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『輪郭の内側』
cloverla0874


「せんせー、質問でっす」
 clover(la0874)はSALFの飲食スペースでぐれんのわんこを頭に乗せたまま手を上げた。
「なんですかクローバーくん」
 と、尊大な口調で問い返すのは地蔵坂 千紘(lz0095)である。グスターヴァス(lz0124)もいる。
「俺ってこんなに美少年なのにおっぱ……あ、巨乳のおねーさまに全然モテないなんて不公平だと思いますっ」
 大人二人は顔を見合わせた。美少年ヴァルキュリアは極めて真剣な顔をしており、
「今まで俺に声かけてきたのって下心丸出しの男ばっかだし。何で?」
「え、こわ。『ばっかし』って、そんなにナンパされてんの? 未成年に下心丸出しって何だよ。最悪じゃん」
 千紘は眉間に皺を寄せる。
「君、華奢だから力で言うことを聞かせられそうとか思ってんじゃないの? 愛想も良いし言うこと聞いてくれそうとか。え? 信じられねぇ段々腹が立ってきた」
「そっかー」
 cloverはぐれんのわんこを頭からひょいと下ろすと、膝に乗せてもふもふと抱きしめた。
「巨乳のおねーさまにはなんでモテないんだろ」
「巨乳のおねーさま方にとって恋愛に胸が関係ないからじゃない? 別に恋愛って胸でするもんじゃないからでしょ」
「魂でするものですよ」
 グスターヴァスも穏やかな微笑みで言う。cloverと千紘は顔を見合わせた。
「光のない目で言う『魂』ってワードって怖いんだね」
「売り渡したような顔で言うことじゃないよねー」
「なんで!?」
 目を剥くグスターヴァス。千紘はそれを無視して、
「彼女が欲しいの?」
「うーん、でもさ、俺一人のおっぱいに縛られるのは嫌だから彼女とかいらないんだよね。おっぱいが欲しいだけだし」
「フェティシズムってやつ?」
「うーん、何か良い方法ないかなー……あっそーだ。“ラキスケ”があればいいんだ」
 cloverはぽんと手を打った。ラキスケ、それはラッキースケベの略である。転んで抱きついた相手が巨乳で胸に顔を埋めてしまったとか、臀部に触れてしまうとか、そう言うハプニングである。もう一度挙手して、
「せんせーっ、何でパッシブスキルに“ラキスケ”がないんですかー?」
「誰に体を触らせるかを決める権利が当人にあるからじゃない?」
「今日の千紘おにーさん、学校の先生みたいなこと言ってるっ!」
「教師とか絶対無理。子供泣かせそう。それは置いとくとして、その権利って君を下心丸出しの野郎共から守るものでもあるから。そのパッシブつけた奴のラッキースケベの対象が君かもしれないし」
「そっかー」
「変な男が君の体に触って『げへへ、cloverたんのお胸にタッチしちゃった。うぇへへラキスケ無罪』なんて性根の腐ったようなことを言ってても、そんなわけないじゃん?」
「それは気持ち悪いかも」
「この前の銭湯でも似たような話になったけど、結局触るのって時と場合によっては暴力なんだよな。それにだな、仮に巨乳のおねーさまが君に近づいてきて、巨乳触ったり見たりしても良いと言ったとする」
「うん」
 cloverは極めて真剣な顔で身を乗り出した。
「……見返りが怖くない?」
「……え?」
 千紘はにこにこしている。
「見返りだよ。体の見返りは体じゃないかなぁ。ヴァルキュリアなら多少手荒に扱っても大丈夫って思ってる女がいないとも限らないぜ。君たちヴァルキュリアには勿論人権があるけど……それがいついかなる時も完全に守られているなら、警察は存在しないよな?」
「ええ……」
 cloverドン引きである。そんなことを笑顔で言うな。ぐれんのわんこを抱きしめる。千紘は続けた。
「君が巨乳を望むように、少年の体を望む奴もいるってことさ。その望み方が、君の意に沿うとも限らないし。実際そうなって心でも体でも傷を負ったら取り返しのつかないことになるから、充分気を付けるんだよ」
「う、うん……」
「女性から男性へのセクハラもあり得ますからね。勿論同性間でもセクハラはセクハラです。暴力と言い換えることも」
「巨乳にモテるのも大変だ……」
「自分のことを好きな相手の行動まではコントロールできねぇからなー。向こうにとってもそうでそれはお互い様だと思うし……」
 千紘は首を横に振る。
「ま、それは置いとくとして好みは好みだからね。巨乳のおねーさま方も好みはそれぞれだろうし、cloverみたいな子が好きって人はいるかもね。そう言う人と一気にお近づきになる可能性もまあ、ゼロとは言い切れないのでは」
「そうかなぁ」
 期待に胸を膨らませるclover。
「お互いが納得ずくなら一番良いからね」
 そう締めくくった千紘だが、cloverは本人が思っているよりも繊細なのではないか、と勝手に思っている。実際ラキスケが起こったらショックを受けそうな。今無邪気にモテを夢見る美少年の空想に水を差すのも気が引けたが、守ることに長けて、あまり守られることのない少年ヴァルキュリアを心配もしていた。
「まあ、良いことがあると良いね。何か怖いことが起こったらちゃんと誰かに相談するんだよ。もちろん僕たちでも良いし」
「はーいっ!」
 美少年は良いお返事をした。それからはっと千紘の後ろを凝視する。
「巨乳のおねーさん発見っ……! お近づきになれるかな?」
 振り返ると、確かに、cloverの好みそうなタイプの女性が人待ち顔で立っていた。
「ああ言う人が好きなの?」
「俺、胸にしか興味ないからっ」
「いっそ清々しいな」
 小声で言い合う。しかし、その女性は誰かを見付けた様に手を振った。その視線の先にいたのは、若い男性で、二人は再会を喜ぶようなハグをすると、腕を組んで歩き去った。
「彼氏持ちかぁ」
「……」
 cloverはむくれている。ぎゅーっと抱きしめられたぐれんのわんこが、丁度その顔を見上げて面白がっているようなポーズになっている。
「なんで俺はモテないのーっ!?」
 ヴァルキュリアの切実な叫びが、SALFにこだました。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
モテの話からどんどん不穏な方向に行って、どうしてこうなったと頭を抱えておりました。が、未成年が怖い目に遭う可能性を肯定するような内容はフィクションであっても抵抗があって、少々説教臭い内容になりましたがご容赦下さい。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月05日

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