音と雷鳴とが間近に聴こえている。ほんの一瞬の光はカーテンが強風に吹き上がり、雨粒がついた硝子に綺麗な桃李の白い肌に走った入墨とその顔に浮かんだ心底愉しげな笑みを映し出した。全人類共通の宿敵を倒す救世主であるライセンサーだというのに見た目だけで論じるならむしろ自身も悪役に見える――それを咎める人間は誰もいないが。視覚で捉えられない糸に囚われた蜘蛛の一陣を鉄扇で殴った。至極シンプルな攻撃ながらも弱った敵に急所を突き攻撃すればそれなりのダメージにはなる。押し潰された蛙にも似た音を立て一体目の胴体が凹むと、もがき苦しみつつ仲間を助けようとしたかのように横の蜘蛛が襲いかかってくるが、予め察していた為攻撃が来るより先に引き、そうと思えば今度は脚一本を振り下ろしきるよりも早く前まで詰めると返しが間に合わない最適解のタイミングで一旦下がり進む一連の動作の間に溜め込んだ力を閉じた鉄扇の先へと集中し、一気に放出した。
「――ふっ」
 と呼気が漏れ出る。気負いはないが眼差しは真剣味を帯び、うなじ付近で括り付けた後ろ髪と羽織った南天の着物が軽く翻る。一体が沈んでも油断せず、生み出した氷の槍で後陣を叩いた。所詮成態といえども一人で立ち向かうことは推奨されない程の数だが、無尽蔵に増殖はしないのが有難い。嬲るように攻撃してはいつ味方が駆けつけるか考えることもなく戦いに没頭し、すると次第に唇はつり上がっていった。
(――愉しい? ……そう愉しんでいるのかな、俺自身)
 今こうして戦っている現実を――本物の蜘蛛と同等の知能しか持たないであろうナイトメアにでもフェイントは通じるようで無様にも体勢を崩した矢先に左足を軸に体を一回転し、まるでパートナーのいない踊りを踊っているかのような動きで続けざまに両手の鉄扇をぶつける。扇部分を広げた状態で蜘蛛の表面を撫でつければ剣で斬りつけた格好になって、一撃目は抉るだけに留まったところそれを見込み二撃目はより深めに狙った為内臓に達し致命傷に至った。本来であれば貴重な戦力と無茶な状況にはなるべく置かせないようにするSALFの意向から考えると稀なこの状況だ。それを己の能力で覆しむしろ支配する――それを愉しいと思わない人間などどれだけいるのか。血液とも体液ともつかない何かで濡れそぼった鉄扇を放り出すと腰のベルトに下げてあった鞘から小刀を抜き放つ。暗がりの中で銀の刀身がうっすらと輝いているようにも見え、笑みが深くなる。味方やら作戦やらに縛られず戦うことがこれ程愉しいものだと思いも寄らなかった。
「だからといって死ぬのは勘弁願いたいけどね……ふふ、そろそろ流石に真剣にやろうかな」
 こだわり抜いた店と家があって、気に入っている同業者もいて――それでも、人間史に残る異星生命体との戦争の終結の予感に進むべき未来を見失っているけれども。今のこの愉しみ方では心は満たされず、死ねて最高だなんて到底、思えそうもない。ならば戦って戦って、戦い抜いてこの館から脱出しなければ。
 ――そうして今回初めて顔を合わせた味方達ともう一度向き合う十数分後が訪れるまでの間桃李は八割がたの敵を倒し尽くし、墨が走る禍々しい肌の上に返り血を浴びて、しかしだが飄々とした普段通りの態度を崩さずに彼らを出迎えるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
折角のノベルなのでシナリオでの描写の仕方であったり
そもそもシナリオでは有り得ない内容であったりと、
そういった部分を意識しながら書かせていただきました。
戦闘狂というわけではなく、ナイトメアへの意識も
かなり冷静なものですしと、その辺りは崩さないように、
ですが刹那主義的な思考も踏まえ注意を払ってます。
武器を取っ替え引っ替えして無双する桃李さんの様子を
描きたい気持ちもありましたがデバフのばら撒きを
書くのも個人的にはいいかなと思った為こうなりました。
戦いが終結した後は一体どうするのかも気になりますね。
今回も本当にありがとうございました!
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グロリアスドライヴ
2020年10月05日

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